人形令嬢?と婚約者
と、言うわけで。
こちらへ。今日も良くいらしてくださいました。
うふふ。その様におっしゃってくださるのはエーリク様だけですわ。エーリク様の前では、表情を動かさない練習が上手くいきません。
もう…。はい、じゃあ、今日は止めておきますわ。次回はがんばるので、お付き合いくださいませね。
婚約式の時は、ゴマ伯爵夫妻御二方とも本当に喜んでいただけたみたいで、大変ご丁寧なお手紙を御二方からいただきましたの。まあまあ、意思疎通が難しいのは、致し方ないでしょう。御二方とも、ご多忙ですもの。
第4王女殿下のご結婚ももうすぐですから、御義母様もしばらくしたら落ち着かれるのでしょう。ーーそうこうしているうちに、貴方の婿入りの時期になってしまいますけれど。
仕事ばかりで4人とも、じっくり育てられなくて申し訳なかったって書いていらしたわ。素敵な方ね。
御姉様は、御母様の紹介で王城で侍女の仕事をされるってーーあら。さすがにそれはもうご存知? ちなみにいつ?
やったわ!ふふふ。わたくしの方が先に知りましてよ!なんと貴方の3日前!
さすが、未来の侯爵家執事でしょう?
旦那様には負けて居られないわ。
ゴマ伯爵家の内情は、わたくしの手の内ですからねっ。わたくしが手に入れるのですから、複雑な顔をするエーリク様は別の所の情報を取ってきてくださいな。
じゃあ、今日は何をします?
利き茶もかなりやりましたものね。
お見事、正解です。本日は最近女性に話題の『春影堂』のダージリン、キャラメルの香り、です。
香りだけなら、甘すぎませんでしょう?
もう。流行り物にも隙がないんだから。
今日はーー。
利きチーズは、なかなか奥深いものがありますけれど。そうすると、ワインも開けたくなりますものね。昼にすることではありませんわね。
うふふ。前回は、ひっくり返してしまって、染み抜き大会になってしまいましたもの。やっぱりお酢が最強でしたわね。ぬるま湯の湯加減もなかなか参考になりましたわ。
お外へ出かけます?
エーリク様となら、書物を見るだけでない、実体験ができますもの。
危険なことは、さすがに致しませんわ。お止めになるでしょう。
王立美術館の今の催しは「人物画展」ですわ。わたくしは一度見に行きましたので、あまり。レンブルーの話題作は確かに一見の価値はございましたが。
それより、常設展示の「獅子王、王妃の首飾り」はいつ見ても素晴らしい。一級品の宝玉の存在感に圧倒されますし、目から埃が落ちる様で、審美眼が磨かれる心地がしますわ。
そうそう。
お祖父様から、侯爵家の宝物庫に入る許可を頂きましたの。今日、2人でアクセサリーの誇り払いをやります?
あまり多くはないけれど、銀製もありますの。銀は度々磨かないといけないでしょう?とはいえ、信用できる者にしか任せられない仕事だから、と。
では、今から行ってみましょう。
まぁ、驚かれることはありませんわよ。お祖父様には『想定の範囲』でしょうから、快く受け入れてくださるわ。
『侯爵家』には行くけれど、「使用人」に会いに行くのに、先触れは要りません。
それに、ここは侯爵家の敷地内の様なものなのですから。さぁさ、お隣に行きましょう?
あっ、でも、お父様とお母様に見つかったら、これから出かける用事があるって言って逃げましょうね。捕まると長いんだから!
お父様との組み手をお望みなら、止めませんけれどーー結婚したら、いつでもできることですよ?
祖父「良い婿も迎えられそうじゃしのー。ポケル地方は安泰じゃー」
祖母「数字に強いそうですからね。家政というよりは、領政の方で働いてもらいますよ」
祖父「あっ…(盗られた!)」
祖母「後継を二人も家政で取るおつもり?」
祖父「……(婿よ…地獄の修行が待っておるぞ!)」
良い家の執事って、そこの縁戚で爵位持ってるときあるよねー、から考えたネタでした!
結局婚約破棄モノではある…。