4. ロザリー
ロザリーと並んで森の中を歩きながら家に向かう。
お互いにまだ相手の事をよく知らないまま家に招いてしまったが、側にいることに不思議と心地よさを感じていた。
ロザリーはあまり自分の事を多く語りたがらなかったが、少なくとも悪い人には見えなかったので無理に聞き出す事はやめておく。
「妹さんと2人暮らしだって言っていたけど、妹さんは1人でお留守番しているの?
急にお邪魔しちゃって本当に大丈夫かしら。」
ロザリーが少し心配そうに聞いてきた。
ララに確認せず勝手に決めてしまったことだけど、僕はあまり心配してなかった。
「大丈夫だと思う。実は妹は生まれつき病気があって、あまり外に出られないんだ。
だから僕が狩りとかで出掛けてるときはいつも1人になっちゃうし、寂しい思いをしてるだろうから、誰かが家にいてくれるのは嬉しいと思う。」
「そう……病気なのね。
ジルがずっとお世話をしてたの?」
「うん、僕が10歳の頃に父さんが亡くなっちゃったから、それからは僕がみているよ。
だから、僕もララもこの村から出たことがないんだ。
ロザリーの旅の話とか、街の事とか聞きたいな!」
「……ええ、私でわかることなら話すわ。」
出会ってから初めてロザリーが微笑んだ。
あまり表情を変えない彼女だが、うすく微笑んだ目元はとても優しい色をしていた。
「あ! そういえば、家に来て貰うのに1つだけ問題があるんだ。」
僕はあることを思い出して慌てて声をあげる。
「何があるの?」
「あの、僕狩りがあんまり上手じゃなくて、今日も何も獲れなかったんだ。
だからロザリーを歓迎したいけど、ご馳走を用意することが出来ないんだ。」
「そんなこと気にしなくても良いのに。
……でも、そうね。 それなら少しだけここで待っていて貰えないかしら?」
そういうと、ロザリーは僕の返事を待たずに木々の中へ消えていった。
そして数分も経たないうちに戻ってきたその手には、2羽の綿雪兎をさげていた。
「えっ……ぇえ!?
こ、こんな短い時間で……えぇ?」
驚きすぎてまともな言葉が出てこない。
そんな僕を見てロザリーは、ふふっと笑った。
「狩りは得意なの。 これから少しの間お世話になるんだから、お礼に手土産は必要よね。」
得意って……
そんなレベルの話だろうかと疑問に思ったが、僕のお腹の虫はそんな事お構いなしにギュルギュルと音を立て喜びの声をあげている。
彼女の事がますますわからなくなったが、僕は心から彼女を歓迎しようと思った。
◇◇◇
~side ロザリー~
私はある目的のため旅をしていた。
目的のためには人の多い街に行く必要があったけど、人と関わるのは苦手だ。
いくつかの街をまわった後、精神的な疲れが溜まってきていることを感じて一度街道から離れる事にした。
バルドレ王国の王都は中心よりやや南寄りにある。
そこから西回りに北上し、いくつかの街を通って今いるのはもうほとんど国の最北端に近く、この先には小さな村がいくつかあるだけだったはずだ。
村を取り囲むようにして大きな森が広がっており、国境に沿って隣国との境界線を作っている。
街道をはずれ西沿いの森に入ってしばらく進むと、少し開けた場所に出た。
近くにあった岩の上に腰をおろし、しばしの休憩をとる。
(疲れたな……。 この先に街はないし、少し休憩したら今度は東回りでまた街を回らなきゃ……。)
急がないといけない用ではないが、早く目的を果たしたかった。
もう解放されたい…… そんな気持ちが頭の中を巡る。
その時、ふと視線を感じた気がした。
ゆっくりと顔を上げると、そこにはこちらをじっと見ている男の子がいた。
(気配を感じなかった……)
考え事をしていたとはいえ、ロザリーは人や動物の気配に敏感だ。
こんなに近付かれるまで気付けなかった事に動揺したが、それを相手に見せる訳にはいかない。
警戒を表すように男の子を観察する。
淡いブロンドの少し癖のある髪に、薄茶の瞳のまだあどけない顔立ち。
十代前半くらいだろうか。
ボロボロの麻の服に動物の毛皮のベストを着て、籠を腰に下げ弓を手に持っている。
どう見てもこの辺りに住む村の少年が狩りに来ているといった様子だった。
目が合うと慌てて謝ってきた男の子からは害意も一切感じない。
僅かに警戒を解くと、少しだけ話をしてみようと思った。
(もしかしたら、この子なら……)
少しの希望と興味を覚えたロザリーは、しばらく様子をみようと彼の誘いを受け彼の家に滞在させて貰う事にした。