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黄昏の国 ~終焉を迎える世界の運命に抗う少年と少女の物語~  作者: 夢乃
第一部 終末の迫る世界に足掻く少年
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1-009 魔術訓練・実践

 ロイが薪割りを始めてから1(ヶ月)。剣の稽古と魔術の訓練と薪割りを終えたロイの元を、レーヌが訪れた。

「もう、すっかり慣れたね」

 レーヌは明るい声で言った。

「まあ、これだけやってりゃあな」

「そんなロイに、今日はご褒美だよ」

「ご褒美?」


 レーヌはにっこり笑うと、後ろに手を回した。手を前に出した時、そこには剣が握られていた。

「これって……」

「ロイの剣だよ」

 ロイは、震える手でそれを受け取った。

「……これ、どうしたんだ……?」

「えっとね、ロイの折れた剣を溶かしてから打ち直してもらったんだよ」

「それを、レーヌが?」

「うん。……って言いたいところなんだけど、ちょっと違うの」

「じゃあ、誰が」


 レーヌは「内緒にって言われたから、わたしから聞いたこと言わないでね」と念を押してから白状した。口止めをされてはいたが、隠すつもりはなかったようだ。

「ロイのお父さんだよ」

「親父が?」

「うん。少し前にわたしの所に来てね、ロイが剣を持っていいと判断したら渡してくれって」

「……そうか。……ありがとう」

「感謝は小父さんにしてね。言葉で言うんじゃなくて、態度でね」

「うん……」

 ロイは素直に頷いた。


「さてと、もう1つ」レーヌは言葉を続けた。「明日から、ロイとわたしで狩に行くよ」

「狩に?」

 ロイは思わず聞き返した。

「うん。ロイが魔力による強化を実践できるか見極めるの」

「それは構わないけど……ほかに誰が来るんだ?」

 獣の駆除に復帰する前に、特訓の成果の見極めはされることは解っていたが、それをするのは、エベルとは言わないものの、成人(14歳)した大人の剣士か魔術士が見極めるものと思っていた。


「ううん、ロイとわたしの2人だけだよ。エベルが、全部わたしに任せるって」

「……そうなのか……」

 ロイはしばし呆然とした。

 ロイも、この魔術訓練の間に14歳を過ぎ成人していたが、まだエベルの信頼を勝ち得ていない。それなのに歳下のレーヌは、1人で村の外の森に入る許可も得ている上に、ロイの“教育”を全面的に任されている。ロイはますます、レーヌとの“差”を意識せざるを得なかった。


 しかし、気落ちしてはいられない。そんなことでは、エベルに認められるどころか、レーヌに追い付くことすら叶わない。

「解った。時間は、朝から?」

「うん、そうだね。下手すると1日見つからないこともあるし、なるべく時間は多くしたいね。剣の稽古の時間を削っちゃって悪いけど」

「いいさ。要は実戦訓練だろう? それなら剣の稽古でもあるし」

「それと実は、食糧調達でもあるんだけど。この前の瘴期、襲って来た獣が少なかったらしいから」


 村で消費される食肉は、ほとんどが瘴期に駆除された獣の肉だ。しかし、瘴期に村を襲う獣の数は一定していないので、毎回十分な量の肉を確保できるとは限らない。

 そんな時は、大抵は野菜の消費量を増やすのだが、時には瘴期と瘴期の間の間瘴期に、狩に出ることもある。今回は、剣と魔術の訓練を兼ねて、ロイにその役が充てられた、ということだ。


「それじゃ、明日は広場に行けばいいかな。それとも、レーヌを迎えに行くか?」

「色々用意があるから、村の北門のとこで」

「解った」

 明日のことはそこまでにして、ロイはレーヌと別れて家に足を向けた。父への感謝をどう示したものだろう、と考えながら。



 ∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞



 翌日、ロイは装備を整えて北門へ向かった。

 村は、瘴期の獣の襲撃に備えて柵で囲まれていて、外に出るには東西南北どこかの門を使う。他にも、瘴期に剣士たちの交代を速やかに行うための門がいくつかあるが、普段はあまり使われない。

