第26話 動き出す世界 ②
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――南東世界・ムー連邦
ムー連邦があるレムリア大陸の南東部にある貿易都市ホルスンクに一隻の巨大戦艦が入港した。
ガラベルム帝國船籍の戦艦〈ガルバスター〉である。
周辺国家担当の外交官ウェッジが大地を踏みしめると周囲を見渡す。
貿易港なだけあって大型の石油タンクやガスタンク、石炭の貯蔵庫などが並び、コンテナの積み下ろしをする大型輸送船が出入りしていた。
近隣の都市には大規模なコンビナートがありパイプラインが引かれているようだ。
「これが列強国の貿易港か。我が帝國とは規模が違うがな……クックック」
ムー連邦の首都イズムードは内陸部にあるため列車での移動となる。
情報によれば動力が蒸気機関のようだが列車を持っているだけでも驚きであった。
超大国を自負するウェッジはわざわざ自分が首都まで足を運ぶのが面倒であったがこれも仕事だと割り切って首都行きの列車に乗る。
車窓から見える景色は帝國の洗練された街並みが広がる大都市などではなく、ただただ自然が広がるばかりであった。退屈で田舎なだけの風景に良さを見い出せず彼は、沸き上がる帝國への思いを強くし目頭が熱くなるのを感じる。
やがてイズムードに到着するとすぐに外務国交局へ向かい受付で傲慢に言い放つ。
「ホルスンクで伝えさせたガラベルム帝國外交官のウェッジだ。すぐに政府高官に取り次げ!」
「ガラベルム帝國の方ですか……聞いてはおりますが長官は多忙ですので局長が対応致します」
受付は特に動じることもなく淡々と職務をこなしていた。
ウェッジは帝國の外交官に下級役人如きが対応するなどと内心で激高していたが何とか自分を抑え込むことに成功する。そしてそれほど時間もかからず部屋に通されると中ではでっぷりとした恰幅の良い髭の男と他数人が立って出迎える。
「内容は聞いていると思うが私がガラベルム帝國の周辺国家担当の外交官である!」
「お待ちしておりました。私がムー連邦政府外務局長のムリーニです。お話はラスタル王国の件でしょうか?」
ムリーニは怒りもせずにウェッジに対して丁寧な口調を崩さない。
その余裕な態度がいつまで続くか見物だと内心で笑いを堪えながらも帝國の要求を伝える。
「いや今日は貴国に最後通牒に来た。直ちに降伏せよ。さもなくば滅びよ」
「な、突然何をおっしゃるのです!?」
「我らが皇帝陛下は寛容だ。この世界は蛮族ばかりのようだがそんな未開の猿共にも慈悲を与えよと仰せである。もう1度言おう。直ちに降伏せよ。さもなくば滅びよ」
平然と言ってのける高圧的な男を前にムリーニたちに緊張が走る。
ラスタル王国があっさりと滅亡したことやイネアス王国などから救援の要請が来ていることは知っているが、列強相手によくもまぁ大言できたものだと感心もする。
「それは我が国に支配下に入れと言うことでしょうか?」
「全てを帝國のために捧げよ。植民地化するだけで許してやると言うことだ」
そう言うと植民地化の条件が書かれた公式文書を片手で手渡す。
「こ、これはッ!? ほとんど奴隷ではないですか!」
「帝國のために働けることを喜べ」
有無を言わせない口調で脅すように話すウェッジにムリーニたちはまともな交渉など到底無理だと悟らせられる。
ラスタル王国を滅ぼした艦隊の強さはムー連邦を凌ぐかも知れないと聞かされていた彼は時間稼ぎをするしかないと判断した。
「これほど大きな判断をすぐに下すことはできません……政府首脳で話し合いますので時間を頂きたい」
「よかろう。軟弱で決断力のない貴国では即断することも難しかろうよ。猶予は1か月だ。返事は我が国が植民地化したラスタルまで伝えに来い」
そう一方的に告げるとウェッジは礼もなく踵を返して退室していった。
最後まで高飛車な態度を崩すことのなかった帝國外交官との会談は大した時間もかからず終了したのであった。
―――中央世界・神聖ヴァルガリア帝國
情報監査部では監査部長のスタッレンが部下たちと情報の精査に関して話し合っていた。この部署は世界中の情勢を収集し分析したものを皇帝と政府に上げる皇帝直轄の機関である。ただハイエルフで耳が長く中々内偵を潜入させにくいため主に周辺国家の現地民などを雇っての調査が多い。
「2か月前に転移してきたとされる国家ですが極東がアルトア王国、ユースティア国、極西がクルセフク王国でアトランティス大陸と繋がり、南東部がガラベルム帝國、極北がトライデン国で北方世界のジーランディア大陸と陸続きになったようです」
「それぞれ動きはあるのか?」
「はい。特に状況が動いているのは極東と南東部でしょうか。極東ではアルトア王国がゼムリア大陸のドゥーリ共和国に占領されましたが同じく極東国のユースティアが介入しております。そのユースティアですがオースティン大陸から伸びるクレア半島のバーグ王国を一方的に破っている模様ですが未だ機械文明なのか魔法文明なのか判然としません。南東部のガラベルム帝國ですがこちらも大きく動きを見せており小国ですがラスタル王国を滅ぼし周辺国家に従属を強いているとの情報があります。こちらは機械文明だと判明しております」
「両国ともに覇権主義国家なのか? また秩序を乱す国家が現れたものだな。場合によっては懲罰する必要があるか……」
異世界ゼノに最初に転移してきた中央世界の雄、神聖ヴァルガリア帝國は世界の調停者と目されており実際に世界を混乱させる国家に懲罰戦争を仕掛けることが多い。
魔法文明であり繁栄した大都市を多く抱えている。
特に帝都ガリアには天まで届こうかと言う摩天楼が建ち並び、魔法技術を利用した高度で豊かな文明を誇っていた。それは見る者たちを魅了し1度訪れた者は必ずその実力を認めて敬服すると言われている。
「ユースティアは安全保障のために外へ活路を求めて動いている様子ですが、ガラベルム帝國は覇権主義国家で間違いないでしょう」
「技術水準は判明しているのか?
「少なくとも海上艦隊を有する程度の技術はあるとかと。まぁ我が国の最新鋭艦隊と戦闘機には及ばないでしょうが」
情報官の様子からは如何に国力に自信があるかがうかがえる。
魔法技術の根幹部分は帝國内で発掘される古代文明の技術を解析応用したもので、それは過去の幾度となく行われてきた戦争により洗練されて現在に繋がっていた。
「極北のトライデン国は列強のランディスに侵攻されているようですし西のクルセフクもアトランティス帝國に併呑されるのも時間の問題かと思われます」
「アトランティス帝國とランディス合衆国は獅子州国家にも圧力をかけているからな。我が国としては奴らの勢力拡大は容認できん」
獅子州は中央世界の北西部にある国家群の総称であり列強国と比べると国土は狭いが比較的大きな国力を有している。相争ってきた国同士ではあるが現在は獅子州連合として大きな軍事力を持つに至る。
「このことは陛下にお伝えする。引き続き列強と新参国家であるユースティアとガラベルム帝國を注視せよ」
こうして慎重に行動してきたつもりの平和主義国家ユースティアも世界一の帝國から目をつけられることとなる。
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