もしも最初に出会ったのがロクだったら
2話のイナトと出会うシーンのもしも編です。
誰もいないことを確認して、私は砦に足を踏み入れた。宝箱のマークがミニマップに載っていたのでそれを探す。
背中がぞわりとして咄嗟に振り返ると、そこには襲いかかる直前の男がいた。
「殺す」
「うわぁ!」
よく避けたと自分を心の中で褒めつつも、全身黒ずくめの男と睨み合い。チュートリアルを終わらせてすぐの敵ではないだろと思うほどの凄まじい殺気。思わず怯んでしまいそうだ。
「俺の攻撃を避けるか」
「なんでいきなり襲ってくるんですか!?」
砦には何も映っていなかったはずだ。それなのに人が出てきてしかも殺す気満々など、どういうことだ。加えて騙し討ちなんて、序盤のくせに卑怯すぎる。
「俺は救世主は殺すよう依頼されている」
「私が救世主じゃない可能性は考えないんですか!?」
「? 女が1人でこんな辺鄙なところを歩くことなんてないだろ」
男はさも当たり前のようにそう返す。この世界の女性は女のひとり旅なんてことはしないのだろうか。
「救世主殺したらお金もらって終わりですよね? なら出世払いにはなりますけど、ボディーガードとして雇われてくれませんか? 長期でお金がもらえますよ!」
「出世払い? 俺は不確かな契約はしない」
不可解なのだろう。男はすぐに拒否した。だが、このまま引き下がって殺されるわけにもいかない。
痛いの嫌だ。あと、こんな序盤で初死を迎えたくない。
「手持ちのお金、全部あげますから!!」
手持ちは今1万程度。この世界で高いのか安いのかはわからないが、もうこれしかない。
男は私が差し出したお金を手に取り眺めた。足りなかったのだろうか。男を見れば、口角はあがっていた。手応えあり?
「……なるほど、誠意を示すために全額を払う、か」
「ダメ、ですかね?」
男は金を懐に納め頷く。
「お前は弱そうだし、お前を殺しにきた奴を相手にする方が面白いかもしれないな……。乗ってやる」
「よ、よかった……。私、凛って言います。貴方は?」
男は私にコインのようなものを渡してから言う。
「渡者のロクだ。ここで少し待っていろ。依頼者を片付けてくる」
コインのようなものに気を取られていたが、今物騒なことを言わなかっただろうか。
「片付けってなんですか!? それって何するんで――あ、いっちゃった」
先ほどまで私の近くにいたのに、ロクはもうかなり遠くまで行ってしまっている。
その後、片付けてきた。と汗ひとつかかずに帰ってきたロク。
先程もらったものよりも少し質が良さそうなコインと交換し、満足そうにロクは少しだけ笑った。