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夜明けの星  作者: 糸川
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春といえば



初登校日。

教室でマリエルは嫌な汗をかいていた。



朝、教室に行く前に念のため、職員室に行き担任してくれるスタイン先生に挨拶した。

スタイン先生は大柄な男性教師だ。にこにこ優しげな顔と揺れるお腹がなんだか可愛い。

スタイン先生の笑顔につられてマリエルもなんだかふわふわ笑っていた。

「マリエルくん。教室の位置もわからないだろうし一緒に行こう!その時に君の紹介も出来るしね!」

マリエルの笑顔は消えた。



スタイン先生と一緒に他の生徒の待つ教室に入り、必死に笑顔を作って何とか無難な自己紹介を終えた。

転入生とは言え二学年の年度始まりに入学するから、さらっとした紹介で終わるだろうと思っていたマリエルは一気にぐったりした。



一部、男子生徒からはジロジロ見られたが、女子からは目が合うと笑顔を返された。マリエルは内心ホッとした。なんとかやっていけそうだ。



「マリエルさん、隣の子に教科書見せてもらってね。次の数学の授業は僕がこのまま受け持つから」

と、スタイン先生が言った。



スタイン先生の指示した席は、教壇から向かって右、教室の一番後ろの窓際の席の隣だった。

焦って転けないよう気をつけて席に向かうと、ずっと窓際から外を見ていたマリエルの隣の席の男の子がこちらを見た。目が合った。



──瞬間、マリエルは時が止まったように感じた。

赤褐色のブロンドのウェーブがかった髪が無造作にセットされている。雑誌から抜け出してきたみたいだ。彼の瞳は明るい青がかった緑で、そこから目を逸らすことが出来ない。なんだか怖い。蛇に睨まれたカエルってこんな感じ? 魂を吸い取られそう。



なんとか視線を引き剥がすように下を向き、何とか席に着く。何だかまだ見られているような気がする。

周りをそっと伺うと時間がかかったように感じていたのは自分だけで、他の生徒は授業の準備を始めていた。

無意識に息も止めていたみたいでマリエルはこっそり息をついた。



「ねぇ」

左から声をかけられた。

「俺、ルークス・オベール。今日からよろしくね」

ルークスは綺麗な歯を見せて笑っている。笑顔が眩しい。


ルークスは教科書を マリエルに差し出した。

「今日やるとこ予習してきたから、教科書つかっていいよ」

マリエルは驚いて申し訳ないから一緒に見ようと言ったが、大丈夫、気にしないでと言ってルークスは前を向いてしまった。


マリエルは仕方なく授業に意識を向けながら思った。

さっきは何であんなに怖いと思ったんだろう。格好良くて普通に親切な人だ。



マリエルはルークスの美貌に目を奪われて違和感に気づくのが遅れた。授業の終わり頃にマリエルは気づいた。ルークスはこっちを見て笑っていたけど目線が一度もあっていなかった。



チャイムが鳴りおわると同時に、ルークスは風みたいに教室を出て行ってしまった。マリエルは教科書を返そうとルークスの方を伺っていたがタイミングを逃した。仕方なくありがとうとメモを残してルークスの机に教科書を置いた。もしかして避けられてるのかもしれない。



昼休み、マリエルはカフェテリアでご飯を食べようしていると後ろから声をかけられた。

えっとたぶんオリビアって子だ。ピュアブロンドで健康的な笑顔の子。綺麗に日に焼けた肌が素敵。

「良かったら私達と食べない? あそこの席!」

そこに座っていたのはクラスメイトのジョーダン、マイク、エミリーだった。お誕生日席に何も置いてない席が用意されている。三人ともこちらを伺っていてマリエルが視線を向けると笑顔を返してくれた。

「ありがとう!お邪魔しようかな」

ルークスのせいで落ち込んでいた為、誘ってもらえたことに素直に嬉しくなってマリエルはオリビアと三人の座っているテーブルに向かった。



いきなりグループにお誘いされてのランチだったが、マリエルは思っていたより楽しめた。

誘ってくれたオリビアは明るい雰囲気のイメージそのままにチアリーディング部に所属していて今はバスケットボール部の応援をしているらしい。

マイクは成績優秀者でブラウンヘアにヘーゼルの瞳を持った落ち着いた雰囲気の男の子だ。良いところのご子息に見えると思っていたが実際そうらしい。

エミリーはマイクの彼女で幼馴染だ。ふわふわの赤毛に澄んだ緑の目をしている。マイクと同じく名家のお嬢さまらしい。本が好きらしく話が合いそうだ。気づかなかったがマリエルの右隣の席はエミリーだった。

