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黄昏の国 ~終焉を迎える世界の運命に抗う少年と少女の物語~  作者: 夢乃
第二部 終末を迎える世界の延命を試みる少女
41/54

2-011 連行

「あそこが次の目的地、か?」

 やや高くなった場所から緩やかな下り坂になっている先を見下ろして、ロイは言った。

「うん、あそこ、だね……」

 レーヌの持っている杖の先の星球儀の光点は、○印と重なっている。そして眼下にあるのは、高い壁で円形に囲まれた広大な村。その広さは、半径1テック(キロメートル)ほどもあるだろうか。


 壁の内側は、中央部には家が建ち並び、外縁部は畑になっているようだ。村の中心から少し北に、4つの尖塔を持つ一際大きい建物がある。そのさらに北にはすり鉢状の大きな黒い穴があり、村の北側の壁に内接している。

 建物は全体的に灰色だが、ところどころに黒い壁が見られる。それは町の街の外壁も同じで、あちこちに黒い色が目立つ。


 外壁の上には一定間隔で大型弩砲(バリスタ)が据え付けられている。瘴期の獣の襲撃に備えたものだろう。あれなら、魔力で強化されたオオトカゲやトビオオトカゲの鱗も撃ち抜けるかも知れない。


「ここは魔鉱石を埋める場所じゃなくて、鉱脈のある場所なんだよな? もしかして、あの穴が鉱脈か?」

「だと思う。多分、壁とか家に見える黒い部分も、魔鉱石なんじゃないかな」

「どうするんだ?」

「これまでと同じで、やることをやるだけかな。鉱脈の魔鉱石にわたしの魔力を目一杯込めるだけ。それと、魔力が使えなくなることを伝えるのと」

「壁に使われている魔鉱石はいいのか」

「うん。あの穴を見た感じ、掘り尽くされたようにも見えないし、それに壁の魔鉱石は結界に使ってるんだろうから、使っちゃうわけにいかないし、そもそも他人の魔力が入ってたら、わたしの魔力を入れられないし」

「わかった。あそこが門かな? あそこを目指して行こう」

「うん」


 2人は緩やかな丘を歩いて下り、村へと近付いて言った。

「レーヌ、どうした?」

 ロイが聞いたのは、レーヌが緊張したように感じたからだ。実際、レーヌはごく僅かではあるが、表情を強張らせていた。

「うん、えっと、壁の魔鉱石で結界を張ってるんだと思うんだけど、瘴気結界だけじゃなくて魔力障壁も張ってあるんだよ」

「それが何か問題か?」

「別に問題ってわけじゃないんだけど……必要もないのにわざわざ張ってるから気になって」


 瘴気結界や物理障壁は、そこにあったとしてもレーヌにも判らない。誰かの魔力が広げられていることが判るだけだ。しかし、魔力障壁は他人の魔力を通さないから、レーヌでなくても魔力をある程度操れる者なら誰にでも判る。

 瘴期に怯える現代、村を結界で覆ったままにするというのは、村人を守る方法としては理に適っている。しかし、そこに魔力障壁を重ねる意味はない。魔術を使う獣は滅多にいないのだから。

