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黄昏の国 ~終焉を迎える世界の運命に抗う少年と少女の物語~  作者: 夢乃
第二部 終末を迎える世界の延命を試みる少女
42/54

2-012 軟禁

 レーヌとロイは、拘束こそされなかったものの、10人もの兵士に囲まれて、夜の道を連行された。宿屋の部屋に入って来た兵士は4人だったが、外に連れ出された時にさらに6人もの兵士が待機しているのを見たロイは、呆れたものだ。子供にしか見えない2人になんと大袈裟な、と。それだけ、ここの村長(むらおさ)が臆病なのかも知れない。


 兵士たちは松明を手にしていた。どこまで歩くのかは知らないが、村の外に出ることはないだろう。そう大した距離でもないのに魔術を使わず松明を使うのは、この10人の兵士たちは誰もそれだけの魔力の持ち合わせがないのだろうか。

〈多分、面倒なんだと思うよ〉

 ロイが松明を意識したことに気付いたのか、レーヌが念話でロイに話し掛けた。

〈面倒って、何が?〉

〈ここ、村中に魔力障壁が張ってあるから、魔力をあんまり伸ばせないんだよ。だから道の先を照らせなくて、松明の方が面倒がないんじゃないかな〉

〈魔力障壁って、村の周りだけじゃなくで中にもあるのかよ〉

 ロイは念話で呆れ返った。


〈うん。家の壁の黒い石、魔鉱石って言ったでしょ? それを使って村中に魔力障壁が張ってあるのよ〉

〈それで村人たちの魔術使用が制限されるわけか。なんでわざわざそんなことをするんだ? ってか、レーヌもそれが気になったんだよな〉

〈うん。もしかしたら瘴気結界だけを張るだけができなくて結果的に魔力障壁が張られてるだけかも知れないけど。それとも全然別の理由があるのかも〉

〈結界だけじゃ張れないなんて魔術士、いるのか?〉

〈普通はいないと思うけどね〉


 レーヌとロイが内緒話をしていることに気付いているのかいないのか、兵士たちは言葉を発することなく歩いて行った。

 兵士たちの行先は明らかだった。高い4つの塔を備えた、村で一番大きい館だ。兵士たちは何度も道を曲がりながら歩いて行く。どうも、目的地までの解りやすい道はないらしい。それとも、わざわざ解りにくい道を選んでいるのだろうか。


 やがて一行は見上げるような巨大な館の正面に来た。レーヌとロイが村に入る前、少し離れた高台から見た時には気付かなかったが、この館の周囲は狭い堀で囲まれていた。一行の前には跳ね橋が下されており、その左右に門番が控えている。

 レーヌとロイを連行して来た兵士の1人、宿屋の部屋までやって来て喚いていた男が門番に寄って耳打ちした。門番は頷き、兵士たちはレーヌとロイを囲んだまま、跳ね橋を渡る。


 一行の後から門番たちも跳ね橋を渡って館に入り、彼らの後ろで大きな軋み音を立てながら、跳ね橋がゆっくりと上げられていった。

〈これって閉じ込められたんじゃないか?〉

 ロイが念話でレーヌに言った。

〈……そうかも。多分、夜は跳ね橋を上げるんだろうけど、出られなくなったことは変わらない、よね〉

〈大丈夫かな?〉

〈うーん、取り敢えず、村長と会ってみないと〉

〈ってことになるよなぁ〉


 レーヌとロイが内緒話をしている間も、兵士たちは2人を囲んで館の廊下を歩いて行く。館までの道と同じように、廊下を何度も曲がった末に、やっとのことで1つの部屋に入った。


 その部屋は非常に広かった。レーヌとロイの知っている小屋がいくつも入るのではないかと思えるほどに。

 2人を連れて来た兵士は、8人が部屋の左右に分かれ、壁際に整列した。レーヌとロイは、兵士の1人の後に続いて、部屋の中央へと歩みを進める。

 部屋の奥には大きな椅子があり、恰幅のいい男が偉そうに座っている。椅子の後ろ、左右にも2人ずつ兵士が立っている。

 兵士とは別に、椅子の向かって右手にも細い男が立っている。この男も偉そうだ。


「陛下の御前である。頭を垂れよ」

 2人を先導して来た兵士が言って、自ら片膝をついた。が、レーヌもロイも、何を言っているのか解らない。

 立ち尽くしている2人に気付いた兵士が立ち上がり、ロイに詰め寄った。

「陛下の御前であるぞっ。膝をつかんかっ」

 がっとロイの肩を掴み、力を入れる兵士。瞬間、ロイはその手を跳ね除けようと動いたが、部屋に並ぶ兵士たちから一斉に放たれた殺気を感じ取り、素直に膝をつき、頭を伏せた。レーヌも同じようにする。


