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宇宙警察《マジェスタ》  作者: 成瀬ケン
プロローグ
1/5

ガリレオの苦悩

 地動説を唱えたのはガリレオだ。太陽があって、その周りを地球が回ってる。今じゃ当たり前。誰もがそれを知ってる。その説があったからこんにちの科学は成り立ってる。地球があって、太陽があって、太陽系があって、銀河があって、そして宇宙がある。


 とはいえ、宇宙は未だ多くの謎に満ちている。見るもの全てを魅了する美しさがあれば、冷たく暗い、絶対零度の怖さも兼ね揃えている。その先にあるのは希望か、それとも絶望か、開けてみるまで誰にも分からない。まるでオモチャ箱、なにが出るかは想像もつかない。


 誰も知らないだけだ、本当の姿、本当の有り方、本当の世界。だけどいつかは分かる、本当の世界を……



 パシャパシャとフラッシュが焚かれ画面が点滅する。


 会場の中央には巨大なスクリーンが設置されている。そこに映るのは国籍も年齢も違う五人の男女。同じチームを示すように青い専用ジャンパーを纏っている。


 カメラがズームアウトすると、沢山の人々の姿が映る。

 この会見はウェブサイトで生配信されていた。ここに集う多くのインタビュアーが質問をし、五人が答え、それを通訳が伝えていた。

 様々な質問が飛ぶ、火星への移住の可能性や、宇宙空間での遠方銀河の観測について、宇宙空間での生命誕生の可能性、などなど。


 回答の指揮をとるのはモニターの真ん中にいる日本人の男だ。年齢は四十代後半ぐらい。短く刈り込んだ髪に銀縁のメガネ。自ら回答することはない。どことなく威厳に満ちている。

 その回答毎に会場内は歓喜のどよめきに包まれる。誰もがこれからくる輝かしい未来に心を踊らせていた。


「最後に空船そらふね教授に、ひとつ質問よろしいでしょうか」

 手前に陣取るインタビュアーが言った。日本人だ。司会者が指差す。

「月刊コスモの小玉こだまです。今回の地球への帰還、数日程遅れている件ですが、いったいなにがあったのでしょうか。宇宙連邦管理局の方も動きがあったようですし」

 どこか意味深な言い回しだ。場が沈黙に包まれる。

「その件に関しましては質問しない約束では」

 すかさず言い放つ司会者。

「ですがこの件、極秘裏にしていい問題でしょうか? 一部の新聞では、地球外生命体と接触か、との記事まで載せられている」

 それでも執拗しつように食らいつく小玉。その強い口調からして、興味本位の質問ではないようだ。裏付けされた的確な質問。

 それは紳士協定だろ、いいから聞き出せ、などガヤガヤした声が響く。既に司会者の制御などお構い無しな状況。


 それにはモニターの中の面々も困惑した様子だ。互いに耳打ちし、ひそひそ会話する。

 ゴホン、咳払いの音が響いた。それは今まで沈黙していた日本人だ。ざわざわしていた会話が止む。


「我々宇宙に精通する者は、地球外生命体について否定などする訳がない。何故ならそれは、我ら人類までも否定するも同じことだから」


 誰もが耳を疑った。パシャパシャというフラッシュ音だけが響き渡る。


 ごくりと唾を飲む小玉。

「つまりそれは、多くの宇宙飛行士がいう、宇宙ではなんらかの神秘を感じる、ということでしょうか?」

「そんなことは議論する必要はないと言ってるんだ」

「つまり宇宙空間で別の生命体を確信した?」


 ガヤガヤした雑音が戻る。大至急本社に連絡しろ、明日の一面トップで行けるか、そんな雑音。


「我々が遭遇したのは、そんな小さなことじゃない」

 その声で再び雑音が止んだ。誰もが無言で次の言葉を待つ。


「我々が見たのは、宇宙空間での戦争の痕。無惨にも破壊された兵器の残骸。宇宙は交戦状態にあるんだ」



 直後、ドカーンという轟音がとどろいた。同時にモニターの画像が一変する。そこに五人の姿はなかった。バリバリと音を成し、赤い炎に包まれていく。


 会場内が修羅場と化す。なにがあった、爆発したよな、NASAと通信は、様々な言語で怒号が飛び交う。


 ストップだ中継止めろ、画面が切り替わった。放送事故を示す青い画面……




 地動説を唱えたのはガリレオだ。その説は長きに渡って禁忌きんきとされてきた。異端いたんのそしりを受け、亡くなったその後もそのレッテルを貼られてきた。


 例え真実の説でも、権力者の前では異端と呼ばれる。間違いを真実とねじ曲げ、真実は歴史の彼方に追いやられる。ガリレオの苦悩はそこにあったのだろう。


 未だ真実は闇の中、それこそがこの世界の姿。


 誰も知らないだけだ。本当の世界が動き出すのには、まだまだ時間が必要だから。

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