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宇宙警察《マジェスタ》  作者: 成瀬ケン
第一章 ヒーロー誕生
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闇に包まれた世界

 そんなヨッタを尻目に、外国人はゆっくり立ち上がる。その様はまるでマリオネットだ。足がふらついているのに、胴体だけは真っ直ぐに起き上がる。

 言ってる言葉も支離滅裂だ。最初英語を喋っていた筈だが、別の言語に変わっていく。ラテン、ハングル、ようやく日本語を喋った。

「コロス。コロス。コロス」

 およそ人とは思えぬ機械的要素を含んでいた。


「ラジオか」

 ヨッタがぼそりとつっこむ。

 ゆっくりとヨッタに視線を向ける外国人。

「オイラハ。ヒトダ」

 一気に襲いかかる。

 それは常識では考えられぬ素早さだった。そのロケットみたいな動きに、ヨッタは身動きひとつ取れない。

「ワン!」

 咆哮ほうこうが響いた。白いなにかが侵入してきて、外国人を弾き飛ばす。

「お前、どうして?」

 現れたのはクッキーだった。ヨッタとの間に立ちはだかり、外国人を威嚇いかくする。

「助けに来てくれたのか」

 その大きな身体が逞しく思える。その背中から尻尾にかけてのラインが、龍の翼のように雄々しく見えた。

 そのクッキーの勇姿には、権藤も度肝を抜かれたようだ。

「珍しいペット、飼ってんな」

 ペッとくわえた煙草を吐き捨てて、寝転がる外国人を睨む。

「人だって? 生意気な口たたくじゃねーか!」

 すかさず走り出し、外国人を掴みとると、再びプロテクターを外しにかかる。

「今度は本気だ!」


 ヨッタは目を疑った。権藤の両掌から、青白い輝きが放たれる、バチバチの放電して、視界を幻惑げんわくする。

 かすかに見える光景。その中でプロテクターは確実に引き剥がされていく。その下から現れたのは、無数の配線や管だった。長きは様々。数センチだったり、一メートル近くだったり。

 異様なのはそれが意思を持ったようにクネクネ動いていること。エビなどの甲殻類を思わせる。


「ようやく確保したぞ」

 それを目の前にかざす権藤。

「チュパカブラだね」

 通信相手が言った。

「チュパカブラ?」

 呆然とそのやり取りを窺うヨッタ。その横では、クッキーが嬉しそうに尻尾を振っている。

「こいつが寄生して、操作してたから、こいつが暴れだした」

 手にするそれと、倒れる外国人を交互に見つめる権藤。

「正解には、既に死んでた。だから操作するにも支障があった。だから他の宿主を探そうとしてた。でしょ?」

 外国人はピクリとも動かない。どうやら、完全に死んでいるようだ。鑑識でないので、正確には分からないが、死後数日経過してるのは確実だろう。


「ねぇ、これはいったいどういうことなの?」

 堪らず問い質すヨッタ。その頭の中は戸惑いと困惑、そしてちょっぴりの好奇心しかなかった。


「てめえ、俺は先輩だぞ」

 ムカつき加減に視線を向ける権藤。それでも、まぁいいや、とばかりに舌打ちする。

「説明なんざあるか。ここで見たことは他言無用だぞ」

「だけど」

 不快をあらわにするヨッタ。そう言われて納得出来る筈もない、流石に色々ありすぎた。


「これだから駆け出しは」

 バリバリと髪を掻きあげる権藤。

「お前が見た殆どはフェイクだ。こんな機械仕掛けのオモチャ、どこにでもある」

「オモチャ。……そうは見えなかったけど」

「最近のオモチャは巧妙にできてんだよ」

 権藤の言うとおり、これぐらいのギミック、最先端の科学なら可能だろう。しかし死人が動く、というのはせない。どう見てもオカルトの類いだ。


「それに、秘密を守るのも警察の仕事だろ」

「それって守秘義務って奴?」

「あらぬ噂で、市民を不安にさせない、ってことだ」


 街の喧騒けんそうに乗って、サイレンの音が響いてくる。どうやら応援の部隊が駆け付けたようだ。


 チュパカブラのギミックは、まだ動きを止めていないようだ。ピクピクと管が動いている。

 権藤がそれに歩み寄り、右手で掴み上げる。


「とにかく今日のことは忘れちまえ。上への報告は俺がしとくから」

 煙草を口にくわえ火を点ける。


 ガシャーン! 窓を突き破り、巨大な物体が飛んできた。

 権藤は虚を突かれたようだ。反応が少し鈍い。

 咄嗟に反応したのはクッキー。物体目掛けて大きく飛びかかる。

 それはクッキーを直撃した。そのまま権藤を巻き込む。なだれ込むように二人、勢いよく数メートル吹き飛ばされた。


 かろうじてヨッタは無事だ。それでも風圧で、その場に尻餅をついた。

「えーーっ?」

 そしてまたテンパった。


その物体は人間だった。身長170センチ程のロン毛の若者。異様なのはその腹部がパンパンに膨れていること。直径にして1メートルはあるだろうか。まるでゴムまりだ。


 反対側から聞こえるカサカサという音でヨッタは視線を変えた。

 それは床に転がるチュパカブラのギミックだ。権藤の手から離れたことで、再び動き出したらしい。


「ヤバいよツガイの方だ」

「くそっ、メスがいるの忘れてた。まさかここまで成長してたとは」

 権藤は上体を起こし、必死に立ち上がろうとしている。彼からしても予測不能だったようだ。

 その間にチュパカブラはビョンと飛び起きて、がさがさと動き出す。その先にいるのはヨッタだ。中央から伸びた管がユラユラうごめいた。


 ヨッタは見えざる恐怖に怯えるように、尻をついたまま後ずさる。

 その首筋に、チュパカブラの伸ばす管が突き刺さった。


「うぎゃー!」

 まるで火鉢を押し付けられたような強烈な痛みが襲いかかる。その激痛に床をのたうち回る。外そうと首に手を伸ばすが、感覚が麻痺して思うように行かない、熱いのか冷たいのか、それすら分からない。徐々に意識さえ消えていく。目の前が古いモノクロ写真のように色褪せていく。溶けたフイルムみたいに細切れになった。


 朧気な意識、権藤が立ち上がるのが映る。


……喰らいやがったな……


……手遅れだ……


……楽にしてやる……


 青白い輝き、世界の全てが、バチバチと音を発てて放電する。


 やがて世界が闇に包まれた。

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