45.百星の明かり一月の光に如かず
王城前にある広場にて。
楽しそうな声が聞こえる。
水色から下に向かって黄色のグラデーションになった空にピンク色の雲が浮かび、雲の輪郭から夕陽がさしていた。
初お披露目の「回転ブランコ」が回っている。
夜の帳に向けてブランコを支える支柱には明かりが灯り、キラキラと幻想的だ。楽団の演奏が花を添え、会場は大盛り上がりだ。
乗っているのはデモンストレーションに選ばれた子供たち。この後、順次抽選で選ばれた人々が乗っていき、最終的には後日一般開放される。
今日は、隕石の後処理のため一ヶ月半延期されていた、建国記念舞踏会2日目が開催されていた。
クリアとレイニーは広場を見下ろせる建物からその様子を眺めていた。しれっとドリズリーも側の椅子に座らせている。
「思ったより速度が速いな。結構スリルがあるのではないか?」
「ふふ、スリル系がお好きなら、来年はローラーコースターでも応募しましょうか」
レイニーはローラーコースター? と首を捻るが、「ああ、前世の知識か」と納得したようだ。
ちなみに、ドリズリーはアニメのエピソードが終わってからも意思疎通が可能だった。ドリズリーには、クリアが命懸けのプランを強行したことを散々絞られたが、彼と話が出来ることが嬉しくてついニヤついてしまい、さらに怒られている。
「あーした天気に、なーあれ!」
ふいに声がしたかと思えば、地上で小さな子たちが靴を蹴り上げ、お天気占いをしている。
レイニーは微笑ましく見下ろしながら、やがて言った。
「私は自身の能力について、遠くない未来に公表出来ればと思っている」
「え、良いのですか?」
クリアはオレンジ色の目を見開く。
レイニーの力はネフライト王国の王族が代々秘密にしてきたものだ。はるか昔、カルセドニー王家がこの地を治めることになった理由の一つでもあったのだろう。
能力の性質上、馬の目を抜く政治の世界では、どのように評価されるか分からない。レイニーに不利に働くこともあるかもしれない。それでもですか? とクリアは聞いたが、レイニーは頷いた。
「王族だけで囲い込むのではなく、研究なり分析をして欲しいんだ。早いうちから手をつけたら、それだけ早いうちに何か分かるかもしれない。それが百年後だとしても、より早い百年後になる。また、次にこのようなことが起きたとして、きっと後世の役に立つ」
「レイニー殿下……」
「まずはフォッグあたりに話をするかな」
確かに、クリアとしてもいつかラネージュたちにことの経緯を打ち明けたいとも思っている。
「能力について何かわかるのと、月の地に人が足を踏み入れるのとどちらが早いだろうか」
「ああ! それならーー」
クリアは言いかけて、口をつぐんだ。現代日本の知識から言ったら、月に行く方が早い。多分。
スペースシャトルについて話したら、どんなにかレイニーを驚かせられるだろう。とはいえ、これから時間は沢山あるはずだ。
(なんせ、地球の滅亡を防げたのだから)
「それよりも、レイニー殿下にどうしても聞きたいことがあります」
かしこまった様子のクリアに、レイニーは目を瞬いた。
「レイニー殿下、この世界に名前をつけるとしたら何にしますか?」
「この世界に?」
予想外の話だったのか、レイニーは身体の力を抜いた。
「はい、お話した例のアニメの、物語のタイトルは『君の世界の名前は』だったので」
少し考えるように宙を見ていたレイニーだが、やがて視線を前に向けた。レイニーの水色の瞳は眩しそうに、オレンジ色のみを映していた。
「そうだな。付けるのだとしたらーー」
レイニーはいつかのようにクリアの耳元にかがみ込み、それは優しく囁いた。
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1月。
レイニーの元にネフライト王国に隣接する同盟国から内密の連絡があった。
彗星の空中爆発が観測されたのだという。爆発そのものは居住地から離れた「森の黒海」と呼ばれる森林地帯で発生しており、人的被害は確認されていない。
王妃アリアネルの関心があったことからネフライト王国では天文学が急速に発展しており、王国から隣国へ有識者を派遣する。
3月。
両国の合同チームによる調査・分析の結果、空中爆発の原因は隕石によるものと推定された。有史以降、隕石の落下は初めて確認されたことになる。
何の前触れもなく地球に到達したもので、この時代の科学では予測し備えることは不可能だった。今後、同じような災害がいつ起こらないとは限らない。大規模地下シェルターの建設計画を検討する。
王国内での発表はまだだ。確実な情報や対策案がない今、混乱だけを招くわけにはいかない。
過去にカーム陛下の情緒不安定による異常気象時、混乱に乗じて王国の治安は荒れた。あの時、摂政のサイモン・ハーパーがいなければ、どうなっていたか。
外交ルートにより各国への連絡を準備。
これら隕石から世界を救うための対策計画の総称は「快晴」と名付けられた。
4月。
これから王立学園の入学式とはいえ、ふいに隕石のことが頭をよぎった。レイニーは学園内で一番空を見渡せるであろう場所へ向かう。
歩みを進めながら、ルーサーの言葉を思い出す。
「何が降って来ようと、どのような事態が起きようとも! 自分は命を張ってレイニー殿下を守ります」
気持ちは大変ありがたいが、隕石には何人も敵うまい、と突っ込みたくなる。
勿論、レイニーは自身の能力を知っている。念のために調べてみたが、同じ力を持った歴代王族たちを見ても、隕石をどうにか出来るまでの強大な力を持った者はいなかった。
自分にそれを超える力がある根拠は何もなかった。
父であるカーム・カルセドニーを思い出す。
彼も隕石からアリアネルを守ろうとするだろう。代わりにネフライト王国を、地球すら差し出すことになったとしても。その判断をする時、カームの頭の中にレイニーはいるのか。
ーーそんなことを今考えても、無駄である。
自分は何よりも王国を守る。例え、そこで自分の全てを引き換えにしても。それがレイニーが王太子レイニーでいられる根幹だから。
理屈を超えるような感情なんて、最初からなければいい。
感情を揺り動かすものなんて、自分には必要ない。
レイニーはほろ苦く笑いたいような気持ちを振り払い、空を見上げた。
天候は晴れ。
平和に鳥がさえずり、鮮やかな青空に薄ピンクの花びらが舞っている。本日も「零雨の王太子」に抜かりなし。
まさかその一秒後に、頭の上から令嬢ーークリア・サンブリングが降ってくるとも知らずに。
レイニーの人生で最も奇妙で、最も忘れられない出会いが始まろうとしていた。
完
これにて完結です!
色々拙いところもあったかと思いますが、ここまでお読みくださり、本当にありがとうございました! 最後まで書けたのは、読んでくださった皆さまのおかげです。
最後に、感想や下の評価をいただけると大変嬉しいです。




