香水(ルーパルド)
よし、ルーパルドに香水をあげよう。
そう思ったのは、以前「香水をつけてる男ってかっこよくないです?」と子供っぽい発言をしていたのが印象的だったからだ。
早速1人で香水を買いに、男性用の香水が置いてあるお店へと足を運んだ。
ルーパルドの好きな匂いは知らないので、今回は私が好きだと思った香水を渡そう。
そう思い片っ端から香水を嗅いでいった。側から見たらかなり異常な姿だっただろう。
やっとこれだ! と思った匂いを見つけ、店員さんに包んでもらう。その時、「そこまで考えて選んだって知ったら、きっと彼氏さん喜びますね」と微笑ましそうに言われてしまった。
ちょっと照れるなと思いつつ、せっかくなのでその香水を振りかけて欲しいと頼んでみた。
店員さんは一瞬驚いた表情を見せたが、「もちろん構いませんよ」とニコニコでかけてくれた。
好きな匂いを身にまとい帰宅。
寄り道もせずルーパルドの部屋をノックする。
すぐにルーパルドが出てきて、だが私の顔を見るなり不機嫌そうな表情。
「何? タイミング悪かった?」
「違う。リンから男ものの香水の匂いがするんだけど?」
「ああ、これね。これは――」
紙袋を掲げ、ルーパルドに説明しようとしたところ、紙袋を奪われた。
「男からもらったのか?」
いつも明るい声で笑顔の多いルーパルドが、声を低くしてまるで睨むかの様に私を見つめていた。
「なんで男から男ものの香水もらうの」
「じゃあ、なんでリンがその匂いをつけてるわけ?」
「私が好きな匂いをルーパルドにあげようと思って買ってきたやつ。ルーパルドはこの匂い好き?」
「は……?」
ルーパルドは鳩が豆鉄砲を食ったような顔で動かなくなった。
目の前で手を振ってみると、ルーパルドは「あー……」と口元を隠し上を向いた。まるで私に今の顔を見せたくないかのような動作だ。
「じゃあ、これ俺のために買ってきてくれたってこと?」
「それ以外何があるの? じゃないとわざわざ持ってこないよ」
「……それもそうか。開けて良い?」
「もちろん。嫌いな匂いだったらごめんね?」
「いや、リンの付けてる匂いなら全然。むしろ俺も好き」
紙袋から香水の入った箱を取り出す。その時に覚えのないメッセージカードが足元に落ちた。
「書いた覚えないんだけどっ!?」
書かれている文字を見て、咄嗟に私はカードを握りつぶした。
「ちょ、ちょっとそれ俺宛でしょ? なんで握っちゃうの」
「読まなくて良い。読まなくて良いから! こら、こじ開けるなー!」
無理やり手をこじ開けられて、ルーパルドにメッセージカードを奪われる。
そこには"何時間もかけて香水の匂いを嗅いで決めてましたよ"という文章。
確かに私はかなり時間をかけて選んだ。間違ってはいないのだが、それをわざわざ本人に伝える必要はないはず!
「可愛すぎない? なんで隠そうとしたの? 恥ずかしいの?」
「聞かないで。ルーパルドの好みを知らなかったから私好みのを買っただけなの」
「そもそも、自分の好きな匂い確認してまで俺に香水をくれるって時点で、かなり恥ずかしいことじゃない?」
「うるさいな! もう返して自分でつける!」
「やだ。もうこれ俺のだから。……嗅ぎたくなったら俺のもとにおいで?」
奪い返そうとルーパルドに寄った瞬間、ルーパルドに抱きしめられてしまう。
耳元で言われたせいもあって、恥ずかしくて死にそうになった。