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宇宙警察《マジェスタ》  作者: 成瀬ケン
第一章 ヒーロー誕生
4/5

外事警察の男

 ヨッタは廃棄された雑居ビルの中にいた。辺りは剥き出しのコンクリートが広がり、無機質なイメージを漂わせている。鼻に突くのはカビの臭い。歩く度にうっすらと埃が舞い上がる。


 おかげで犯人追跡するのは簡単だった。埃の堆積した床に、くっきりと足跡が残されている。

 とはいえ焦りは禁物、犯人は凶器を持っている可能性がある。こちらは丸腰、細心の注意が必要。ゆっくりとゆっくりと、それでも確実に犯人を追い詰めていく。


「あれ?」

 しかし途中で足を止めた。思考が停止する。

 足跡が増えているのだ。自分のものではない。明らかに大きいサイズ。そのせいで犯人の足跡が消えかかっている。

 刹那せつな、人の気配を感じた。咄嗟に右方向を見つめる。

 いつの間にか、そこに男が立ち尽くしていた。犯人とは別の人物だ、

「誰だ?」

 声をし殺して訊ねる。違和感はあった、直前まで気配を感じなかった。

 男は五十代程のがっしりした体格の持ち主で、黒いスーツにサングラスを描けている。ネクタイはしてない。髪はいわゆるソフトモヒカン。ヨッタのことなど眼中にないように、ボソボソ独り言を呟いている。

 視線も向けずに懐に手を入れると、なにかを取り出してヨッタにかざす。

 ひとつは警察官を示すバッチ、もうひとつは名刺だった。

 そこには神奈川県警警備部外事課、警部、権藤ごんどうごんぞ、と記されている。


「失礼しました」

 すかさず直立不動の体勢を取り、敬礼するヨッタ。ヨッタの階級は巡査長、それより上だ。

 その間も権藤は独り言をやめない。耳に付けたインカムから察するに、誰かと通信しているようだ。内容は分からない。目標、組織、潜伏、そんなキーワードが飛び交う。暫くその態勢が続く。

「なんだ小僧。ここは危険だぞ」

 ようやく権藤が言った。

「小僧じゃありません。ヨッタです」

 バッチをかざすヨッタ。

 首をかしげる権藤。

「犯人、追いかけてきたのか」

 それで理解したのか、左手で髪を掻きあげ、右手で煙草を取り出して口にくわえる。

「ここは危険だ。さがってろ」

「ですが」

 その時。視界の端でなにかがうごめいた。黒い影が権藤目掛けて襲いかかる。

 それは先程の外国人だった。左手で鉄パイプを握り締め、権藤の後頭部目掛けて振り下ろす。

「警部!」

 ヨッタが叫ぶ。

 床に足を踏み締めて振り返る権藤。左腕を真上にかざして鉄パイプを受け止めた。

「この野郎!」

 そのまま真横に回転し、えぐるような右アッパーを外国人のみぞおちに打ち込む。

 外国人の身体がくの字に曲がる。よろよろと後ずさった。


「大丈夫ですか?」

 すかさず駆け寄るヨッタ。

 しかし権藤は少しも動じない。

「さがってろって言ったよな」

 冷静に言い放つ。どうやら腕に異常はないようだ。

「この野郎、どうやら狂ってるみたいだな」

「明らかに命令が行き届いてない。だから身体を移動させようとしたんだよ」

 この距離だと、通信相手の声も聞こえるようになる。やや幼いような声。どうやら権藤は、終始相手と会話しているようだ。


 外国人の方も確たるダメージはないようだ。ユラユラと身体を動かし、権藤を狙い定める。今度は鉄パイプを両手で握り締め、ブンブン振り回してきた。

「タフだな、この野郎」

 足を駆使してそれを回避する権藤。

「痛覚がないんだよ。引き剥がすしか手立てはない」

 通信相手が的確に指示する。

 こうなるとヨッタは完全に蚊帳の外。壁に張り付き、その状況を見守る。


 外国人が大きく鉄パイプを振り落とした。

 その隙をつき、権藤が間合いに踏み込む。

「うおりゃー!」

 強烈な回し蹴りを外国人の脇腹を叩き込んだ。

 声もなく吹き飛ぶ外国人。顔面から壁に激突して、反動で床にうつ伏せに倒れる。


「うおー、すげー、カッコいい!」

 叫ぶヨッタ。興奮の余り、置かれた立場さえ忘れる。

 しかし権藤は覚めた様子。

「こんなデク、倒したところで、本体を倒さなきゃどうにもならん」

 煙草に火を点けると、つかつか歩み寄り、倒れる外国人の襟首を持ち上げる。反動で野球帽が転げ落ちた。

 それでヨッタは愕然となった。犯人の顔は真っ青だった。白目を剥き、生気の欠片は一切見えない。

「死んだんじゃ……」

 その可能性は大いにあった。今の攻撃で当たりどころが悪く、殺してしまった可能性だ。

 しかしそれを権藤は鼻で笑う。

「だからなんだ。こいつは最初から死んでる」

 外国人のうなじには、プロテクターのような突起が付いていた。色は赤よりの黒。権藤はそれを両手で掴み、両足で身体を踏み締めて上に引っ張りあげる。

「ちょっと、いくら犯罪者だからって、それじゃ死体損壊じやんか」

堪らずため口になるヨッタ。

「……ドントストップ……」

 突然外国人が言った。力強く身体を起こし、権藤を押し離す。

「嘘だろ、生きてんの?」

 完全にテンパるヨッタ。生きてると思えば死んでいて、死んだと思えば生きている。もう意味が分からない。

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