28.回転ブランコ
ネフライト王国では建国記念行事のイベントとして毎年「催し物」を公募している。
若者ならではのアイデアが集められ、選ばれた者は国から実現する支援と予算を受けられるのだ。
そしてこの度、クリアが応募した案「回転ブランコ」が採用された。
「回転ブランコ」とは、現代日本でいう遊園地にある、メリーゴーランドの馬の代わりに幾つものブランコがぶら下がっていて回転する、アレである。この世界のどこかに既に存在するかもしれないが、ネフライト王国にはまだない代物だ。
アニメのエピソードに沿っているため「回転ブランコ」を応募すること自体はクリアの発想ではない。
しかし、このエピソードも中々厄介だった。ヒロイン・クリアが提案した「回転ブランコ」が具体的にどんなものだったか、ビジュアルがアニメにチラリと出たくらいで説明がなかったから。
前世の記憶からメリーゴーランドの動力がかつて蒸気機関だったという知識はあるが、蒸気機関もこの世界では完成していない。蒸気機関の発明から手をつけるにはあまりにも労力がかかるし、クリアに時間はなかった。
そこで思い付いたのが、既に使われている「ホースフェリー」の仕組みを流用すること。
船の甲板に乗せた馬がランニングマシーンのような専用床を歩いて回すことで、その床と連動したスクリューが回り、船が進む。この仕組みを「回転ブランコ」に使うのだ。
学園図書館でかなり遅い時間まで下調べをすることになったのだが、レイニーがさりげなく付き合ってくれた。(公募の案作成に王太子が関わることは出来ないので、離れた場所で自習していた)
何とか国に案が採用されてからは、動力部の設計にフォッグが助言してくれた。ハーパー公爵家は先出の通り学問……技術系にも強く、フォッグ自身もその例に漏れなかった。
ラネージュはデザイン分野に協力したがった。圧倒的な美術センスが彼女にはあり、予算を踏まえつつもクリアのイメージより格段に見栄えがするようになった。
前世を思い出す前もその後も、クリアはずっと一人で頑張らないといけないと思っていた。だけど、いざヒロイン・クリアになりきろうとしてみてどうだろう。
今、クリアの側にはレイニーとラネージュとフォッグがいて、「回転ブランコ」の準備はアニメよりずっと素晴らしいものになっている。
この調子で頑張り続けたら、死ぬまでには蒸気機関どころか電気で動く「回転ブランコ」を見られるかもしれない? なんて、無茶苦茶な夢を見るくらいには。
アニメのヒロイン・クリアは実際のところ、どういう気持ちでいたのだろうか。生来の天然キャラだったのか、あるいは。
平民から貴族になった中で、ヒロイン・クリアの「生きていく術」が「天然キャラ」だったのではないか? 最近はそんなことまで考えてしまう。
ヒロイン・クリアのことをどこか馬鹿にして、見くびっていた自分を省みるキッカケにもなった。
「クリア嬢、そういえばダンスってどれくらい踊れる?」
学食からの帰り道、フォッグが聞いた。今日はラネージュ含めて三人でランチをしていたのだ。フォッグは続けた。
「知っての通り、この公募は建国記念の目玉なんだよ。だから褒賞も大きい。騎士見習いからアイデアが採用された時は、記念舞踏会の1日目で剣舞を披露する栄誉を得たし、平民の料理人だった時は、舞踏会の料理にその店のメニューが一部並んださ。その店はいまや一大チェーン店になっている。クリア嬢は貴族令嬢だから、何かあるんだとしたらレイニー王太子とのダンスになるんじゃないか?」
ラネージュは片眉を上げた。
「でも、レイニー殿はまだ前国王の喪に服しているでしょう? それに伴って、未だ舞踏会ではダンスを披露されたことがないんだとか」
「とはいえ、5年経っている。今年は王立学園入学もあったから良いタイミングじゃないか」
フォッグの読みは正しい。クリアがこの公募に力を入れたのは、そのためだ。
(これが「親密度アップエピソード⑤」。建国記念舞踏会でレイニーとダンスを踊るために、わたしは公募で選ばれる必要があった)
建国記念舞踏会は二日間に渡って開催される。その初日、アニメのヒロイン・クリアはレイニーとダンスを踊る。
元平民ゆえに、まだまだダンスに不慣れなクリアはレイニーの足を誤って踏み、それがキッカケとなって二人きりで庭園へ向かう。クリアは夜の冷気にあたり「くちゅん」とクシャミをし、レイニーに上着をかけてもらう……という甘ーいエピソードである。
ちなみに、クリアはこの「可愛らしいクシャミ」には自信がある。クリアの素のクシャミは、まさかのそれなりに激しいものだった。だからこそ、演技でヒロインらしいクシャミが出来るよう、徹底的に練習したのだ。
先日やったお腹を鳴らすくだりより難易度は低く、取り組みやすかったこともある。
「そう、なら練習しましょう!」
「え、クシャミの……!? じゃなかった、えっと、何のですか?」
いきなり言い出したラネージュにクリアは首を傾げる。ラネージュは説明した。
「レイニー殿下初のダンスのお相手になるのでしょう? 注目しかされないわ。いくらクリア嬢でも恥ずかしいものは見たくない。舞踏会で共感性羞恥になんてなりたくないもの」
クリアとフォッグは目を丸くする。ラネージュはレイニーを狙っていたのではないか。疑問そのままをフォッグが言った。
「いいの? 俺はてっきり王女様こそレイニー殿下と踊りたがってたのかと」
「愚問は止めて頂戴。わたくしならレイニー殿下と踊る機会は今後いくらでもあるわ。そんなことより、クリアとわたくしはお友だーー」
「確かにお友だちですが、友達は一方的に助けてもらうものではないですよ」
クリアはラネージュを遮った。




