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30.建国記念舞踏会の悪魔

 ーーガシャン!!


 周囲に悲鳴が響く。白昼、王立学園の裏庭で。クリアの鼻の先に突如植木鉢が落下し、赤茶色の破片を散らしながらパッキリ割れていた。


 尻餅をついたクリアはパッと顔を上げ、右上にある土手を見る。縦ロールが揺れる背中が走り去って行くのを確認した。


(……そりゃあ、驚くのも無理もないでしょうね。自分が「今まさにやろうとした犯行」を「知らない誰かが先にした」のだから)


「き、君、大丈夫!?」

「クリア嬢!?」


 近くにいた学生たちが駆け寄って来る。

 心配してくれた皆には申し訳ないが、植木鉢を落としたのはクリア自身。つまり、自作自演である。

 夜の内に、土手上に並んでいる植木鉢の下に脂の塊と小石を並べて置く。脂が太陽の熱で溶けると植木鉢が傾く、という簡単な仕掛けだ。

 脂が溶けるまでの時間については、何度もシュミレーション済みである。


 これも勿論、アニメのエピソード。

 怪我をする可能性があることで危ない橋を渡るのは、「無限回廊の事件」でもうこりごりだった。ならば、エピソード自体の対応はするけれど、自分の監視下で発生するように考えたのだ。


「きっと嫌がらせよ 貴女がレイニー殿下とダンスを踊ることが発表されたから。殿下が帰国したら、言い付けてやればいいんだわ」


 騒ぎを聞き付け飛んできたラネージュが辺りを睨みながら言う。確かに、理由はレイニー絡みだと知っている。そして犯人も分かっていた。


(ーーグロリア・リコリス侯爵令嬢)


 あの夜、クリアの頬を叩き、ドリズリーを窓から落としたあの令嬢だ。


 次のエピソードの準主役とも言っていい人が去った方向を、クリアは複雑な思いで見つめていた。



 ✳︎✳︎✳︎



 夕食後、クリアは例のごとく洗面台の下からノートを取り出した。


「次のエピソードはいよいよクライマックス手前回になるわ」

『ストーリー上、誰が味方で誰が敵か、分かるところからねえ』


 首をうんうんしている(ような気がする)ドリズリーはおかげ様ですっかり回復済みだ。


 胴体にツギを当てて鼻の黒ボタンを縫い付けると、元通り意思疎通が可能になった。それからは、クリアの気分の問題だが……しばらくドリズリーを包帯で巻いてベッドに寝かせていた。ドリズリーは添い寝することになったレイニーの顔付き実寸サイズの抱き枕(一話参照)に『ええ……』と引いていたが、最終的に慣れきっていて、今はドリズリーがお尻に敷いている。


グロリア(あの子)はあの子で、諸々事情があるからなあ』

「彼女がドリズリーにしたことだけはまだ根に持っているわよ。それはそれとして」


 この先に起きるアニメのエピソードは。


 公募の「回転ブランコ」が採用されたクリアは建国記念舞踏会に参加する。建国記念舞踏会は王城で二日間に渡って開催される。

 一日目の舞踏ホールにはレイニーの他、高位貴族であるフォッグ、ラネージュ、侯爵令嬢であるグロリア・リコリスとその父リコリス侯爵などらもいた。


「舞踏会終盤にはヒロイン・クリアとレイニーのダンスエピソードがあるんだけど、その前に」


 人の波に酔ったクリアがバルコニーで休憩をしていたところ、グロリアが声をかけてくる。「クリア嬢(貴女)のグラスには毒が盛られています」、と。


 いきなりの発言に驚くクリアだが、グロリアがあまりに真剣な顔をするので、彼女が言うまま持っていたグラスをグロリアに渡す。

 一方、グロリアはクリアから引き取ったグラスを「毒入り」と言っていたのにも関わらず、何故か自ら口を付けていて……このグラスには確かに薬が盛られていた。


 グロリアが飲んだグラスには当然クリアの指紋がついている。よって、逆にクリアが「嫌がらせへの報復」のため、グロリアに薬を盛ったのでは? と疑われることになる。


(問題は、グロリアは何をしたかったのかってこと)


 グロリア自身がその身を犠牲にしてクリアを貶めようとした? あるいは、グロリア以外の人物がクリアを嵌めようとしたならば、その動機は?

 グロリアはどこまで知っていたのか?


 勿論、クリアはアニメでの顛末を知っている。知っているからこそ。


「このエピソードは『建国記念舞踏会の悪魔』と名付けてもいいくらい、人の良心を踏み躙った出来事だと思う」


 クリアはいつになく憤りを表しながら言った。


 部屋に届いていた手紙類の束を手に取る。中には、重厚な封蝋を押されたレイニーからの手紙もあった。慎重にペーパーナイフで開けば、クリアが依頼した通り「星見台修道院への紹介状」が同封されていた。


 ドリズリーは驚愕する。


『え、クリア? それってまさかーー』

「そのまさか、よ。『悪魔』と戦うには、神様の協力が必要かもしれないからね」


 クリアは顔を上げた。

 頭にはレイニーの言葉が思い出される。


 ーークリアの凄いところは、


 ーー何がなんでも、決めていることをやり遂げようとするところ。


(何でもわかったフリをして人を騙す詐欺師がいたのなら、わたしは知っている未来を使って人を助ける)


 勿論、アニメのエピソード再現だって忘れていない。オレンジ色の瞳には、確固たる決意が浮かんでいた。


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