3. 森での出会い
いつものように畑の手入れと洗濯をしてからララに朝ごはんを食べさせ、狩りと採集のために森へと向かう。
食べられる山菜やキノコの種類と自生場所。付近の森に生息している動物の特徴やそれぞれに合わせた狩りの方法。
父さんが生きてる時に色々教えてくれていたから、なんとか生きていけるだけの食料を調達出来るようにはなったけど、弓はなかなか上手くならない。
この辺りで食用に向いてて比較的狩りやすい獲物といえば綿雪兎と白尾鳥だが、綿雪兎は小さくてすばしっこいし、真っ白でふわふわとした可愛らしい見た目からは考えられないほど警戒心が強い。
白尾鳥は高い木の上に巣を作り、餌をとる時以外は基本的に巣の中で過ごすためあまり目に見えるような場所でとまって休む事がない。
空を飛ぶ鳥を射落とすなんてとてもじゃないが出来ないし……
だから落とし穴やくくり罠、鳥黐に運良くかかっている時しか肉が手に入らないのだ。
「今日もダメ、かぁ……。」
山菜などを採集しながらあちこちに仕掛けた罠を確認して回ったが、今日も獲物はかかっていなかった。
太陽の位置を確認すると、とうに一番高いところを通りすぎていた。
(そろそろ帰らなきゃ……。)
もう5日も肉を食べていない。
なんとか1匹だけでも狩れないかと、ゆっくり移動しながら息を殺し周りの音や気配を探る。
フワッ
周囲の変化に意識を集中しながら歩いていると、森の匂いの中に混じって少し甘いような香りが風にのって流れてきた。
(なんの香りだろう……?)
警戒しながら、足音をたてないように風上の方向へ歩いていく。
数十メートル程進むと、少しひらけた場所に出た。
大きめの岩がいくつか転がっており、その1つの上に座っている人陰が見えた。
村の人が狩りや採集の途中で休憩してるのかと一瞬思ったが、ふと服装に目がいく。
(見慣れない格好だな……黒い服っていうのも珍しい。)
村の人間はだいたいがシンプルで動きやすく地味な色合いの服装が多い。
田舎であるため服屋などもなくお金もあまり持っていない家がほとんどで、基本的に村の女性が家族のために服を作る。
素材は安いものを使ってるし、お下がりや着回しが当たり前なのでくたびれたボロボロの服ばかりなのだが、目の前に見える人陰が着ている服は複雑な作りの綺麗なもので上下とも黒色だった。
日中の森の中では、黒い服は目立つため村の人間はあまり着ることがない。
(どこかの街から来たのかな?
でもこんな田舎の森の中にいったい何をしに来たんだろう……?)
不思議に思ってしばらく見ていたせいか、視線を感じたようで座っていた人がゆっくりと顔を上げこちらを見た。
(しまった、ジロジロ見過ぎちゃったな。)
顔を上げたその人はとても綺麗な女性だった。
青みがかった黒髪に白い肌、深い青色の瞳。
年の頃は17~8歳くらいに見える。
驚いたような表情を一瞬した後、警戒したようにこちらを見ている。
「あ、休憩の邪魔をしてしまってごめんなさい!
見慣れない格好だったので少し気になってしまって。」
慌てて謝ったジルに、わずかに警戒を解いた様子で女性が口を開く。
「……街から来たの。
あなたはこの森の近くに住んでいるの?」
「はい、ここから少し東にいった所にある村に住んでいます。
あの、お姉さんは何故この森に?」
「旅の途中だったんだけど、少し疲れちゃってね。
ゆっくり出来そうな所を探して休んでたの。」
「そうだったんですか。
……もし急ぐ用がないのでしたら、うちでしばらく休んでいきませんか?
家には妹と2人だけなので気を遣わずゆっくりして貰って大丈夫ですし。」
初対面の相手を家に招くなんて失礼かとも思ったが、女性の顔色が悪く本当に疲れているように見えたので思わずそう言ってしまった。
女性は口元に手をやってしばらく考えるように視線を下げた後、窺うようにこちらを見た。
「それはありがたいけど……あまり人が多い所は苦手なの。
村には人がたくさんいるのかしら?」
「村全体では200人くらいいるけど、うちは森の入り口の側にあって他の家とは少し離れてます。
それに……あんまり村の人達とは関わってないんです。」
少し表情が曇ったジルを深く探る事はせず、女性は小さく頷いた。
「そう……それなら、申し訳ないけどお言葉に甘えて少しお邪魔しても良いかしら。」
「はい! 妹も喜ぶと思います。
あ、僕の名前はジルです。
お姉さんのお名前も聞いても良いですか?」
「ロザリーよ。
あと敬語は使わなくて良いわ。」
「うん、わかった。 よろしくロザリー!」