 レーヌはそこに、何とは無い違和感を感じた。

 しかし、ここを迂回する選択肢はない。魔鉱石の鉱脈は村の中にあるのだから。


 高台から見えた門の1つに向かって、レーヌとロイは歩いて行った。門の両脇には、2人の男が立っていた。ロイが片方に声をかけようと近付いたが、先に男たちが動いた。

「止まれ」

「どこの村の者だ」

 鋭い言葉で誰何されて、2人は足を止めた。


「えっと……旅の者なのですが、お伝えしたいことがあって寄りました」

「それに、獣の皮を食糧と交換してもらいたくて」

 レーヌとロイは、門番と思しき男に答えた。

「旅? 旅なんぞしていたら、瘴期に困るだろう?」

「そんな奴がいるわけがない。本当はどこの村から来たんだ」

 門番たちは2人の言葉を斬って捨てた。


「瘴期が来ても結界を張れば凌げますし、そのために瘴気に弱い小鳥も連れてます。それに、この先1年くらいで瘴期自体無くなりますし」

「一応、ビラージ村の出身だけど……もう3年近く帰ってないからな」

 レーヌとロイは少し困惑しながら答えた。同時に、レーヌはロイに念話で語りかける。

〈ロイ、魔術が使えなくなることは黙ってて〉

〈了解〉

 その理由には思い至らなかったものの、ロイは門番たちに判らないよう小さく頷いた。


「ビラージ村? 聞いたことないな」

「少なくとも、我が国の傘下にはないな」

 門番は少し離れて、何やら相談してから、2人に向き直った。

「お前たち、獣の皮があると言ったな。何がある?」

「キツネ、オオカミ、クマだな。それに、オオトカゲの鱗も少し」

「オオトカゲの鱗!?」

 門番の1人が大声を上げ、その声に驚いたレーヌは少し身体を震わせた。

「あと、それらの燻製肉とか爪や牙も」

 レーヌがロイの言葉を補足する。


 それを聞いて、門番たちはまたごそごそと内緒話をする。それから再び、2人に向き直った。

「よかろう。俺に着いて来い。宿を紹介してやろう」

「はい、ありがとうございます」

 レーヌは答え、踵を返した門番の1人について村に入った。


「そう言えばお前たち、金は持っているのか?」

 門番が2人に聞いた。

「金?」

「……ってなんですか?」

 ロイとレーヌは首を傾げた。

「金も知らないのか。本当に遠くから来たらしいな」


 門番は貨幣経済について、2人にごく簡単に説明した。

「そんなわけで、この国では宿に泊まるにも金がいる。

 だからまず、万屋に連れて行ってやろう。そこで獣の皮やオオトカゲの鱗を売って金にしてもらえ。宿屋はその後だ」

 親切に教えてもらった万屋で、2人は交換できる物を適当に、金に変えた。材質は銅だろうか。複雑な文様の入った小さな円盤だ。大きさや彫られた紋様の違う、4種類の硬貨だ。


 硬貨23枚と、それを入れるための皮袋までもらって、入口の扉の横に立っていた門番と外に出た。どうも、世間知らずの2人に店主が暴利を貪ったりしないよう、目を光らせていたらしい。


 次に訪れた宿屋で、2人はとりあえず1日だけ宿泊することにした。

「お2人で1泊ですね。1,000ギタンになります。明日の朝食は宿泊費に含まれますが、今日の夕食はいかがなさいますか? 1食100ギタン、お2人でなら200ギタンかかります」

