第3話 衝撃
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本日は8時、12時、17時の3回更新です。
■ユリウス歴2569年1月1日 明け方
ユースティア マグナティア 首相公邸
政府の緊急会見から時間は少しさかのぼる。
「あーやっと解放かい」
突然の大地震やら、深夜の眩いばかりの光の明滅やら、各国との通信途絶やら……。
ぬるま湯の中の平和ボケした生活の中、いきなりコレである。
しかも新年早々、こんなことが起こるなんて誰が想像できただろうか?
前代未聞の出来事の連続に、前例に倣うことになれた政治家が多いユースティアのことである。
ユースティアの立て直しを図り、国家としての歴史と価値観、ついでに誇りなんかを取り戻したい総理大臣ノクス・スレインにしても愚痴の1つも言いたくなる。
異変からまだ4,5時間程度しか経っていないにもかかわらず、もう一生分の仕事をしたような感覚であった。
「そういや、哨戒飛空艇が未帰還なんだったか……」
思い出すと頭が痛くなってくる。
一見、平和を保っている世界だが、ユースティア周辺は覇権を狙う国家やならず者国家だらけである。
アマリア帝國に同盟と言う名の首輪を付けられたものの、それでも何とか旭日連の助けを借りて魔導+科学技術を研究・発達させてきたお陰で今の平和がある。
決して戦後に押しつけられた平和憲法のお陰ではない。
状況把握と早期警戒のために哨戒飛空艇を飛ばしたが、この現象がユースティアだけで起こっているはずはないだろう。
恐らく世界各国も同様に混乱の極みにあるはずである。
こんな時に軍事侵攻してくる馬鹿はいないだろうと言うのが閣僚の見解だ。
実際、スレインもそう考えている。
彼はスーツをソファーに投げ捨て、ネクタイを緩めると少しばかり休息を取るべくベッドへ倒れ込んだ。
「総理! 失礼致します!」
「……今度は何だぁ?」
少しは休めると思った瞬間の闖入者である。
内心でイラッとしつつも上半身を起こして尋ねた。
声の主は第1秘書官であった。
大層、慌てた様子で態度に余裕がない。
「ノーツの島嶼、ウズナ島に武装集団が上陸したそうです」
「はぁ? 武装集団? どっかの軍じゃねぇのか?」
こんな時に一体どこの馬鹿だよと思わず頭を抱えてしまう。
と言うかウズナ島に侵攻する意味が分からない。
一応、町や村はあるが人口は1万人程度で、もちろん国防隊も常駐していない。
攻めるならノーツ本島か、ヴェイン本島だろう。
「国籍は不明です」
「ん? 軍じゃねぇのかい?」
「一応、軍旗らしきものは確認できたようですが、どこの国旗とも違うようです」
「てか、何で気付かなかったんだ?」
「哨戒任務が外側に向いていたため、本土周辺は疎かになっていたのかと……」
スレインは思わず頭を抱えた。
しばしの休息のつもりであったが、そうも言っていられない状況であった。
既に災害対策本部を立ち上げ、大地震による被害の調査のために動き始めているが、まさかこの混乱に乗じて敵が攻めてくるとは想定外である。
「魔導通信の途絶は敵の破壊工作か……?」
「総理!」
「分かった。すぐに行く」
スレインは緩めたネクタイを締め直し、スーツを羽織ると佇まいを整え気合を入れ直す。
―――
――
―
すぐに首相官邸の地下戦時指揮所に入ったスレインは新たに戦時緊急作戦本部を立ち上げた。
指揮所内では職員たちが慌ただしく動き回っている。
国防大臣と陸海空の国防トップを召集する。
「国防大臣に命ずる。直ちに厳戒態勢を取るように」
「承知しました」
まずは正体不明の武装勢力から国民を保護することが最優先だ。
スレインの命令通り国防大臣は各所に指示を出すために動き始める。
「最寄の基地から魔導駆逐艦を出す。作戦・指揮の立案は任せる」
「拝命致しました。我らが空防隊の出番ですな」
戦後初の防衛出動である。
何故か航空幕僚長が嬉しそうなのは気のせいだろう。
命令を出したスレインは政治のことに思考を切り替えた。
いくら自衛権の発動とは言え、野党との折衝は必要だ。
スレインは秘書官に野党である民主党、国民党、平和実現党との会合をセッティングさせるため各党首の下に走らせた。
やがて小会議室に各党からそうそうたる面子が集まったと聞き、スレインも足を速めて部屋へと入室する。
「こんな時間に呼び出して何かあったんかいな。地震のことか? 新年早々縁起でもないな」
「この大地震に関することですか?」
皆、呼び出された用件について聞かされていなかったため次々と疑問の声が上がる。誰もが大地震に関することだと考えていたのだろう。
「緊急事態宣言を発令しました。原因は地震もそうですが我が国が他国から攻撃を受けたからです」
「なんやて!?」
「そんな……どこの国が?」
スレインは敵対勢力が不明なことや攻撃を受けたのがヴェーツ本島の島嶼ウズナ島であり、住民が虐殺されていることを告げた。
民主党と国民党の党首の顔色と口調が変わる。
真剣みを帯びた表情は平和ボケしているとは言え腐っても国会議員であることの表れだろう。
「国民を守るのは構いませんが過剰防衛にならないようにして頂きたい」
1人だけ自国民より他国民の心配をしている者がいたようだ。
平和実現党の党首である。
「ごもっともですが、何より自国民の命が優先です。敵国に交戦の意志がある限り攻撃は止めないと考えて頂きたい」
「ぐぬぬ……」
ぐうの音も出ない彼女にスレインは毅然とした態度で言い放った。
「後日、閣議決定を出しますが皆さんにも事前にご了承頂きたくお呼びしたんですよ」
「当然やな」
「流石に異論はありませんよ」
「まずは話し合いを呼び掛けてはどうでしょうか?」
1人寝惚けたことを言っているがこんな党でも一定の支持層がいるのが怖いところだ。
「まずは反撃して島から叩き出すのが先決です。これは決定事項なんです」
流石にこれ以上の反論は身を滅ぼすと考えたのか、平和実現党の党首は押し黙った。情報は流すことを約束し党内の調整を頼んで会合は終了した。
「ふう……何とかなったか。後は迎撃が上手くいくように現場に任せるだけだ。責任を取るのが俺の仕事だからな」
そう呟くとスレインは地下戦時指揮所へと足を向けた。
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