 柵にしても、それほど頑丈にできているわけではないので、瘴気で凶暴になった大型の獣にはあまり意味はないが、それでも無いよりはずっとマシだ。


 前回の瘴期は獣の数が少なかったと聞いている通り、柵まで肉薄した大型の獣はいなかったらしく、壊れている箇所もない。それでも、より頑強にするために、新しい板を打ち付けて補強している村人がいる。

 ロイには実感はないが、年を追うごとに瘴期の獣たちの凶暴性が増しているらしい。ここのところ、村の老人たちに話を聞いて回っているロイは、そういう話も聞いていた。いつか、人の手では抑えることができなくなるかも知れない、その時はこの村も終わりだろう、と。


「ロイ、おはよう」

 そんなことを考えながらロイが北門に着くと、すでにレーヌが待っていた。革の服とブーツを身に付け、革のマントを肩に掛けている。傍には荷車が用意され、(ながえ)にはウシが繋がれている。

「おはよう。どうしたんだ、これ?」

「狩った獣のを持って帰るのに必要だから、借りて来たよ。すぐに出発するけど、いい?」

「ああ。行こう」


 狩場となる森に到着するまでの間に、レーヌは今日の狩のルールを説明した。

 今までロイの武具に掛けていた強化をレーヌは行わない。

 それ以外でも、レーヌは基本的に手を出さない。

 ただし、ロイが危険になった時だけは守る。

「でも、あまり当てにはしないでね。わたしは荷車から離れられないし、そもそもロイの練習が目的なんだから」

「解ってるさ。レーヌには暇にしててもらうよ」


 土を踏み固めただけの道に沿って2人は進み、やがて村人たちの狩場となっている森に入った。狩場と言っても、瘴期があるため滅多に使われないのだが。

「そう言えば、ロイって狩をしたことあるの?」

「そう言うことは先に聞けよな」レーヌの問に苦笑いしつつも、ロイは答える。「前に、大人たちに混じって2回来たよ」

「それなら、わたしが何か言う必要もないね。じゃ、行って来て。あ、あんまり離れないでね。道から2テック(キロ)程度にして」

「解った。ってか、レーヌはそんなに魔力を広げられるのかよ」

「わたしだって、毎日何もしてないわけじゃないよ。ロイに置いてかれたくないからね」


 いや、置いて行かれているのはオレの方だ、とロイは思ったが、それを口にすると情け無くなるので思うだけに留めた。

「じゃ、行って来る」

「うん。道に沿って動くなら、わたしも追いかけるから2テック(キロ)に囚われなくていいからね」

「ああ」

 その言葉を最後に、ロイは道を外れて森に分け入った。



 ∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞



 ロイは、かつて狩に連れられて来た時に大人たちから学んだことを思い出しながら、気配を殺して静かに森を進んだ。獲物のいそうな方角へ、勘で進んで行く。とは言っても、過去2回しか狩猟の経験がないので、その勘が合っているかどうかは未知数だ。気配の殺し方も、狩猟の時に習ったことを自己流で磨いただけに過ぎず、どの程度効果を発揮しているのかロイ自身にも判らない。


 2テック(キロメートル)も魔力を広げられるレーヌならば、気配を探るまでもなく獲物の位置が判るのだろうし、そのまま魔術を使って仕留めることも簡単だろう。

 レーヌに魔術を習い始めてから何度となく味わう劣等感を、ここでもまた噛み締めるロイだったが、不思議と心が乱れることはなかった。以前は意図的に避けていた彼女と、幼い頃のように身近に接することで、劣等感を克服しつつあるのかも知れない。


 森を進むロイの前に、下生えの低い広場のようになった場所が現れた。そこで、4匹のウサギが草を()んでいる。ロイは気配を殺したまま、少し考える。

 ここから一気に踏み込んだとして、剣の届く距離に近付く前に絶対に気付かれる。気付いたら、ウサギは全力でロイに向かって疾走するだろう。そのままロイの横を通り過ぎ、或いは突き飛ばして、駆け抜けていく。頑丈なツノが身体に当たったら、魔力で強化した防具を着けていても、大怪我しかねない。


