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35.星見台修道院②

 入会が認められたグロリアは、何度もクリアに礼を言いながら、修道院の奥へと消えていった。本当ならもっと貴女と話をしたかったけど……とも、涙を流してくれた。


 一息吐いて門から出れば、レイニーとルーサーが待っていた。二人はグロリアの姿がないことに驚かなかったので、クリアがしたことは彼らの想定の範囲内だったのだろう。


「いつから、わたしの動きをご存じだったんですか?」


 クリアはレイニーの横に立ちながら言った。

 レイニーはチラリとクリアを見て答えた。


「君がスカートの中から車輪の付いた板を取り出したあたりかな」

「なっ……」


 そんなところから見られていたのかと、クリアは仰天する。


「あ、あれはコルセットからではないですから! バッスルからですし、入れていたのは刃物でも割れ物でもないですから!!」

「もはや論点はそこではない」


 クリアは一気に言うことで乱れた息を整えながら、そっと置くように言った。


「先程……わたしはシスター・アリアという方にお会いしました」


 予想外の話題にレイニーは目を見張る。


 アニメでクリアたちが見台修道院へ行くエピソードはなかった。

 レイニーはアリアネルが星見台修道院にいることを知っている。しかし、修道院へ向かう道中から今に至るまで、彼は何も言わなかった。


「シスター・アリアはわたしと、わたしの周りの方々の幸せをいつも願ってくださると。それが唯一自分に出来ることだ、と言っていました」


 クリアはオレンジ色の瞳にレイニーを映した。

 レイニーとアリアネルの関係にクリアが入り込むことは違う。ただ、実際に見聞きした情報をありのまま伝えることは、してもいいと思った。


「なので……なので、そこには勿論、レイニー殿下も含まれます」


 一瞬だけ、レイニーは息が出来なかった。

 その時のレイニーを見つめるクリアが、人の表情として見たことがないくらい、あまりに真摯だったから。

 だだの言伝ことづてには大袈裟だとも思った。

 だけど、そのおかげか……不思議と他人事のように冷静になれて、アリアネルの言葉を言葉通りに受け取ることが出来た。それは本当にシンプルに、他の感情を掻き立てることなく、すとんと腹に落ちていった。


 レイニー瞳の視線はクリアを捉えていたが、やがて背後の星見台修道院へと流れる。


「そうか」


 レイニーは噛み締めるように、呟いた。



 ✳︎✳︎✳︎



 ルーサーに誘導されて、王城へ裏口から入る。レイニーの馬にクリアも同乗し、どうにかダンスの時間に間に合った。

 数時間ぶりに戻った舞踏ホールは、夜道とのギャップのためかより輝いているように見える。修道院から王都に着いた際には、ようやく現実の世界に戻って来たような気がしたが、ここはここでまた別世界のように感じる。


 アナウンスがされ、レイニーはクリアをエスコートしながら、何事もなかったかのようにホール中央へ滑り出た。


 一旦レイニーと距離をとり、正面から彼の全身を眺める。ドクン、と心臓が重く打った。改めて、眩しい人だと思った。


(……「親密度アップエピソード⑤」。クリアがレイニーの足を踏み、そんなクリアを愛おしいと思ってはにかむレイニーのシーン)


 クリアはこのシーンのため、サンブリング男爵家の家庭教師に無理を言っては特定の曲ばかり練習して来たのだ。

 つき刺さるような周りからの視線に晒され、ジリジリと焼け焦げそうになる。


 水を打ったように静まり返った舞踏ホール。


 レイニーがダンスにいざなう仕草をし、クリアは礼をした。


(いざっ!)


 優美な音楽に乗ってスカートで弧を描きながら、頭の中でカチンコを鳴らす。しかし。


「……? ……!?」


 クリアはドレスのスカートの下でレイニーの足を踏もうとする。それは極めて自然でワルツのステップにかなっていて、かつレイニーに怪我をさせないもの。


 しかし、どういうわけかレイニーはそれを全て巧みに避けるのだ。

 レイニーは舞踏ホールをいっぱいに使っている。背中に目があるのかと思いきや、足元にも目があるとしか思えない。


(な、なんで……!?)


 ダンスも終盤に差し掛かりクリアは焦って来た。レイニーはいつも通り涼しい顔だ。

 今までのエピソード(ミッション)は何だかんだでこなして来たつもりだった。こんなアニメの見せ場シーン、しくじるわけにはいけないのに。

 思わず、手に力が入り手袋越しのレイニーを握りしめてしまった。


「……っく」


 その瞬間、レイニーから堪えきれなかったような、息を詰めたような音が聞こえた。


「……え?」


(レイニーが……笑った? しかも声を出して)


 舞踏ホールから一心に注目を浴びていたレイニーとのダンスである。観客に見逃されるはずがなく、ざわめきの波紋が広がっていく。


「今日のところは私の勝ちかな」

「!」


 レイニーの言葉に勢いよく顔を上げるクリア。

 途端、ぐるりと背景が回る。いや違う、クリアを抱えたままレイニーが回ったのだ。そのままクリアを優しく着地させる。


 レイニーはいつもの表情に戻っていたが、その水色の瞳にはーー少なくとも今は、真っ直ぐに見つめるクリアしか写っていなかった。

 それはつまり、クリアもレイニーしか見ていないことになるのだが……そのことにクリアが気づくのは、もう少しだけ先のことである。


 サンブリング男爵にクリアを託して去っていくレイニーを見送れば、舞踏ホールのガラス窓を通して、王都を覆っていた霧がすっかり晴れていることがわかった。


 結局、レイニーはクリアとのワルツの一曲しか踊らなかった。


 それ以降になされたダンスの構成は、何故だかカドリールなどのフォーメーションダンスがほとんどだった。クリアは声をかけに集まってくれたラネージュやフォッグたちとも、心ゆくまでダンスを楽しんだのだった。


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