ふたりがまだ神様を信じていなかった頃
保険としてのR15ですが、他愛のない話です(^_-)-☆
ファミレスで別れ話をされた!!
一方的に話を終えた佳幸は500円玉をテーブルの上に転がして立ち去った。
私がドリンクバーから持って来たエスプレッソは冷め、能天気に頼んだアイスティラミスは一口も付けられないまま緩んでしまった。
戸惑いや怒りや心配……私の中にいくつもの感情が渦巻いたけれど……佳幸を寝取った女に対して嫉妬の感情は湧かなかった。もちろん吐き気がするほど不愉快で腹は立ったのだけど。
この事が家族の耳に入ったら……
「父親が居ないから!!」とお母さんは嘆き悲しみ、お兄ちゃんはきっと“普通より”何倍も怒るのだろう。
その事が一番辛く、心に重くのしかかる。
「どうして家に行く事をOKしたのよ!! 別れるつもりだったのなら!!」
声が枯れるまで叫びたかったけれど、そうも行かず、私はメニューの中から目に付いた物を追加で注文した。
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店内が空いていたので、みっともない感情を乗せた男の“演説”が耳に入ってしまった。
修羅場は嫌だな……
聞きたくないから早々に店を出よう
そう思った矢先に、男は一人、出て行った。
残された女から泣き声が聞こえる訳でもなく、オレは一度置いたメニューを開いた。
「さすがイタ飯系のファミレス! フルボトルのワインも種類がある……スパークリングまで」
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自虐的な感情なのだろうか……佳幸の門出を祝ってやりたくてスパークリングワインをフルボトルで頼んでしまった。その名前が気に入ったから
『ドンラファエロ』……『エロ』の『ドン』か!! アイツにピッタリだ!!
お酒頼んじゃったから、ピザか何か頼まなきゃ!!
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『残され女』がフルボトルのスパークリングワインを手酌し始めた。
ワイングラスが樹脂製で軽いからだろうか……それともヤケ酒か??
何も食べずにカパカパ飲んでる。
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香りもスッキリしてるし、べた付く様な甘さではない……『辛口ですっきり』というPOP通りだ!!
でも……何か摘まみたいなあ……
どうもお酒というのは、飲み慣れしていない体に入ると寄生虫のごとく人を誘導する様だ。
その絵を想像すると“ゲロゲロ”だが……ハリガネムシがカマキリの脳をコントロールし、水辺に誘導して入水を促す様に……私の目は斜向かいの席に置かれている“ミラノサラミ”にロックオンされ、フラフラと近付いた。
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ヤバいかなと思ったら本当にヤバい女だった!!
『残され女』はスパークリングワインのボトルを手にオレの前に仁王立ちになった。
「ねえ!物々交換しない?!」
こう言ってオレに顔を寄せた女は目に妖しい光を貯め込み、薄いピンクが差したうなじから香り立つ上品なフレグランスとワインの吐息をオレに振りかけた。
後になって考えると、その時の純蓮は果てしなく妖艶で……オレの目を心を否応も無く鷲掴みにした。
きっとそれは……傷付けられた女性としての尊厳を守る為に、彼女の“本能”によって計算され尽くされた魅力が発現されたものなのだろう。
そうでなければ、女の身勝手とわがままにホトホト愛想をつかしていたあの頃のオレが心を動かされる訳が無いから……
「何と何を?」
「決まってるじゃない! 私のワインとあなたのサラミ」
「グラスはどうする?」
「口移しや間接キスのサービスは無しよ」
その言葉にオレは吹き出し、新しいグラスとフォークを取ってくる為に席を立った。
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「訊けば訊くほど酷い男だな!」
「武琉の元カノだってクズじゃん!」
空のボトルが三本 皿も殆ど空いていて……二人はホウレン草ソテーのカケラやポップコーンシュリンプをツマミにグラスに残ったワインを呷る。
「行こうか?」
「帰るんじゃなくて?」
「ああ、スマン! 歩ける? 送ろうか?」
「それって危ないじゃん! 何て言ったっけ?? “赤ずきんちゃん”みたいなの……」
「送りオオカミの事?」
「アハハ! 自分で言ってる! 自爆だあ!」
「いやいや! それをやるのは“人でなし”でしょ?!」
「へえ~!タケルは“人でなし”じゃないけど、イン●なんだあ」
「なっ!!お前なあ!!言っていい事と悪い事があるぞ!!」
「ごめんねー!図星な事言って!!」
「違うって!!」
「ふ~ん! 可哀想だから、今は酔ってて……役にた・た・な・いってことにしておいてあげるね!」
「お前!いい加減にしろよ!」
「あ~!! 怒った!!」
「怒ってないけど、図星じゃないからな!」
「怒ってないなら送ってよ」
「いいよ! 家どっちだ!」
「初めてあった男の子に教える訳無いじゃん!」
「ああ そうだね!! じゃあ最寄り駅まで送るよ!」
「嘘!! 信じらんない! こんな時間に、女の子ひとり夜道を歩かせるんだ!!」
「こんな時間にって! 普通に仕事して帰る時間だろ?!」
「だって私、酔ってるんだもん!! だからタケルの家に帰ればいいじゃん!」
「そんなのダメに決まってるだろ!!」
「えーっ?! なんでー!! 独り暮らしでしょ?!」
「だから、女の子なんて泊められないって!!」
「でも、元カノさんは泊めてたんでしょ?! どーせ!」
「どーせ!ってなんだよ!!」
「ああ同棲してたのね!きっと元カノさんが残していった物を棄てられなくてウジウジしてるんだ!それ、見られたくないんだ!」
「同棲なんてしてねーし!! お前!!いい加減にしないとホント怒るぞ!!」
「私だって怒るよ!!さっきから『お前!お前!』って何回連呼してるのよ!!」
「あっ!! それは……ゴメン!……すみれさん……」
「だからそうじゃないって!!」
そう言いながら純蓮は二人分の伝票を引っ掴んで席を立った。
「バツとしてここは私が奢ってあげる!」
「ええ??!!」と伝票を奪い取ろうとする武琉の手をすり抜けてさっさと会計を済ませた純蓮は二人分の荷物を抱えて追い付いた武琉にウィンクした。
「さて!飲み直しだね!! 場所は……タケルの家がどーしてもダメなら……アメニティが充実しているファッションホテルがいいな!」
出会ったこの日までは神様を信じていなかったふたりだけれど……翌年の6月の佳き日には神様の前で愛を誓い合ったのでした。
おしまい
こういう可愛らしい奇跡があったらとても素敵だなあって思いました(#^.^#)
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