ちまたにはウンコしたい民があふれている
※うんこちゅうい※
ゴ、ゴー……
二車線道路を安全運転で走行中の私を、アルファードが勢いよく抜いていった。
この道は、60キロ制限。
あの速度は、80キロを超えている。
……制限速度を守るというルールを反故にしなければならない理由が、あの車にはあるらしい。
ドライバーには…急がなければならない理由があるのだろう。
あの速度は…どうしょうもない焦りに翻弄されなければ、出せないはず。
きっと、ドライバーは……ウンコがしたくてたまらないのだ。
迫りくる、抗いようもない排泄欲が、余裕のある運転を妨げているに違いない。
急いで飛び込んだトイレがキレイだといいね。
……そんな事を思いながら、私は安全運転を続けた。
ガ、ガーッ……
信号のない横断歩道で停車した私を、プリウスが抜いていった。
道を渡ろうと立ち止まっている、親子の姿。
道路にまぶしく輝いている、真っ白な横断歩道のペイント。
……交通ルールを守るという常識を無視しなければならない理由が、あの車にはあるらしい。
ドライバーには…急がなければならない理由があるのだろう。
あの様子からすると…他人を思いやる余裕がないほどに、追い込まれているに違いない。
きっと、ドライバーは……ウンコがしたくてたまらないのだ。
腹部の尋常ではない痛みが、便所を探す以外に目を光らせてはならぬといきり立っているのだろう。
はやくトイレが見つかって出すもん出して、腹痛がおさまるといいね。
……そんな事を思いながら、私は安全運転を続けた。
……ブゥんッ!
幹線道路を安全運転で走行中の私を、ハイエースがものすごい勢いで抜いていった。
この道は、80キロ制限。
あの速度は、100キロを超えている。
……制限速度を守りつつ、同じ方向に進む車の流れに混じって穏やかに走行するべしという、一般的な判断に従わない理由が、あの車にはあるらしい。
ドライバーには…誰よりも急がなければならない理由があるのだろう。
あのスピードは…、切羽詰まらなければ、出せない速度だ。
きっと、ドライバーは……おならだと思って気軽に肛門を緩めたせいで、うっかり実がでてしまったのだ。
明らかな違和感に冷や汗を垂らしながら、一刻も早く事態を収拾させるためにアクセルを踏み込んでいるのだろう。
最新のシャワートイレ完備の場所にたどり着けるといいね。
……そんな事を思いながら、私は安全運転を続けた。
……キュッ、ゴオッ、ブゥン……!
高速道路を安全運転で走行中の私の横を、平べったい車が勢いよく抜き去り、あっという間に遠ざかっていった。
この道は、100キロ制限。
あの速度は、150キロを軽く超えている。
……制限速度を大幅に上回り、派手なモーションで私の前に躍り出て、はるか彼方に消えさらなければならない理由が、あの車にはあるらしい。
ドライバーには…急がなければならない理由があるのだろう。
こんな無謀な運転は…我を失わなければ、到底できない振る舞いだ。
きっと、ドライバーは……ウンコが今にも出そう、いや、顔をのぞかせ始めたのだ。
出てはならぬと力を込めるも肛門はそんなの関係ないねと広がり始めてしまい、人類に課せられた融通の利かない排泄というシステムに圧倒され、己の速度超過に気付く事すら叶わないのだろう。
高級車といえど、現代の最新技術をもってしても自動排泄処理装置を備える事は叶わず…限界に直面してしまえば大惨事を受け入れる事しかできないのだという悔しさをはねつけるかの如く、アクセルを踏み込んだに違いない。
完全決壊する前に、トイレに駆け込めるといいね。
……そんな事を思いながら、私は安全運転を続けた。
プー、プップー!
片側一車線の道路を安全運転で走行中の私の前に、軽トラックが勢いよく突っ込んできた。
対向車線の車を一切気にすることなく、事故の危険性を無視してオレンジ色のセンターラインを跨ぎ、ウインカーすら出さずド派手なクラクションと共に私の車の前に躍り出なければならない理由が、この車にはあるらしい。
おそらくドライバーは…警察に捕まることなど、車体がひしゃげることなど屁でもないレベルの、最大級のピンチに陥っているのだろう。
ここまで命知らずな運転は…相当な大混乱の末のやむなしでなければ、とてもできそうにない。
きっと、ドライバーは……ウンコが出始めてしまったのだ。
もう出てしまったのだ、もう止めることは出来ないのだ、もう出し切る事を容認せねばならないのだという悲しみが、正常な思考を塗りつぶし…車に乗るものとしての常識をも奪い去ったに違いない。
せめて、シートに染み込まないといいね。
……そんな事を思いながら、私は安全運転を続けた。
安全運転に努めた私は、無事、目的地に到着した。
駐車場に車をとめ、荷物を持って…移動をする。
……そうだ、トイレに行っておこうかな。
案内板を見てトイレの場所を確認し、トイレの表示を探して、通路を曲がって、ずんずんと歩いていくと。
トイレの入り口に……、長蛇の列ができている。
……ああ、ここにもウンコをしたい民が、溢れている。
人とは、つくづく……ウンコをする生き物なのだなと、思った。