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初めての友達、初めてのクリスマス会、初めてのプレゼント。

作者: 坂東さしま

メリークリスマス!

 凛は生まれて初めて友人の「クリスマス会」に呼ばれた。


 小学校4年生で今の小学校に転校、内気で受け身なためになかなか友人ができなかったが、二学期の席替えで隣の席になった翔太と打ち解けることができた。彼とは好きな漫画とYouTuberが一緒で、さらに、兄同士が中学のクラスメイト。そういう共通点から話が弾み、友人となり、このたび、クリスマス会に呼ばれたのだった。


 と言っても、翔太が進んでクリスマス会を開催しているわけではない。彼の母が「息子の友人たちのため」と称して、いい母アピールの見栄でやっているだけ。翔太も最近ではそれを理解しており、面倒ではあるが言うことを聞かずに母がヒステリックになるのも辛いので、いや嫌ながら「友人たち」に声をかけていた。ちなみに、友人らは美味しいケーキやお菓子が食べられるので、意外と楽しんでいる。自分から進んで「今年のクリスマスも行くからな」という輩もいる。


 しかも、何人以上は集めるようにと、ノルマまであるのだ。それは今まで誰にも告白していないが、翔太は凛にだけ、ノルマについても説明した。


「まあ、そんな会だけどーー」


「行きたい!」


 凛は即答していた。これまで親しい友人がおらず、誕生会もクリスマス会も、自分には関係ない、むしろ異世界のイベントのように思っていた。それに誘われたのだ。やっと、親しい友達ができたようで、凛は舞い上がった。


「分かった。でさ、悪いんだけど……」


 それから、翔太は下を向き、無言になってしまった。凛はなんだろうと気になり、尋ねた。


「なあに? 何が悪いの?」


 翔太は唇をもごもご動かし、息を吸って、顔を上げた。


「プレゼント交換やるんだ、毎年。それで凛にもその、プレゼント一つ用意して欲しいんだけどさ……」


「分かった。どういうものがいいのかな」


「何でもいいよ。適当で。ほんと適当でいいから」


「適当って。みんないつも何持ってくるの?」


「あー……チロルチョコとか、そんなんでいいから」


 本当は適当でも何でもない。彼らが住む関東某市のこの地区は貧富の差が激しく、翔太の家は富の方だ。クリスマス会にくる友人たちの家も富で、なかなかの品を用意してくるのだ。流行りの玩具や図鑑、値のはる文房具の詰め合わせなどなど、子供の会を超えている。


 一方、凛はどちらかといえば貧である。転校してきた理由は親の離婚であり、今は母と兄と暮らしている。母は介護士なのだが、これから兄の高校受験、二人の大学などの先も見据え、貯金に普段のやりくりと、節約の日々である。貧乏とまではいかないが、裕福な暮らしではない。


 翔太の母はこういった各家庭の事情をどこから仕入れてくるのか、家でクラスメイトの事情を翔太に語り、あの子とは付き合っていい、だめ、と指示してくる。もちろん、凛はだめリストに入っている。分かっているが、翔太は凛をクリスマス会に呼んで、彼女の家庭では食べられないようなケーキやお菓子を味わわせてあげたいと思ったのだ。同情も含まれてはいるが、母の決めた以外の初めての友人で、一番気が合う彼女にきて欲しかった。そのため、当日まで凛の参加は黙っているつもりだ。


 翔太の言葉を真に受けた凛は、母とスーパーに行き、冬限定のきなこもちチロルチョコを2つ、ヨーグル1つ、よっちゃんいか1袋を買って、母が職場の人からお土産でもらって取っておいた六花亭のストロベリーチョコの箱に詰めた。その箱は、これまたとっておいたピンクのラッピングバッグに入れた。ハートの飾りが付いたリボンできゅ、っと縛る。なお、この袋、兄が同級生からもらったバレンタインチョコが入っていたものである。


 


 そしてクリスマス会当日がやってきた。凛の登場に、翔太の母は一瞬、嫌な顔をした。が、いい母という評判を崩さないために、すぐに笑顔に戻し、彼女を家に招き入れた。


 今年のクリスマス会は10人の子供たちが集った。そのうち、女子は凛を含めて3人だった。別のクラスの子で、凛はその子たちの顔くらいは知っていたが、内気なので話せなかった。同じクラスの男児もいたが、席は離れていたし、翔太ほどに仲のいいクラスメイトもおらず、孤独であった。しかし、ケーキやお菓子、子供用シャンパンなどはとても美味しく、そこは嬉しくて、人一倍もぐもぐしていた。時折、様子を見に来ていた翔太の母は、いじきたいない子だ、もう来ないで欲しいと思いながら睨んでいた。


 会の終盤、プレゼント交換の時間がやってきた。誰が誰のプレゼントをもらうかはくじ引きで決め、凛のプレゼントは翔太に当たった。凛は他クラスの女子からのものが当たった。


 一斉に、プレゼントを開ける。凛の袋からは、家庭用プラネタリウムが出てきた。周りを見渡すと、他の袋からも同程度に高価な品々。凛は顔が真っ赤になる。


 翔太は凛のものが当たって嬉しかった。友人からプレゼントをもらって、体が温かくなるなんて、翔太にとって初めてのことだった。袋を開けると、六花亭の入れ物が現れ、蓋をあけると駄菓子が現れた。彼女からもらえれば何でも嬉しかったのでニコニコしていると、隣の席の男子が言った。


「うっわー、貧乏くせ! 誰だよこんなの用意したやつよー? あー、山田凛しかいねえわなー!!」


 その言葉に、翔太と凛以外の子供たちが大爆笑した。翔太は殴ってやろうとしたが、その前に凛が部屋を出て行った。子供たちはその様子もバカにした。


 翔太は立ち上がり「お前らの方がバカ貧乏だ!!」と大声で叫び、凛を追った。


 


 凛は泣きながら走った。きっと酷い顔だ、この顔で帰宅したら母に心配されると、途中の住宅街にある小さな公園で心を鎮めることにした。ベンチに座ってぼーっとしていると、隣に誰かが座った。


「俺、駄菓子好きだよ」


 凛がその声の方に顔を向けると、カーキのダウンコートを着た翔太だった。


「……適当でいいなんて嘘じゃん。みんなすごいプレゼントばっかりで」


「いやあれは」


「私が貧乏人だから恥かかせたかったんだ」


「違うよ、だってあれはみんな親の見栄で、誰も真剣にプレゼントなんて選んでなくて、あんなプレゼント俺いらねえもん」


「嘘だ」


「嘘じゃねえし! あいつら友達でもない! 俺、あんな高価なだけの薄っぺらいプレゼントより、凛が選んでくれたお菓子がいい」


 翔太は凛からもらったプレゼントの箱を手にしており、その箱を開けてチロルチョコ2つを取り出す。


 一つを凛に差し出した。


「一緒に食おうよ。親の見栄だけで買ってきたケーキよりぜってえこっちがいい」


 真剣そのものの翔太の瞳に、凛はゆっくりとチョコに手を伸ばした。

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