第14話 こちらから行かなくてもあちらからやってくる
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砲撃の轟音が鳴り響き、悲鳴と混乱の声だけが聞こえていた。
離宮にいたアルトア国王たちは状況を確認すべく王城へと走り出す。
少しでも高いところから戦況を把握することが第一だと考えたのだ。
やがて王城のバルコニーにたどり着くと眼下に広がる街が視界に入った。
「おお! 何と言うことだ!」
洋上の黒船からは撃ち出されるものによって城壁や家屋が破壊されているのを見て国王の顔が怒りに歪む。
すぐにでも兵士を送り込み反撃を開始すべきと国王の魂が囁く。
しかし――見たこともない船から繰り出される遠距離攻撃。
あんなものに太刀打ちできるはずがない。
となれば長きに渡り世界と断絶しつつ歴史を紡いできた王国を残すためには。
国王が考えを巡らせていると部屋の扉が勢いよく開かれ兵士が飛び込んでくる。
「陛下! 申し上げます! 臨検に向かったキグオス将軍は敵船に体当たりされ行方不明! 街は大混乱に陥っております!」
「反撃だッ! 父上ッ! 全ての船団を出して斬り込みをかけましょう!」
第一王子がすぐに父である国王に意見具申する。
「うむ……いや、副将軍は何をしておる?」
「副将軍閣下は出撃の準備をしております!」
他の文明を知らないアルトア王国以外の国家はこれほどまでの力を持っていたか。
世界に国家などないと思っていた。
国王は今までの平和は奇跡であり、隔絶されているだけだったアルトア王国の現状を呪った。
となれば――
「出撃はせぬ! 副将軍には民を率いて南に脱出させよ!」
「そんなッ……戦わずして負けを認めるのですか!?」
「陛下……降伏しては?」
王子は抗戦を、宰相は降伏を望むようだ。
降伏を勧める宰相に激昂した王子が掴みかからんとするも国王が一喝する。
「問答無用でいきなり攻撃してくるような国なのだ。降伏など通用すまい……それに戦っても無駄死にだ」
そのうち敵が王都内に雪崩れ込んでくるだろうことは想像に難くない。
相手は強大な力を持つ好戦的な国家だ。
王族は皆殺し、国民は奴隷が妥当なところと言える。
「オリナスよ。お前は今すぐ南に向かい、先程訪れた国へ亡命せよ」
「えッ……は? 何を言っているのです! 父上ッ!」
「言葉は通じずとも少なくとも彼らは対話を試みた。わしはそこに誠意を見たのだ。確かゆーすてぃあとか言っていたがそれが国名であろう。行け! そして力を借りてアルトア王国を取り戻すのだ!」
「しかし……言葉も通じませんし、ましてや力など貸してもらえるでしょうか……」
「オリナスよ。我が国が望むのは平和と国民の安寧のみ。この国の全ての資源を差し出しても構わぬ。それが達成されるならばな」
国王の瞳の中から本気であることを感じ取ったオリナス王子はそれ以上は何も言わなかった。
「まずは話せるようになれ。そして交渉せよ。頼んだぞ我が息子よ!」
「はッ! 父上! 母上! 必ずや為し遂げて見せます!」
オリナス王子は2人の近衛兵を伴って部屋から出て行った。
―――
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――ユースティア
アルトア王国へ派遣していた飛空艇はユースティアのヴェイン本島、セナル基地へと無事帰還していた。
報告を受けたスレイン総理はすぐに閣僚会議を開いた。
「北にある小大陸の国家はアルトアって名前らしいな」
「問題行動ではありませんか? 地図に署名を残してきたのは亡命しろと言っているようなものでは?」
早速、法務大臣が外務大臣に噛みつく。
毎度のことながら一同苦笑いを隠せない。
「仕方ないでしょう。対話に応じるだけまともな国家でしょうし」
「私は攻めてきた国籍不明の艦隊のことを心配してるんです! 問答無用で攻撃を仕掛けるような相手ですよ? 戦火が飛び火しても良いと?」
「結果を恐れず進まなければ国交なんて結べませんよ」
法務大臣が懸念するのももっともなことであったが外務大臣が寝惚けたことを抜かすのでその顔が怒りに変わる。
