第10話 新年早々国家転移してクソ忙しいのに旭日連に顔を出してみる主人公の1人
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■ユリウス歴2569年1月2日 13時
ユースティア マグナティア・旭日連本部
正直、面倒なことは嫌いなのだが、新年早々おかしな現象が続けば興味くらいは引かれるものだ。
何故か外務省からは未だ連絡がなかったので暇を持て余していたオボロは首都マグナティアにある旭日連本部に足を運んでいた。本部と言っても多くの人が常駐している訳ではないので、建物自体は左程大きい訳ではない。それでも各地方に支部・工場が存在することからかなりの組織であることには間違いないし、政界では旭日党と言う政党にも人を送り込んでいる。ちなみに連立政権の与党である。
旭日連を創設したのは日本人である。正確に言えばユースティアに転生もしくは転移した日本人であった。伝えられている話によれば、旧世界での敗戦後の混乱期に転移してきた日本人がそのままユースティア国民として根を下ろしたと言うことだ。
ユースティアにはかなりの元日本人がおり、その豊富な知識や技術を使って様々な製品や電子機器、兵器、更には艦艇や戦闘機に至るまで開発していた。
これも全ては魔導や魔法による戦闘の限界を感じたが故である。
国会議事堂や省庁がある中枢地区から少し離れたマグナティア7区に旭日連の本部は存在した。
「こんにちは。オボロですけど」
「おお~オボロさん、あけおめ~! 実家には帰らなかったの?」
「あ、はい。おめでとうございます。こんなことになったんで、実家に居ても爺ちゃんも忙しいでしょうし帰らなくて良かったです」
「会長がオボロさんと話したいって、連絡しようか悩んでらしたのよ?」
「そうだったんですか。すぐに顔出せば良かったですね」
本部で受付や事務作業を行っているレイアは、オボロの背中を押して1階の応接スペースへ座らせるとお茶を入れに向かった。
新年と言うこともあって事務所内は閑散としている。
「(まぁお偉方は忙しく動き回ってるんだろうけど)」
旭日連は様々な分野に、その枝葉を伸ばしている。
政財界に多くのパイプを持つのはもちろん、研究、製造、魔導、魔法などその数は枚挙に暇がない。
そして特に注力されている分野は『科学技術』である。
財力を持つ多くの構成員が資金を投入しており、各地に生産拠点を持つ。
「お疲れさん。オボロくん」
ソファーに深く身を沈めていたオボロに声を掛けて来たのは、よくよく見知った顔であった。科学技師の主任をしているカツキ・トノムラである。
「お疲れ様です。トノムラさん。何か良いことでもあったんですか?」
その表情がいつもより緩んでいたためそう判断したのだ。
トノムラは向かいのソファーに勢いよく腰を下ろすと口を開いた。
「ああ、以前から開発していた戦闘機が絶賛量産中だ。新しい戦闘機もテスト中だしな」
「えッ……後継機も魔導なしの戦闘機ですか!?」
「その通りだ。出力の増したジェットエンジンの耐久テストは上手くいってたし、テストフライトも繰り返した。もうかなりの台数が出来ている。もちろんマギロンやマギアニウムが無くても飛べる」
魔導なしの完全な科学力のみでの兵器開発の目途が立ったとなれば、この異世界でも大いに役に立つのは目に見えて明らかだ。そもそも旧世界でまた敗戦しないために科学技術を磨いてきたのである。
電話で祖父から哨戒飛空艇やウズナ戦役のことを聞いていたオボロは、そのタイミングの良さに思わず表情を綻ばせる。
「戦闘機に関してはかなりの性能向上が見込めますね。飛空艇相手じゃ無双できるんじゃないですか?」
「そりゃあな。速度が違いすぎる。勝負にもならんよ」
護衛艦のような船にいくつもの上向きのプロペラがついている飛空艇や、ドローンのような哨戒飛空艇の出せる速度などたかが知れている。せいぜい時速300~500kmと言った所か。
「テスト機のY-20Tの速度はマッハ2.5以上はいくからな」
「空の優位性が確保されますね。武器はどうなっているんですか?」
「君が意見を出したヤツか……。対艦ミサイルや空対空ミサイルは魔力検知の魔導誘導弾を量産中だ。もちろん魔導なしの誘導弾もな」
「それは重畳です。科学技術と魔導技術が組み合わさればより強力なものになるでしょう」
オボロは日本での知識が異世界ユースティア、ひいては異世界でも通用しそうなことに安堵する。実を言うとオボロは2055年の日本からユースティアがあった世界へ転生してきた転生者であった。その時には大いに驚いたものだが、ユースティアの世界は奇しくも日本が歩んできたような歴史を持っていたことにも驚かされたことを今でも鮮明に記憶している。そして今度は国ごと異世界転移ときたものだ。どんだけ波乱万丈なんだよとツッコミたくなるくらいは許して欲しい所であった。
「それにレールガンや核融合炉も実用化の目途が立ったし、これから次々と実装されていくだろうな」
「もうこの国を敗戦国にする訳にはいきませんからね」
オボロたち旭日連の元日本人たちは皆知っている。
地球での敗戦の歴史もユースティアでの敗戦の歴史も両方とも。
「でもそうなると問題は資源なんですよねぇ……」
「そうなるよなぁ……」
この世界の国際事情など知る由もないことだ。
現政権の議員たちも大いに頭を悩ませているだろう。
「しっかし兵器の増産体制が整ってからの国家転移とはなぁ」
「まだこの世界にどんな国家があるか不明ですからね。戦争は何としても避けたいですが脅威がある可能性を考えると幸運とも言えますね」
旭日連に野心はない。
科学技術を使って兵器などの開発を行うのももう二度と悲劇を繰り返さないため。
ひいては二度と負けないためのものだ。
「まったく旭日連の先達のお陰だな」
旭日連のメンバーは3000万にのぼる。
そしてその大半が元日本人だ。その他は理念に賛同してくれた国民たちである。
ユースティアに元日本人が転生してくるのは同じような境遇からだろうか。それとも旭日を御旗にする民族だからだろうか。
「とにかくまだまだ分からない世界です。備えあれば憂いはありませんから」
オボロはこの未曾有の事態から国を全力で護ることを誓うのであった。
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