 そう言われても、2人には?である。


「えっと、それはこれで足りてますか?」

 ジャラリと音を立てて、ロイは皮袋をカウンターに置いた。

「拝見しますね。結構ありますね。宿泊にこの1,000ギタン貨1枚、夕食もつけるとこっちの100ギタン貨2枚を追加ね」

 店員は、皮袋の中の1番大きな硬貨と3番目に大きな硬貨を2個、テーブルの上に置いた。

「じゃ、それでお願いします」

「毎度、ありがとうございますっ。すぐにお部屋にご案内しますね」

 ロイが皮袋の口を締めて懐にしまい、店員はすぐに奥から鍵を取って戻ってきた。


「……あっ、すみません、すっかり忘れてました。兵隊さんもお泊りですか?」

 レーヌとロイを案内してきた門番が影のように立っている。

「いえ、自分は本国に不慣れなお2人をご案内しただけですので、この後は職務に復帰します」

 門番は背筋を正して右手の先を額に当てると、宿屋から出て行った。


 2人は部屋へと案内してもらい、さらに桶だけ借りて、『無限の水差し』から貯めた水でタオルを絞り、身体を拭き清めた。

「一応、いつでも出られるように服は着ておけよ」

 ロイは、一度脱いだ革の胴着を、自分も着直しながら言った。

「うん、解ってる」

 レーヌも、ロイの言葉に疑問を挟まない。むしろロイの方が、レーヌが素直なことに気になった。


「なんで旅装を解かないことに反対しないんだ?」

「それ言ったらロイだって」

「オレは、この村の奴らの……っつってもごく一部だけど、目付きが気に入らなかっただけだよ。何となく、オレたちを見張ってる気がする」

 ロイは、レーヌも身支度を終えたことを確認して、窓を開いた。外の光と共に人々の喧騒が流れ込んでくる。

 家の屋根がどどまでも並び、そして1つだけ抜きん出た巨大な建築物。2人の初めて見る光景が広がっている。


「今も、建物の陰に隠れた奴が2、3人いる、気がする」

 ロイは窓から離れて椅子に座った。椅子にしてもテーブルにしても、今まで使って来た、ただ用を成せばいいというだけのものでなく、見た目にも拘っている。こんなのは、エンファンの館で見たくらいだ。質は、エンファンの館の物に及ぶべくもないが。


「そうかぁ。わたしも魔力で探ろうとはしているんだけど、上手くいかないのよね。そこら中、魔力障壁だらけで」

「レーヌの警戒心は、それか?」

「うん。あと、ここまで案内してくれた門番さんが、宿を出たあと門とは別の方角に向かってったんだよね。それもちょっと気になった」


「そうだったか。門番はオレたち自体のことはあまり気にしてなさそうだったからな、気付かなかったよ」

「ロイの感覚って、野生動物が放ってる殺気を感じてるみたいなとこあるもんね」

「まあな。人間相手に役立つことがあるとは思わなかったけど。とにかく、明日は早々に用を済まして立ち去ろう。必要なものは、今から手に入れてくるか」

「うん。お野菜とか、欲しいもんね。さっきのお金で交換できるんだよね」

「門番に聞いた話だとな」



 ∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞



 2人は、荷物を重くしすぎない程度の少量の根菜や葉物、果物やパンを仕入れ、宿屋に戻って夕食を摂った。

「ご飯もベッドも用意しなくていいって、宿屋って楽ね」

「世界に瘴期が来る前は、こういう宿屋も村ごとにあったんだろうな」

「今じゃ、そもそも旅をしようって人がいないもんね」


 ベッドと椅子、それぞれに座って話していると、突然ドタドタといつ乱暴な足音が届いた。自然、2人は立ち上がり、扉に向かって身構える。

 足音は2人の部屋の前で止まると、次の瞬間、勢い良く開けられた。壊れそうな勢いで開かれた扉が勢いで閉じかけ、それを扉の外の手が止める。

 部屋に入って来たのは、門番と同じような服装の、4人の屈強な男たち。


「なんだ? 何の用だ?」

 ロイが鋭い声で言う。

「貴様らが『瘴期はなくなる』などと言う世迷いごとを吐いている輩か!」

 レーヌはロイとチラリと目を見交わせた。

「どうなのだ!」

 恫喝するように言う、リーダーらしき男。

「言いましたよ。世迷いごとじゃないけど」

「口答えするな!」


(いちいち声が大きいっ)

 レーヌは内心毒づいた。恐怖は全く感じなかった。エンファンの威圧に比べたら、声が大きいだけの木偶の言葉など、そよ風にもならない。

「では、これからこの者らを陛下の元に連行する」

「は?」

 ロイが言った。

「連行って何だよ。どこか連れて行くのか? 何で?」

「問答無用!」


(鼓膜が破れるぅ~)

 そう思いつつも、レーヌはロイに念話で意思を伝える。

〈ロイ、とりあえず言う通りにしよう〉

〈いいのかよ〉

〈多分、連れてかれるのって村長(むらおさ)のとこでしょ? なら手っ取り早いかも知れない〉

〈……レーヌがそう言うなら〉


「あー、解りましたー。どこでも着いてくので案内してくださいー」

「ふん、初めからそう言えばいい。着いて来い。変なこと考えるなよ。それと2人の荷物はそれだけか。それもまとめて持って来い」

 前と後ろを門番、いや、兵士たちに挟まれて、レーヌとロイは連行された。



■作中に出てきた単位の解説■


距離の単位:

1テック≒ 1キロメートル の感覚です。


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