香水(イナト)
イナトのつけてる香水、良い匂いだよなぁ。
いつも思っていたことだった。優しく、それでいて男性用だと思わされる少し重めな匂い。
嗅いでいると落ち着いてくる。リラックスしたい時なんかに使えるとよさそうだ。
そんなことを思い、1人でメンズ香水を買いに行った私。
イナトの香水は部屋に入った時に見た目を覚えていたので、すぐに同じものを見つけられた。
私は匂いも確認せず購入。
プレゼントですか? なんて聞かれて「いいえ」と答えられる度胸はなく。「はいそうです」と頷いてしまい、プレゼント包装をされてしまった。
まあ、いいかと手渡してもらった香水の入った紙袋を持ち帰宅。
早速部屋へと入り、自身に振りかけてみる。だが、イナトの時に感じた癒し効果は得られなかった。
匂いは同じはずなのになぜだろう。振りかける場所で変わるのかもしれないと試してみるが何も変わらず。
最終的には風呂に入り香水の匂いをリセット。まだ少しだけ匂いが残っている気がするが許容範囲だ。部屋へ戻ろうとしたところでリビングにイナトの姿を見つける。
私はイナトに渡したいものがあると言い残し、駆け足で香水を部屋から持ってきた。
「使いかけだけどあげる」
私の手元を見てイナトは目を瞬かせる。
「なぜ男物の香水を救世主様がお持ちなのでしょうか」
「なんでもいいじゃん。イナトこれ使ってたでしょ? だからあげるよ」
「よくありません。何故持っているのか聞かせてくださいませんと」
教えないといつまでも聞いてきそうだ。私はイナトを指差し言う。
「イナトの匂いが好きだったから自分で買ったの」
「なるほど。…………え?」
「でも、自分に振りかけてもその匂いにならなかったからあげる」
「ええ??」
同様の声をあげつつ、顔を真っ赤にしている。おまけに嬉しさで上がってしまう口角を必死に下げようとしている。
見ていて面白い。
「イナトの匂い、嗅いでみても良い?」
「えっ、あの。……救世主様ならいくらでも、どうぞ?」
動揺しつつも了承してもらい、私はイナトの隣に座る。どぎまぎとしているイナトを他所に私はイナトの匂いを嗅ぐ。
やはり良い匂いだ。しかし、今日はまた少し違う匂いな気がする。
「イナト、別の香水と混ぜて使ってたりする?」
「いえ、それはないです。……もしかしたら僕自身の体臭と混ざってる匂い、とかですかね?」
「なるほど。それはあるかも」
自分で言っておいて恥ずかしくなったのか、イナトは少しだけ私との距離を置いた。
「そういえば、匂いで相性があるって聞いたことあるなぁ。香水つけてないイナトはどうなんだろう」
「……知りたいですか?」
「いや、やめとこう」
私はソファから立ちあがろうとした。しかし、距離を置いていたはずのイナトが私に覆い被さるようにして逃げ場をなくす。
「思う存分堪能してください。言い忘れていましたが、僕は今日香水はつけていないんですよ」
「……え?」