ジョーダンは褐色の肌に黒いカーリーヘアのがっしりした体格の男の子だ。バスケットボール部に所属していてその兼ね合いでオリビアと知り合ったらしい。

見た目優等生なマイクとスポーティで色気のあるジョーダンは見た目からは想像がつかないくらい仲がいい。マリエルは知らなかったがジョーダンの父が有名なバスケットボール選手で、マイクの父と仲が良く昔から家族ぐるみの付き合いらしい。


「なんで二学年から転入したの?」

ジョーダンがマリエルに尋ねた。

「母が再婚して新婚ラブラブだから、田舎から都市に住んでる叔母の家に逃げてきた!」

マリエルは軽く言うと四人は親のラブラブはちょっと気まずいよねーと笑ってくれた。

転入初日から重ための子とは思われたくない。マリエルは内心ホッとした。


「でも、彼氏とかいたんじゃない? 」

ジョーダンから聞かれてマリエルは驚いた。家のことがこれ以上出たら話題を変えようと身構えていたので、こういう質問が来るとは思っていなかった。

「あーー、そういう人はいなかった。モテなかったの」

正確にはモテなかったどころか避けられていた。

「それは無いだろ!少なくとも良い雰囲気のやつはいただろ?」

「ないないない!そういう人がいたら今ここにいないかも!好きな人すら出来たことないからわかんないけど」

マリエルがそう答えるとジョーダンは目を丸くした。

「マジかよ。今日、マリエルがめちゃくちゃ可愛いって男子陣すげー盛り上がったんだぜ。その見た目でどうやったら彼氏が出来ないでいられるんだ」


思いもしなかったことを言われてびっくりするのと同時に、教室でなんだか値踏みするみたいにジロジロ見てくる人もいたなと思い出した。



マリエルはなんと返したらいいかわからなくなっているとオリビアが庇ってくれた。

「マリエルはきっとジョーダンと違って簡単には付き合

わない子なのよ」

オリビアは形のいい眉を片方あげてジョーダンを軽く睨んだ。

「おーい、オリビア。誤解されるようなこというなよ。

俺そんな浮ついたことしてないだろ」

「浮気はしないけど真剣じゃないってすぐフラれるくせに。この前は大学生の女の人で二ヶ月くらいで終わってなかった?」

「...なんで知ってるんだよ」

「噂ってすぐ回るのよ。私はジョーダンと違って好きになったら一途だから理解できないわ」

ジョーダンは頭を抱えて女子の情報網、怖えーと小さく呟いた。


マイクは声を殺して笑ってるし、エミリーは困った顔をしながら咎めるようにジョーダンを見ている。

オリビアはジョーダンの形の良い頭を見下ろしている。オリビアは怒ったような表情をしているが、口先がスネたように少し尖ってる。

マリエルは気づいた。

オリビアはジョーダンが好きなんだ。



マリエルの後ろから横をふっと誰かが通った気配がした。

目だけ動かして確認するとルークスだった。少し伏せた長いまつ毛ときゅっと締まった顎のラインが綺麗だ。ほんの一瞬だけ目が合ったような気がしたがきっと気のせいだ。彼はカフェテリアのドアの方向に颯爽と去って行った。格好いい人は歩く姿まで綺麗なんだな。ここまで来るとなんだか嫌味だ。



「彼、すごく格好いいよね」

オリビアが マリエルの様子を見て言う。


「うん。あの人なんだかすごい雰囲気あるよね。モデルか何かしてる人?」


「え?いや、そんな話は聞いたことないし違うんじゃない? 一年の時からむちゃくちゃ格好よくて有名で人当たりも悪くはないんだけど、ルークスくんが誰かと仲良くしてるとこ見たことないんだよね」


「そうなんだ」

マリエルはそれを聞いてルークスが妙な態度をとるのは単にそういう人なのかと思ってホッとした。

避けられてるのかもって自意識過剰だったな。


「でも、さっきの授業の時は変だったよね」

エミリーはそう言って綺麗な緑の瞳を揺らしてマリエルを見た。

「マリエルは教科書返そうと明らかにルークスくんの方見てたのに、あんな風に教室出て行くことないよね。ルークスくんいつも笑顔だけどあからさまに事務的で周りと距離取るのは知ってるけど、あんなに態度悪いの初めて見たかも」

と、エミリーは言うとオリビアも頷いた。


「マリエル転入生だし、何となく私も見てたんだけどすごく失礼だったよね!…でもすごくお腹が痛かったかマリエルがあまりにも可愛いから恥ずかしくなっちゃったのかも!」

顔色を変えたマリエルを心配してオリビアがフォローしてくれた。

きっとお腹が痛かっただけだ。マリエルは願った。ルークスが教室を出た後、トイレとは逆方向に向かっていたのは考えないようにした。










ルクスの髪色はAuburn blonde。

赤毛じゃないよ!

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