 ロイは音を立てないように剣を抜くと左手に持ち、足元を見回して小さな石を3個、右手に握った。剣と防具に魔力を通し、強化する。

 一度深呼吸すると、広場に飛び出す。すぐにウサギたちはロイに気付き、ロイの思った通り、4匹纏まって突っ込んで来た。

 ロイは右手に握った石を1つずつ投げる。1つは空振りだったが、2つは2匹のウサギに当たった。ウサギたちの距離がばらける。


 ロイは剣を両手で握ると、ほぼ同時に向かって来た2匹のウサギの首を、剣を二閃させて切断する。1匹は首が落ち、もう1匹は半分ほどくっついていたものの、絶命して地面に落ちた。

 続けて、ロイの投石を受けてタイミングを遅らされた2匹のウサギも的確に仕留める。先に来た1匹の頭に剣を突き立て、すぐに抜いてもう1匹の胴体を剣で突き刺した。


 10数ミテン()で、片は付いた。剣を振って血を払い、剣身を確認する。刃こぼれはないし、ひと振りしただけなのに血痕もない。上手くできているようだ、とロイは一先ず胸を撫で下ろす。

 それからロイは少し考えると、4匹のウサギの血抜きをする。抜いた血は地面に円形に撒き、その中央に4匹のウサギをまとめて置いた。

 風向きを確認して、広場の風上側の木の陰に身を潜めて気配を絶つ。


 息も殺してしばらく待つと、広場の反対側から3匹のオオカミが姿を現した。ロイは、抜いたままだった剣を握る手に力を込め、再び剣と防具に魔力を通す。

 オオカミたちがウサギの死体に近付いたところで、ロイは木の陰から飛び出した。当然オオカミも気付き、ウサギからロイに標的を変えて臨戦態勢を取る。


 ロイは一番近いオオカミに向かったが、剣が届く前にオオカミから襲って来た。最初の1匹がロイに向かって地を駆け、彼の手前で跳躍し飛び掛かる。

 ロイは脚を止めると剣を横に振り払って、飛びかかったオオカミを一刀の下に斬り伏せる。

 すぐに剣を戻して、左から飛び掛かろうとしていたオオカミの脳天に剣を振り下ろし、動きを止めることなく最後のオオカミも斬り払った。


「ふう。一先ずこんなところでいいかな。これだけで、荷車もいっぱいになるだろうし」

 ロイは、オオカミも血抜きしてから剣を納め、今も魔力を広げて視ているだろうレーヌに頭で話しかけた。レーヌは念話も使えるはずだ。

〈レーヌ、聞こえるか?〉

〈うん、聞こえるよ〉

〈取り敢えず、ウサギ4匹とオオカミ3匹を仕留めたから、回収してくれないか?〉

〈まだそんなに経ってないのに、さすがよね。うん、解った〉

〈オレも戻るよ。場所は変わっていないかな?〉

〈うん、移動してないよ〉

〈解った〉


 ロイの目の前の獲物が、次々と消えた。ロイも、レーヌが待つ森の中の道に向かって歩き出した。



■作中に出てきた単位の解説■


距離の単位:

1テック≒1キロメートル の感覚です。


時間の単位:

1  季≒1ヶ月

1ミテン≒1秒 の感覚です。



■動物図鑑■


ウサギ:

 小型の草食四足獣。体長(50)()6テール(60センチメートル)で体毛は茶色、長さ40~50テリン(4~5センチメートル)ほどの耳と、くるんと丸まった二本の硬い角を持つ。

 遠くの敵からは逃げるが、至近距離に敵を認めると、その敵目掛けて突進し、相手が(ひる)んで避けたところを、そのまま駆け抜けて逃げて行く。

 まあ、その、つまり、「異世界転移 ~変貌を遂げた世界で始まる新たな生活~」 https://ncode.syosetu.com/n8574hb/ に登場したツノウサギです。

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