 兵士も改めて片膝をつき、頭を垂れる。

「陛下、この者たちが『瘴期が無くなる』などという戯言を市井に広めていた者たちです」

 『広めていた』は言い過ぎだろう。そのことはまだ、村の門番と、宿屋の従業員と、買い出しに出た時の店員にしか話していないのだから。

「ふむ。そこな者、面を上げよ」

 恰幅のいい男のその言葉が自分たちにかけられたものとは思わず、レーヌもロイも、動かなかった。


「陛下の仰せであるっ。2人とも、面を上げよっ」

 跪いている兵士に言われて、レーヌとロイは自分たちが言われたのか、とそこで気付き、顔を上げた。

其方(そち)らは、なぜそのような戯言を広めるのだ?」

 レーヌはロイと目を見交わしてから答えた。

「それが事実だからです」

「これまで、何百年、何千年と続いてきた瘴期がなくなると、本気で思っているのか?」

「思っているのではなくて、単に事実です」

 瘴期は精々100年程度しか続いていないのに知った風なことを言うなぁ、とレーヌは思いながらも答えた。


「其方らはそのことをどこで知った? いや、それはどうでもいいか。しかし、そのような戯言を我が国に広められるのは困るのよ」

「は? 何で? 瘴期がなくなって困る人なんかいるのか?」

 ロイが、口を出さずにはいられない、とばかりに思ったことを口にした。

「言葉を慎まんかっ」

 兵士が鋭く言う。しかし、椅子の男はロイの言葉遣いを気にしてはいないらしい。

「良い。瘴期についてだったな。この国では、余が瘴期を抑え国民を守ることで、国民たちの信頼を得ている。しかし、瘴期が無くなるとなれば、その信頼の根幹が揺らぐ」


「……それはつまり、瘴期の有無にかかわらず、瘴期はあることにしておきたい、とそう言うことですか?」

「その通り。其方はなかなか頭の回転が速いと見える」

 レーヌの問いを、椅子の男はくつくつと笑いながら肯定した。

「村人……国民、だっけ、彼らが本当にあんたを信頼しているなら、瘴期から守っているかどうかなんて関係ないんじゃないのか?」

 ロイが言った。

「余がいくら力を持っていても、国民の心までは判らん。『瘴期を防ぐ』という具体的な脅威の排除があるから、国民が余に従っていることは判るが、具体的なメリットがなくなったても従い続けるかは判らん」

「いや、だから……いや、何でもない」

 言いかけた言葉を、ロイは呑み込んだ。この男には何を言っても無駄だろう。


「……解りました。瘴期の消失のことは言いません。明日の朝にはここを発ちます」

 レーヌは言った。どうせ、瘴期がなくなること、魔術を使えなくなることを、世界のすべての村に伝えることは不可能なのだ。それなら、この村──国──の人々に伝えずとも、大した影響はない。

 しかし、男はいやらしい笑みを浮かべた。

「国民の心の内も信じられない余が、旅人でしかない其方らの言葉を信用できると思うのかね?」

「……それなら、どうすると?」

 不穏な気配を感じつつ、レーヌは聞いた。


「おかしなことを国民たちに広められても困る。それに、余の支配地域はここだけでなく、周囲の村にも及ぶ。この国で戯言を広めずとも、支配下にある村で広められても困るのでな。其方らはしばらく、或いは永遠に、拘束させてもらおう」

 ロイが殺気を放ち、飛び出そうとする。しかし、周りの兵士が一斉に剣に手を掛け、さらにレーヌが〈ロイ、抑えて〉と念話で伝え、ロイは動き掛けたところで留まった。


「反抗しないのは利口だな。抵抗しなければ丁重に扱おう。この者たちを地下牢に閉じ込めよ」

 にやにやと笑いながら言った男は、兵士に命じた。左右に控えていた兵士が2人ずつ、ロイとレーヌを立たせる。素直に立ったからか、乱暴に扱われることはなかった。

「陛下、この者たちの持ち物は如何致しましょう?」

「そうだな。今日はもう遅い。空き部屋にまとめて置いておけ。明日、(あらた)める。余も立ち会おう」

「はっ、畏まりましたっ」


 レーヌとロイは兵士たちに連れられて、部屋を出た。



 ∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞



 廊下を何度も曲がり、階段を下りて連れられてきた場所は、鉄格子の嵌った部屋だった。2人を同じ部屋に入れた後、兵士は鉄格子に鍵を掛けて戻って行った。

 部屋にはベッドが2つあり、それなりに清潔に保たれている。男が言っていた通り、扱いはある程度丁重にするつもりのようだ。


「どうするんだよ、こんなところに押し込められて」

 ロイが不満そうに言った。

「だって、あそこで暴れて怪我しても損じゃない」

 レーヌは落ち着いて言った。

「そりゃそうだけど、閉じ込められたらどうしようもないだろう。レーヌなら鍵を開けるくらいはできるだろうけど、階段の前に見張りがいたし、こっそり抜け出すのは無理だろ」

 ただの機械式の錠前なぞ、優秀な魔術士にかかればないも同じだ。魔力障壁でガードされているとそうもいかないが、レーヌならなんとかしてしまうだろう。


「ここから抜けるのは簡単だよ。幸い、荷物を別の部屋に持ってってくれたからね」

 レーヌは何でもないように言った。

「荷物? 別の部屋に持ってかれたらどうもならないだろう。どう取り戻すんだよ」

「ロイ、落ち着いて。荷物の中には、わたしの魔力を込めた魔鉱石が入っているんだよ」

「それがあったからって……いや、待てよ。魔鉱石に込めた魔力は離れていても操作できるって、前に言ってたっけ?」

「うん。しかも魔力障壁が間にあっても問題ないんだよ。野菜の買い出しに行った時に判ったんだけど」


「それはつまり……荷物のある場所に瞬間移動できる? 魔力障壁で隔離されていても」

 ロイは、レーヌが落ち着き払っている理由がやっと解った。

「そういうこと。だからここを抜け出す前に、抜け出すタイミングと抜け出した後の計画を立てよう。それを決めたらすぐに脱出するよ」

「……解った」


 レーヌとロイは相談を始めた。

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