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宇宙警察《マジェスタ》  作者: 成瀬ケン
第一章 ヒーロー誕生
2/5

夢は続いている

 その日ヨッタは非番だった。


 空は快晴。真っ青な空に、ビル群の白い輪郭が映える。港の方から吹き込む風は、初夏の陽気と異国情緒漂う匂いも含んでいる。

 そんな状況だから自然と心も身体もウキウキしてくる。家に籠ってゲームしているのも勿体ない。出かけるには最高のコンディションだ。

 出かけるといっても目的はない。いわゆる散歩。ついでだから愛犬であるクッキーの散歩も兼ねる。


 平日の昼下がり、ショッピングモールはそこそこの人々で賑わいを見せていた。買い物を楽しむ主婦二人連れ、営業の最中らしきサラリーマン、リヤカーで荷物を運ぶ配達員、どう見ても高校生ぐらいの三人は授業をサボっているのか。

 むろんヨッタのようにヒマをもて余す若者もいる。目的は様々だが、誰もがこのひとときを楽しんでいた。


 ヨッタは欠伸をかきながら、クッキーを連れて通りを歩いていた。

 クッキーは二メートルはある大型犬だ。白いモフモフの毛並みで、人懐ひとなつこく頭も良く、おとなしい性格の持ち主だ。本来なら、ハーネスで繋がなくてもいいが、コンプライアンス的にそうしている。血統はおそらく雑種。おそらくというのは、譲り受けたから。譲った当人が、雑種だと言っていた。唯一分かっているのは、出身はアメリカだということ。譲った当人がアメリカ在住なのだ。


 通りの両側は、幾多の店舗が軒を連ねている。衣服をレイアウトしたおしゃれな衣服店、曳き立てのコーヒーが香る喫茶店。派手なネオンのパチンコ屋、ガンガン音が響くゲームセンター。シャッターが閉じられているのは居酒屋などが軒を連ねる雑居ビルだ。縦一列に店舗名が記されたカンバンが並ぶ。


 そのうちの一角でヨッタは足を止めた。そこは家電量販店。通りに面して並べられたテレビ画面には様々な画像が映っている。

「おっ、ヒーローマン」

 ヨッタの興味を奪ったのは家庭用テレビゲームのデモ画面だ。特撮ヒーローモノで、襲いくる敵をバッタバッタとやつけるもの。発売日まで数日を切っている。

 ヨッタの趣味はテレビゲーム。特に特撮ヒーローモノが大好き。小学校の卒業文集に、将来の夢はヒーロー、と書いたぐらいだ。

 このゲームのデモは幾度となく見ている。それでも夢中になる自分がいる。現実離れしているとは理解するが、いつかはこうなりたいと思う自分がいる。


「きゃっ!」

 耳鳴りだろうか、誰かの悲鳴が聞こえた。

 ここは車両進入禁止の歩行者天国になっている。車の姿はなく、排音エキゾーストは数百メートル奥から聞こえるぐらい。ガヤガヤした雑踏の音が聞こえるのみ。


「助けて!」

 再び叫びが聞こえた。今度ははっきり悲鳴だと分かる。

 辺りの人々もそれに気づいたようで、キョロキョロ視線を巡らせている。


 声はヨッタの後ろから聞こえた。腰をひねり、後ろを振り返る。

 そこには人だかりが出来つつあった。その中央、主婦らしき一人の女が、遊歩道の上に座り込んでいた。三十代ぐらいの小太りな女。右手で首筋を押さえ、怯えるように後ろに後ずさっている。着ている白い衣服の襟が赤く染まっている。どうやら怪我をしているようだ。


 ヨッタはクッキーのハーネスを、近くの車両止めポールに繋ぐ。

 すかさず女の側に駆け寄り声をかける。「どうしましたか?」

 女はテンパった様子だ。蒼白になり、ヨッタを見つめるだけ。

「怪我してますよね」

 言ってヨッタは怪我の状態を確かめる。手で覆っているため、詳しい状態は分かりかねる。しかし出血の具合からして、酷い怪我ではないようだ。


 側にいた女が、「救急車呼びます」と言って電話をかける。

 コクりと頷くヨッタだが、そこで気が付く。自分は非番で制服を着ていないと。ジーンズにTシャツでは自分の素性は示せない。

 腰に掛けたポシェットから、警察バッチを取り出して提示する。

「自分は警察です」

 彼の生業なりわいは警察官。この近隣で交番勤務をしている。


 それで女もようやく状況を把握したようだ。

「いきなり男がぶつかって来たんです」

 震える声で伝える。

「どんな男です?」

「あの男です。あの外国人」

 女が指差すのは、1メートル程おくの人だかり。指差されていると気付くと人だかりが割れる。


 それでヨッタも気付いた。その割れた中央、男がキョドったように右往左往している。背の高い外国人と覚しき男。チノパンにブルーのシャツ。野球帽を深く被っている。

 視線に気付くと、踵を返し逃げ出した。

「誰かこの人を頼みます。それと警察を呼んで下さい」

 ヨッタが腰を浮かす。すかさず走り出した。



 ヒーローになる夢はとっくに諦めた。現実世界でそれは無理。ましてや非力な自分にはこなせる筈もない。

 それでも人々を救いたい、正義の為に力をふるいたい。その想いだけは消えなかった。だからこそ就いた職業が警察官。


 夢は続いている、街の平和は俺が守る。



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