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黄昏の国 ~終焉を迎える世界の運命に抗う少年と少女の物語~  作者: 夢乃
第二部 終末を迎える世界の延命を試みる少女
40/54

2-010 レーヌの剣と杖

 村に泊めてもらった2人は、翌日には持っていた獣の皮を根菜と交換してもらい、早々に旅を再開した。世界は広い。のんびり休んでいる時間はない。

 基本的には単調な日々が続いた。瞬間移動と徒歩で目的地を目指し、魔力を満たした魔鉱石を地下に埋める。星球儀の●印から●印までの移動には、最初はおよそ6日を要していたが、次第にレーヌが瞬間移動の回数を増やしていき、移動日数を縮めていった。


「そんなに連続で瞬間移動して大丈夫なのか?」

「うん。なんか、毎日使っていて慣れてきたのかな、前より集中力が続くようになったよ。それに、魔力を広げられる距離も少しずつ伸びてるから、一回の移動距離も伸びてるし」

 ロイはレーヌの体調を心配したが、レーヌは無理をしているつもりはまったくなかった。

 村で暮らしていた時は最長距離での連続瞬間移動など使う機会がなかったが、世界再生の仕込みに出てからそれを繰り返しているため、効率のいい魔力の使い方を感覚的に急速に覚えていた。その結果、魔術を行使する際の精神疲労がかなり軽減され、連続の瞬間移動を以前に比べて苦もなく行えるようになっていた。


 そのお陰でレーヌの計画にも日程的な余裕が生まれた。その余裕を、レーヌはロイから剣を教えてもらうことに使った。

「魔術を使えなくなったら、わたしじゃ何もできないからね。少しでも覚えておかなくちゃ」

「レーヌが戦えなければ、オレが守るよ」

 ロイは真顔で言ったが、それでもレーヌは剣を教えてくれるように頼んだ。

「瘴期がなくなればあんまりないとは思うけど、それでも獣の群に囲まれる可能性はあるよね? その時にわたしも、自分の身を守れるくらいにはなってた方がいいでしょ」

 できればロイに安心して背中を預けてもらえるくらいにはなりたいし、と心の中でレーヌは付け加えた。


「そう言うことなら教えるけど、オレ、他人(ひと)に剣を教えたことなんてないからな。上手く教えられるかわからないよ」

「何も解らないとこから独学でやるよりずっといいよ。わたしのはロイのと違って短剣だから、勝手は違うだろうけど」

「解った。なら、早速始めるか」


 以前、村でレーヌがロイに魔術を教えていたのとは逆に、今度はロイが教師役となってレーヌに剣の扱い方を教えた。レーヌも一応、護身用に、獣の攻撃を防ぐ、受け流すことだけを目的に短剣の扱い方を習ってはいたので、基礎はできていた。お陰で、教育者としての経験のないロイの教え方でも、レーヌは少しずつ剣の腕を上げていった。



 ∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞



「この水差しは、魔術が使えなくなってもそのままなのか?」

 食事中、『無限の水差し』から水を飲んだロイは、それをしげしげと眺めながら言った。

「うん、そのはず。魔術が使えなくなるのは魔力がなくなるからなんだけど、これは神器だからね。神力を使った仕組みのはずだから、ずっと使えるはずだよ」

 それがどうかしたの?とレーヌは首を傾げる。


「その『星球儀の杖』も神器なんだよな」

 ロイは、地面に突き刺されている杖に目をやった。

「うん。杖の部分はエンファン様に加工してもらったって、メナージュさんが言っていたし」

「それならさ……今更ではあるんだけど、短剣を使わなくてもその杖で殴ったらいいんじゃないか? その方がリーチも稼げるし」

「……あ」


 神器は人の手で破壊することはおろか、傷つけることすら不可能だ。ならば、それは破壊不可能でメンテナンスも不要の鈍器となり得る。

 レーヌが杖の中ほどを片手で持っても軽々と振り回せるほどなので、重量はそれほどでもないが、それでも杖の先を両手で持って振り回せば、先端の速度はかなりのものになるだろうから、それなりの攻撃力を期待できそうだ。