戦力の保持などを認めたくない思想を持つ法務大臣がそう言う発言をするのは閣僚たちにとって想定内なので誰も何も言わない。
そうは言っても話が進まないので国防大臣が発言する。
「えーアルトアを襲った艦隊はどれも時代遅れの骨董品で我が国が負ける要素はないと聞いております」
「どうして分かるんです!」
なおも噛みつく姿勢に周囲がやれやれと言った雰囲気に包まれる。
「旭日党からの情報です」
「信じられないわね」
「国防隊員の中にも旭日連のメンバーがおりまして、敵艦隊もしっかり見たそうですよ」
「旭日連? あの科学技術に傾倒している団体が?」
自分自身が魔導士の家系なのと、旧世界が魔導を中心に回っていたため法務大臣は科学の力など信じていない。
転移前から科学が魔導を上回る可能性と、他国に先んじて科学技術を確立する重要性を説いていた旭日連のことなど軽視していた。
現実、このユースティアには既に多くの科学技術によって開発された製品などが普及しているのだが魔導が全てだった旧世界から未だ抜け出せていないのだろう。
「まぁ、実際に科学立国らしき国家が現れたんだからおかしな話じゃないだろ? だからこの世界で必ず役に立ってくれると俺は信じてるぜ」
総理のスレインが見かねてフォローを入れる。
彼は科学技術の実力もきちんと把握しているし、もちろん魔導技術を軽んじることもない。
積極的に旭日連との交流を図っていた。
でなければ科学兵器や艦船の開発や運用などに予算を取ったりはしない。
「それに聞けば一方的に襲ってきたって話じゃねぇか。いずれは衝突するだろうさ。今はそれに備えるだけだ」
スレインは哨戒飛空艇ではなく哨戒機を出して周囲の状況を確認する指示を既に出している。
「では次に武装勢力の件ですが、撤退する犯行グループを哨戒機で追ったところその先……南西方向には大陸から東に伸びる半島が確認されました」
「まぁ、接触は言語の解読後になるだろうな」
「言語についてですが分かったことは武装勢力の名前はバーグ、彼らが話す言葉の他に世界共通言語と言うものがあるそうです」
「やはり公用語はありましたな。捕虜……ではなくて犯人の中には公用語が話せる士官もいるでしょうし覚えるのはそちらが先ですね」
この世界に国家がいくつあるのかはまだ不明だが、接触する上で公用語の習得は欠かせない。ユースティアが転移してくる前から存在している国家なら公用語は通じるはずであろう。
「食糧備蓄は8ヵ月、燃料備蓄は6ヵ月といったところです。言語の問題の早期解決が求められますな」
「国外で魔導が使えないとなるとどうしても機械に頼らざるを得ない。石油やガス、レアメタルなんかの確保は重要事項だ」
閣僚会議は続く。
―――
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――中央大陸 神聖ヴァルガリア帝國
ここは世界『ゼノ』にある中央大陸。
そして世界の中心に鎮座する大国、神聖ヴァルガリア帝國。
その帝城の最上階に位置する執務室には1人のハイエルフがいた。
その名をカエサル・イルムート・テラ・アルビオン。この世界に一番初めに転移してきた帝國であり、聖ゼノ暦である4215年以上の歴史を持つ。
帝都ヴァルムート、魔導の力で高度に繁栄した世界一の都市であるという自負が彼にはあった。
「今回の転移国家は5ヵ国か……東に2つ、西に1つ、南東に1つ、北に1つ」
アルビオンⅤ世は目の前にある地図に目を落としながら転移国家が世界に及ぼすであろう影響を夢想する。
大地震と共に空が明滅した刻、異世界から国家が転移してくるのがこのゼノと言う世界であり、世界の中心の皇帝たるアルビオンⅤ世に天啓がくだるのだ。
5ヵ国の正確な位置はまだ不明だが、転移国家については既に政府高官には伝達済みであり情報の詳細が待たれる。
「まったく持って興味深い世界よ……」
髭を手で撫でながらアルビオンⅤ世は不敵な笑みを浮かべる。
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