香水(ロク)
「ロク、おはよう」
リビングへと行くと、ロクがいた。
黒焦げになった何かを口に頬張り、眉間に皺を寄せている。
「おはよう。食べるか?」
「……い、いや遠慮しとく」
わずかに肉の香ばしい匂いが漂っている。黒くてわからないが、肉を食べたくて焼いたのだろう。
私は冷蔵庫からイナトが作り置きしてくれていた料理を取り出す。
ロクの隣に腰を下ろし、料理を食べる。
隣からは、ガリッ、ゴリッと本当に食べ物を食べているのか疑問に思うほどの音がする。
「……食べる?」
「大丈夫だ」
山になっている黒い塊を着実に食べていき、最後のそれを食べ切った後は、ご褒美の甘めのジュースで口をすすいでいた。
一息したかと思えば、私をじっと見つめた。
私もすでに料理は食べ終えており、与えられるものは1つも残っていない。これで、足りないと言われても今から何か作るしかない。
「……何?」
「リンから甘い匂いがする」
どうやら手元ではなく、私の方を見ていたらしい。
椅子を私の方へ寄せたかと思えば、ロクは私の体を念入りに嗅ぎまくる。
犬が匂いを嗅ぐかのような感覚に、思わず受け入れてしまった。が、首元を舐められた瞬間、ロクの顔を手で覆い遠ざける。
「私本体は甘くないから!」
「じゃあ、発生源はどこだ」
私の手によって歪む頬。だが、ロクは気にすることなく、私をずっと見つめている。
「……多分香水じゃないかな。今日はチョコレートっぽい甘い匂いのをつけたから」
「チョコレート……」
私の手をすんすんと嗅ぐ姿に、私は顔を引き攣らせた。
イナトやルーパルドであれば「変態」と言うところだが(そもそもイナトはそんなことしないはず)、ロクは世間知らずのため怒りにくい。
「私と同じ香水、つける?」
「いらない。リンの隣にいればいつでも嗅げるだろ」
「それは、そうだけど……流石に毎回嗅がれるのはちょっとなぁ」
イナトとルーパルドが入る前で嗅がれると、きっと変な雰囲気になるだろう。
第一、至近距離でイケメンに匂い嗅がれるのは恥ずかしい。
「リンも俺の匂いを嗅げば良い。前に、俺の匂いは安心するって言ってただろ」
「えっ!? そんなこと言った!?」
「言った。酒を飲んでる時だったし、忘れてるだけだ」
そう言ってロクは私を抱きしめ、思いっきり匂いを嗅ぐ。
まるで猫吸いをされているような感じだ。もちろん私は猫ではないので、例えが合っているかは謎だが。
「ふ、ふふっ、あはは! くすぐったい! ちょ、ほんとやめて」
離れようともがくが、鍛え上げられた腕には敵わない。
このままでは笑いすぎて酸欠になってしまう。
やっと体を離してもらえ、私は呼吸を繰り返す。ついでに暑くなってしまった頬を冷やすように手で風を送った。
そんな私の姿を見て、ロクは目を細めた。
「……他の男にその顔は見せるなよ?」
「ロクのせいなんだけど!?」
どんな顔をしていたのかは、聞いても教えてもらえなかった。




