表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/45

13.悪役令嬢密室殺人事件(仮)

※痴漢のような人物が出ます。苦手な方はご注意ください。

 クリアが「悪役令嬢密室殺人事件(仮)」を回避するために立てた作戦は、こうだ。


 ラネージュに、現在手元にある()()のマカロンをクリアに渡すよう依頼する。対価は「髪の毛の脱色方法」を教えること。


 この事件はラネージュが瓶入りの毒入りマカロンを「食べた翌日」に起きる。半日後に作用する毒が仕込まれているからだ。

 つまり、事件の日=ラネージュが(食べたフリをし)全てのマカロンを持ち出しクリアに渡す日、になる。


 マカロンの受け渡し時間は、アニメの事件と同じ夕方にし、場所は王立学園の二階渡り廊下を指定した。

 二階の渡り廊下からなら校舎裏の敷地がよく見える。直ぐ下には現場となった体育用具倉庫があり、アニメでラネージュが一人通りかかるはずの道があった。


(この場所でラネージュは暴漢に襲われる。犯人の侍女ゾエ・カロンは言葉巧みにラネージュの護衛騎士を僅かな時間、ラネージュから引き剥がした)


 ラネージュが一人体育用具倉庫に入り、内側から鍵をかけたのは、この道で「暴漢に襲われかけた」から。

 ようやくの思いで倉庫へ逃げ込み、隠れているうちに前夜食べたマカロンの毒が効き始め、ラネージュは密室内で一人意識を失った。

 これが、密室事件の真相である。


(勿論、ラネージュを襲う暴漢は侍女が雇ったもの……関係者の手引きがなければ、まず学園の敷地に入れないもの。とはいえ、彼は体育用具倉庫までラネージュを追い込むようにだけ依頼されていて、直接害をなさないように言われていた)


 ゴクリと唾を飲み込んだクリアは今まさに、体育用具倉庫へ通じるその道でーー


 男子生徒の格好をした暴漢、と対峙していた。


 さわさわと風が新緑を揺らし、周囲には人気ひとけがない。

 暴漢はクリアを見て、短く口笛を吹いた。


「へえ、可愛いじゃん」

「……」

「えらく美人な女がここを通るから、脅かすように言われていたけど……まあ、そんだけ可愛いからこそ、要らない恨みを買ったってわけか」


 クリアはさりげなく視線を暴漢の斜め上にやる。対角線上にある渡り廊下にはラネージュの後ろ姿が見える。


(さあ、ここでわたしが悲鳴をあげれば)


 クリアが襲われるシーンをラネージュにがっつり見せてから逃げ出すことで、ラネージュが助けを呼んでくれるだろう。暴漢が捕まり事情聴取されれば、依頼主である侍女が炙り出されるという寸法だ。

 ついでに毒入りマカロンを証拠として提出すれば、侍女のラネージュ殺人未遂の容疑は確実になるだろう。事件解決に貢献したことでレイニーに役立つヒロインアピールも出来る。


 ストーリー改変による影響を心配するドリズリーを説得するのは大変だったが、最終的にしぶしぶ了解を得ている。


「やっぱりオレって美人より可愛い派なんだよな。アンタを見て改めて思ったわ、オレの好みど真ん中」

「は?」


 叫ぼうと息を吸った時、暴漢が今1ミリも必要のない情報を語り出した。

 クリアが一瞬固まると、暴漢は舌舐めずりをした。


(というかこの暴漢、さっきからやたら可愛いとか言ってきて……なんだか雰囲気がとても)


「あ、あの」

「依頼は脅かすだけだったけど、お触りくらいならバレないだろ」

「!」

「大丈夫、貴族のお嬢様を傷ものにはしないから。契約違反で依頼主にしばかれたくないし。だからちょっとだけ……カラダ、触らせて?」


(き、気持ち悪いーー!!)


 暴漢はニヤリと笑い、息を荒くさせながらクリアに向かってくる。彼の手がクリアへ届きそうになり。


「え、ひっ……!?」


(!! 喉が詰まったように閉まって上手く叫べない……!!)


「っ、」


 頭の中で警鐘が鳴り、咄嗟にクリアは背を向け走り出した。


 完全に計算外だった。


 密室殺人にするという犯行計画上、暴漢がラネージュを手にかけることはない。実際、アニメでラネージュに外傷はなかった。侍女の暴漢への指示が「美しい女を狙ってくれ」だったこともアニメのエピソードから知っている。具体的な容姿の指示をしなかったのは、万一暴漢が捕まった際、ラネージュを狙ったわけじゃないと言い逃れをするためだろう。


(だから、美少女わたしでもおとりになれると判断したのに。本当に恐怖すると、人って身体が自由に動かないの……!?)


 これはいくらドリズリーと予行練習したとしてもわからなかった。勉強になったが、今はそれどころではない。


「っ、はあ……」


 もつれる足で必死に走るクリアと追いかけてくる暴漢。

 ラネージュたちがいる渡り廊下からどんどん離れてしまう。あと数歩の距離に、あの体育用具倉庫が見えた。


(どうする……! アニメでラネージュがしたように倉庫へ閉じこもる? でもそうしたら暴漢がどこかへ行ってしまって、暴漢のルートから侍女ゾエ・カロンの悪事が暴けなくなってしまう……!!)


 侍女はこの密室殺人が失敗したら、また新しい犯行計画を立てるに違いない。そうなれば、いくら前世の記憶があってもクリアにラネージュを守る術がなくなる。


 僅かな躊躇が足を遅くしたのだろう。背後からクリアの手が掴まれた。


「!! ぎゃーー!!」


 今更悲鳴が出るが、校舎はとっくに遠くだ。


 必死に手を振り解こうと振り向けば、世界で一番綺麗な白銀色ーー


 レイニーの銀髪が、視界に飛び込んで来た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