車
その後、予鈴がなってマリエルたちは慌てて授業に向かった。
昼休みの後は体育のクラスだった。
マリエルは髪を一つに纏めてバトミントンのラケットを握っていた。
色々あった中学時代。マリエルはクラスメイトから避けられていたこともあって、体育などの生徒同士が協力する類のものは先生たちが補習をつけて通してくれた。
つまり、マリエルは一人で出来ないスポーツ系はボロボロだ。オリビアが組んでくれたが迷惑をかける事態しか思いつかない。
実際、想像通りになった。マリエルは必死でシャトルを追ったが、上手く打ち返せなかった。相手チームの子たちは苦笑いしながら優しめに打ってくれたし、オリビアは励ましてくれた。優しさがツラい。
ふっと視線を感じてそちらに目をやると体育館の隅にルークスがいた。俯いて手で口もとを隠しているが小さく肩が揺れている。笑っているのをごまかしてる。マリエルは首の後ろから耳、頬まで恥ずかしさで染まっていくのがわかった。
きっとルークスはマリエルとは別のことで笑っているんだ。そうに違いない、と思ったのにルークスと目がバチっと合ってしまった。息を呑む。吸い込まれそうな綺麗な目。ルークスが明らかに表情を消してマリエルから目を逸らした。やはりルークスはマリエルを見て笑っていたらしい。
マリエルにとってルークスはとんでもなく失礼な人だ。明らかに避けているくせにマリエルのことを笑って腹も立つ。
それなのに、あの美しい男の子の笑顔に目を奪われていた自分に恥ずかしくなった。
初日の授業をなんとか終えて、マリエルはオリビア達と別れた。
マリエルは学校から帰る時はスクールバスだ。
この国では運転免許は16歳から取得できる。生徒はほとんどが自分の車を持って運転してくる。オリビア達もそうだった。マリエルは運転免許を取得していたが、引越しで忙しく車を持っていなかった。
バスの運転手さんにありがとうございましたと伝えてバス停から歩いて帰宅する。
叔母アンナの家は二階建てのコロニアル様式の家だ。
道路に面してないところにはプールもついている。管理が大変じゃないかと思っている。掃除の人を呼ぶんだろうか。
「ただいまー!」
マリエルが帰宅するとアンナが顔を出した。
「おかえり、マリエル。ご飯は簡単にピザでもいい?ちょっと忙しくて用意できなかったわ」
「全然!料理好きだからあれだったら私作るよ」
「え、うそ!助かる!私料理が苦手で。マリエルありがとう! …あっとそうじゃなくて、 マリエルにプレゼントがあるの!こっちよ」
アンナはガレージにマリエルを案内した。
そこにはアンナが普段から使っているポルシェのSUVの他にシルバーの車があった。中古車みたい。ホンダのシビックだ。
「ボルボとかベンツとかも考えたのよ。でも首都高校はレベルが高いから富裕層の子もいるけど、私立じゃないから一般の子もおおいでしょ。学生のうちはお金持ちでも中古車しか買わないって親も多いわ。マリエルは目立ちたくないかな?と思って」
マリエルは嬉しくて飛び上がるかと思った!私の車だ!私だけの!
「アンナありがとう!すごく嬉しい!」
目立たないのが更にいい!目立ってもいいことばかりじゃないのはすでに中学で嫌と言うほど経験している。
アンナの家には一階に浴槽、シャワールーム、洗面台のあるバスルームと二階にシャワールーム、洗面台のあるバスルームがあった。 トイレはそれぞれ各階に独立してある。
一階にはアンナの主寝室もあることから、一階のバスルームはアンナ、二階のバスルームはマリエルが使うことになった。 浴槽は使いたければ使っていいとアンナは言ってくれたが、マリエルは面倒なので基本的に普段体を洗う時はシャワーだけだ。お風呂は週末にゆっくり浸からせてもらえるようにお願いした。
アンナとピザを食べた後、シャワーを浴びて髪を乾かした。 マリエルはベッドに寝転んだ。
今日の一日を思い返す。
避けられてるのかもしれない男の子のことを考えると気分が落ち込む。
マリエルは必死で良いことを思い浮かべる。
少し緊張したけど四人の子とは仲良く出来そう。エミリーとオリビアと今日仲良くなれたのは本当に嬉しかった。
車をもらったから明日からはバスの時刻を気にせずに図書館に行ける。今日は課題がなかったけどレポートとかの課題が出たらやはり図書館とかで勉強したい。
マリエルは明日からのことを色々考えていたら、いつの間にか眠りに落ちてしまった。