1. ジルとララ
「ララー 起きれるかい? 朝ごはんだよ。」
「んぅ…… おはよう。ありがとうお兄ちゃん。」
ベッドサイドのテーブルにプレートを置いて、横になっていた妹の背中を支え身体を起こしてやる。
そしてプレートに乗せていたお椀とスプーンを、左右それぞれの手にしっかりと持てるよう手渡す。
朝食はいつも同じで、細かく切った野菜やキノコを入れて芋が溶けるまで煮込んだスープだ。
「熱いから気を付けるんだよ。」
「もう、私だっていつまでも小さい子供じゃないのに……」
ララが口を尖らせながら不満そうな声をあげる。
「はは、ごめんごめん。」
ララは生まれつき不治の病を患っている。
数万人に一人くらいの割合で出るらしい、詳しい原因も治療法もわかっていない病だ。
今年で8歳になるけど、身体の成長が遅く年の割にかなり小さい。
肌はカサつき血色が悪く、髪もなかなか伸びないので少し肩にかかる程度の長さしかない。
僕と同じ淡いブロンドの髪は、パサついているせいか少しくすんで見える。
「ふぅっ、ふぅっ」
スプーンに掬ったスープを頑張って冷ましているララを見守る。
去年まではスープも僕が食べさせてあげていたが、今年に入ってから急に自分で食べると言い出した。
ほとんどベッドに寝たきりのララは力も弱く、食事の間お椀を持ち続けるだけでも大変そうだ。
いつまでも子供扱いされるのが嫌だと言っていたけど、子供という以前にララは病人なのに……
今もスプーンを持つ手が小刻みに震えている。
出来ることはなんだってやってやりたいけど、ララの気持ちも尊重しなきゃと思う。
(きっと、僕に気を使ってるんだろうな……。)
父さんも母さんも亡くなって、生活していくために必要な事を今まで僕が一人で全てやってきたから。
少しでも、自分で出来ることをやりたいんだと思う。
「ふぅ……ごちそうさまでした。」
「おおっ、すごいじゃないか! 今日は全部食べれたんだね。」
えへへっ と嬉しそうに笑うララの頭を撫でてから、食器を片付ける。
手早く洗い終わると、狩り用のベストを着て矢筒を背負い、腰に採取用の籠を下げ弓を手に持った。
「じゃぁ、僕は森に行ってくるから、留守番よろしくね。」
「はぁい、いってらっしゃいお兄ちゃん。気を付けてね。」
一人で留守番させるのは心配だし寂しい思いをさせるのは心苦しいが、食料の調達もしなければならない。
またベッドに横になったララに見送られながら家を出て、森へと向かった。