第19話 バルーク沖の戦い(裏)
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本日は12時、18時の2回更新です。
「敵海軍基地の魔力通信を傍受しました。全軍を持って出撃するようです」
護衛艦〈ユリス〉の戦闘指揮所で通信士が艦長のノーリッジ海将に報告をする。
彼はそれを聞いても顔色一つ変えることはない。
旧世界で護衛艦隊による演習は何度も行って必要なことは頭に叩きこまれているが今日は転移後、いや敗戦後初の実戦である。
とは言え泰然自若を是とする彼に驕りも慢心も動揺もない。
「魔力に感あり。敵船団3000。距離20km 散開しています」
「来たか……。戦闘準備」
事前の戦略会議では航空支援として戦闘機Y-15で制空権を確保した後、爆撃機C-2Yで海軍基地、陸軍基地を爆撃する決定がなされている。
隣接する都市内の一般市民に犠牲が出るような攻撃は決してできない。
艦船にかんしては護衛艦の54口径127mm単装速射砲にて対応する予定である。
後は旧世界には存在しなかった飛龍による攻撃の確認だ。
これはこの世界で生き延びなければならない以上、危険を冒しても敵戦力を把握しておくことの重要性からくるものだ。
「確かバーグ王国の戦い方は魔力砲による射撃と船に乗り込んでの斬り込みだったな」
「はい。射程は約2kmと聞いています」
オボロも戦闘指揮所にいて戦いの様子を観戦していた。
その顔は微塵も負けると考えていないほど余裕に満ち溢れている。
「魔力砲では護衛艦や魔導戦艦の装甲は抜けんでしょう」
護衛艦〈ユリス〉の装甲にも魔導強化障壁を展開できるようにしているが、使用しなくとも魔力砲程度では減衰と拡散が激しく効果はないのは実験済みである。
真っ青な海を白波を掻き分けて護衛艦が進む。
ガスタービンエンジンに加えて魔導炉を搭載しているため出力は大きく40ノットは出ているだろう。
流石に鈍足の帆船では比較にならず、双方の距離はぐんぐんと縮まってゆく。
実際は風魔法により推進力は増しているのだがユースティア側は知らない。
「魔導レーダーに感あり。数50。恐らく飛龍隊だと思われます。敵船との距離8km」
「飛龍隊にはエアカバーがあるので無視して構わん。近づきすぎるようなら速射砲で片づける」
戦闘指揮所を沈黙が支配する。
海上国防隊員の黙々と作業する音や機械の音のみが耳に入る程度だ。
「魔力通信を傍受しました。バーグ王国王都ハン・バーグに向けた通信です」
「読み上げろ」
「領海内に巨大船2隻が侵入。臨検の結果、国名はユースティアと判明。帆船と飛龍隊全軍を持って出撃する、とのことです」
「親書の内容は送らないんですね。臨検に来た軍人の独断でしょうか?」
「国王と責任者の逮捕ですし握りつぶしたのかも知れません」
オボロの疑問にノーリッジが推測を口にする。
電波レーダーが飛龍隊の到来を告げ、Y-15が護衛艦の後方から対空誘導弾と対空魔導誘導弾を射出したことを通信士が報告する。
これは大きな魔力を持つ飛龍に対して魔導感知の有無によるそれぞれの誘導弾の有効性を調べることを目的としている。
電波レーダーに映る整然と楔形で接近していた光点が乱れて消えてゆく。
恐らく誘導弾をかわそうとしたのだろうことは想像に難くない。
「敵船団、4kmまで接近」
「よし。速射砲用意。撃ちぃ方始め!」
54口径127mm単装速射砲が火を吹いた。
その正確無比な射撃により敵船団は次々と轟沈してゆく。
まさに蹂躙と言う言葉がぴったりと当てはまるだろう。
「魔導戦艦〈リーン〉から入電。我上昇を開始す。繰り返す。我上昇を開始す」
ここは既にバーグ王国の領海内だ。
魔法国家でありマギロンの存在が確実視されておりマギアニウムを使用できるため機関が魔導炉である魔導戦艦は空を飛ぶことができる。
レーダー上の光点が消失していく様を見て被っていた制帽で目元を隠しながらノーリッジが呟く。
「圧倒的格差だな。見ちゃおれん」
「やる覚悟を持っている者はやられる覚悟もしていなければなりません。もちろん我々にも言えることですが」
「……そうですな。失言でした」
「こちらこそ過ぎた言葉でした」
オボロの言葉にノーリッジがすぐに謝るが所属も立場も違う上、かなりの年上に対しての発言である。
彼もすぐに謝罪を返した。
「予定通り飛龍が2体接近してきます」
「よろしい。攻撃は口から吐く火炎弾か火炎放射だと聞いている。予定通り攻撃を受ける」
護衛艦と魔導戦艦に何とか接近できたと思っている(実際はわざと見逃していたのだが)竜騎士が愛騎に対して攻撃を指示した。
放たれた火炎弾は護衛艦の甲板と魔導戦艦の左舷に命中したようだ。
「状況確認!」
「魔導戦艦〈リーン〉から入電。魔導強化障壁なしで被弾。ダメージなし」
「こちらもダメージありません」
これなら駆逐艦クラスでも問題ないなとノーリッジは一安心だ。
旧世界の発展途上国レベルの攻撃。
少なくともバーグ王国はユースティアに有効打を与えることは不可能であると判明した。
「よし。検証は済んだ。逃げる者以外は殲滅。海上を漂流している者にかんしては救助するように」
「了解」
こうしてバーグ王国バルークから出撃した帆船3000艘と飛龍隊50騎は全滅し守護する者はいなくなった。
後は街に隣接する陸軍基地と海軍基地の機能を停止させるのみだ。
「わざわざ爆撃機に依頼するまでもないかも知れませんね」
どう考えても弾薬の無駄なのは確定的に明らかなのでオボロはダメ元でノーリッジに進言する。
爆撃機を自分の目で見ておきたかったノーリッジであったが確かにもっともな意見だったのでそれを採用することに決めた。
「魔導戦艦〈リーン〉から入電。魔導砲による基地への攻撃の意見具申のようです」
その報告にノーリッジとオボロは顔を見合わせて笑った。
「どうやら考えることは同じようだな」
「ですね」
この後、空からの魔導砲攻撃によりバルーク陸海軍基地は徹底的なまでに破壊されることになる。
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