第16話 党首会談
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本日は12時、17時の2回更新です。
未だ非常事態宣言が出されたまま時間だけが過ぎていく中で政権与党である民自党と旭日党の党首会談が行われていた。
議会内の小会議室には3人の男がソファーに向かい合って座っている。
「あれから2ヵ月になるが公用語……世界共通言語だったか? その解読と習得は進んでいるのかね?」
そう切り出したのは旭日党の党首、カンジ・ウエスギであった。
とにかくやることは多い。
ユースティアとしては多くの国家と平和的な外交を行い国益につなげると言うのが基本方針だ。元日本人であるウエスギも特段、タカ派と言う訳でもないし、平和を希求する者であるため異論などない。
「幸い魔法の助けもあって解読の方は何とかなりました。今は外交官を中心に学ばせているところでして、覚えの良い者は既に習得をしておりますよ」
スレイン総理は自分よりも年上のウエスギには丁寧な言葉を選んで話している。
習得にはもっと時間がかかると思っていたので順調具合に思わず顔が緩む。
現在も外交官、通訳、国防隊員、諜報員などに公用語の会話と読み書きを学ばせている状況だ。
「これでウズナ島を襲った武装勢力どもに鉄槌を下せるな」
「ですな。流石の国民もあの虐殺で少しは目が覚めたようで報復を支持しております」
「まったく異世界に転移したと知った時はどうなることかと思ったが、転移前から進めていた魔導と科学の融合が間に合って良かった」
地球の知識を持つウエスギたち旭日連の元日本人メンバーは旧世界の戦後から科学による発展計画を進めていた。それが今、実を結ぼうとしているのだ。
「しかし、魔導の力を上回るほどの戦艦や兵器などができようとは……いやはや映像を見た時の驚きは今もよく覚えていますよ」
「独自に開発するのは本当に骨が折れたよ。これも旭日連、そして総理たちのような理解者がいたからこそできたことだ。本当に感謝の念に堪えない」
「いえいえ。敗戦後にもやり返そうと言う気概を持った先人がいたお陰です」
ウエスギは感謝の言葉を述べるがスレインは謙遜する。
両者の顔はどこかほっとしていた。
「現有戦力はどうなってる?」
「はい。海上戦力は戦艦8、イージス型戦艦4、巡洋艦12、駆逐艦40、潜水艦10、空母5、戦闘機は制空型150、艦載機200、爆撃機100、哨戒機10、戦闘へり10、輸送ヘリ5です。更にこれらに魔導技術を取り入れる作業に入っています。現有の魔導飛空艇にも科学兵器の搭載などの改修を随時行っていく予定です」
スレインの問いにこともなげに答えるユベール国防大臣。
「戦艦か……まぁ護衛艦なんだが呼び方などどうでもいいか。しかし超弩級戦艦は男のロマンだ。この世界にも大艦巨砲主義の軍があるかも知れないしな」
「超弩級戦艦ですか。就役した護衛艦とは違うので?」
「ああ。マギロンの有無にかかわらず活躍してくれると思うよ」
「マギロンですか……もしかしたら未発見の資源が見つかる可能性もあります。まぁ研究して開発までもっていくには時間がかかりますが夢はありますね」
マギロン、マギアニウムの有無は魔導のみの技術では死活問題になる。
調査の結果、大気中にマギロンが存在するのは領土と領海内(約22km)までであった。
バーグ王国軍がユースティアから本国へ魔力通信を飛ばしても通じなかったのは公海上にマギロンがなかったからなのである。
ちなみにアルトア王国は魔法国家ではないのだが、実は在野に魔法使いが存在するためマギロンがある。つまり魔法も魔導も使用可能だと言うことだ。
「後は我が国に亡命してきた者の件ですが……」
「そちらも分かったのかね」
「ええ。一部領海内に入っている小大陸ですが、アルトア王国と言うそうです。亡命してきたのは第一王子のオリナスさんと護衛騎士2名。国内には金、銀、鉄鉱脈があるそうですがまぁそれは左程重要ではありません。私も報告を受けた時は驚いたのですがアルトアの地は神の祝福を受けていて農作物がよく育つそうです。連作障害などもなく作物の成長スピードが段違いとのこと。聞けば侵略を受けて国民は奴隷の身分に落とされたそうなのでオリナス王子には臨時政府を立ち上げてもらい、国民を奴隷から解放して国交を開こうと考えています。ユースティアで保存していた作物の種を渡し育ててもらえば食糧問題も改善されるでしょう。問題は野党と世論です」
「食糧危機を強く認識させるしかないな。これは我が国の安全保障にかかわる問題でもある。私も報告書は読んだが幸いにも占領した国とは技術格差があるようだし魔導艦で対処可能だろう」
ウエスギは神妙な面持ちながらも勝てる戦だと考えていた。
こちらは食糧問題とは言え、武装勢力と見なすバーグ王国とは違い国家間の争いに介入する形になるため忌避感を抱く国民も多いだろうことが考えられた。
「アルトア王国に仕掛けたのはドゥーリ共和国で間違いありません。現在、同盟国や継戦能力などを調査中です」
「となると先にバーグ王国への報復と賠償だな」
バーグ王国兵への尋問から同盟国はないが、タイカ大帝國と言う宗主国があり朝貢していることは把握済みである。オースティン大陸からは東と南東にのびる2つの半島があり、前者の半島国家がバーグ王国だ。
タイカ大帝國のことも聞き出しており魔法国家であるが飛空艇のような物の確認はされていない。とは言え多くの国の宗主国であり覇権国家と認識されているため介入される恐れがある。
「戦闘機で制空権を奪ってからの空爆だろうな」
科学技術は魔導技術より多くの資源を必要とする。
貿易にしろ占領にしろ資源確保は最優先事項だ。
それだけがウエスギの懸念であった。
「賠償は資源でもいい。早期の確保が必要だ」
「その通りです」
いくら科学技術に理解があるとは言え、スレインやユベールは元日本人ではない。
石油、火薬、電子機器に必要な半導体、LSI、レアメタル。
この世界で手に入れることが可能なのか?
ウエスギはそれを危惧していた。
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