「全然考えてなかった。言われてみると、そうだね」

 レーヌは座ったまま『星球儀の杖』を引っこ抜くと、星球儀の部分をコツコツと叩き、それから拳を固めて殴った。

「っ痛ったぁ」

「怪我するなよ」

 いきなりの奇行に走ったレーヌに、ロイは苦笑いを浮かべる。


「武器として使えるか確認しておかないとね。えっと、じゃあ」

 レーヌは立ち上がり、杖の先を両手で持って振りかぶった。それを一息に地面に向けて振り下ろす。

「あっ」

 ガツッと音を立てて、土が僅かに凹み、杖が回転する。

「使えそうか?」

「うーん、当たった時に球が回転しちゃって、力が逃げちゃう感じかな。これならどうかな」


 レーヌはもう一度杖を振りかぶり、再び振り下ろした。

 今度は星球儀を杖に固定しているフレームが地面に突き刺さる。

「これなら使えそう」

「凶悪だな、丸い球でなく尖がったフレームを使うところが」

「回転して安定しないんだから仕方ないよ」

「それで、星球儀は大丈夫なのか?」

「大丈夫のはず。えっと」

 レーヌが星球儀を確認すると、現在地にきちんと光が点滅している。書き込まれた印も消えていない。

「星球儀が無事なのはいいとして、書き込んだ印も擦れて消えたりしないのは、何でなんだろう?」

 ロイが疑問を呈した。

「書き込むのに使っているのが『無限の炭筆』だからじゃないかな? これも神器だから」

「そう言えば、前にそんなことを言っていたな。何でもアリだよな、神器って」

「わたしたちから見たら、そうだよね。エンファン様の口振りだと、制限はあるみたいだけど」

「それで、杖も使ってみるか? オレ、棒術の経験はないから剣と違って教えられないけど」

「うん、次の瘴期に使ってみる」


 レーヌは杖を縦や横に振り回して言った。

 その様子をしばらく見ていたロイは、素人ながら気付いたことを数点、注意した。振りかぶる動作が大きいので避けやすいことや、避けられてしまうと隙が大きいことなど、棒術には精通していなくても、剣士としてレーヌの動きにどう対応するかを考えると、自然と彼女の動きの欠点が見えたからだ。

 レーヌも、ロイの言葉を素直に聞き入れた。魔術ならともかく、武器を使っての実戦経験などほとんどないのだから。



 ∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞



 次の瘴期で、レーヌは早速、杖による打撃を試した。無理はせず、大挙する獣を電撃で数を減らしてから杖で殴りつけ、一撃で仕留められない場合にはすぐに魔力を併用してとどめを刺した。


「上手く使えているな」

 獣の襲撃がない時に、ロイが言った。

「うん。瘴期の獣って考えなしに真正面からくるから、避けられることがあまりないんだよね。落ち着いて狙えば、オオカミくらいの獣までは大丈夫みたい。クマサイズになると無理だけど」

 実際、襲って来たクマの、頭には届きそうになかったので、脚を横殴りしたが、まったく通用しなかった。すぐに方針を変え、一旦後ろに飛び退いてから杖先を前にして杖を投げ、魔力で軌道と速度を操作して心臓を貫き、倒した。


「あの戦法は、魔術を使わないと無理なんだろう?」

「うん。魔力を併用しないとあんなにまっすぐ飛ばないし、スピードも乗らないよ。剣みたいに手に持ったまま突こうとしても、星球儀が大きくてバランスが取れないし、短剣もクマを倒すほどの腕はないし、魔力がなくなってしばらくは、クマはロイ頼みかな」

「任せとけ」

「あ、また来る。キツネかイタチっぽい小さい獣が6」

 すぐに2人で、向かって来る獣に相対し、ロイが斬り殺し、レーヌが殴り殺す。

 終わると、元の場所に戻って休む。処理は瘴期が過ぎてからだ。


「ただな、魔術を使えなくなると、オオトカゲやトビオオトカゲに出会ったら厄介だな。あんなの、魔術抜きでどう倒せばいいのか見当もつかない」

 ロイが言った。

「確かにね。でも、斬れ味のいい剣があれば、ロイならなんとかなるんじゃないかな」

「それは買い被りだよ。前にオオトカゲと戦った時、剣に纏わせた魔力を使ってギリギリ倒せただけなのに」

「でも、オオトカゲも魔術を使えなくなるから、何とかなると思うよ」

「は? あれも魔術を使ってたのか? 獣なのに。いや、あの口から噴く炎は魔術か」

「それだけじゃなくて、魔力を使って身体強化もしてたから、それがなくなれば鱗にも剣が通るんじゃないかな」

「そうなのか? それなら時間をかければ何とかなるか……いや、でもこっちも強化がないわけだから、際どいか……」


 ブツブツと、魔力の無くなった世界での対オオトカゲ戦をシミュレートするロイ。実際のところ、魔力が消えてオオトカゲがどれだけ弱体化するか判らないので正確な戦況予想は不可能だが、強敵との遭遇に備えて戦い方を予測することは、無駄にはならないだろう。

「あ、また。今度はオオカミサイズ、3」

 レーヌの言葉で、ロイは思考を中断した。余所事を考えていたら、凶暴化した獣に対抗できない。


 ロイは、向かって来る獣に対峙して剣を構えた。



 ∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞



 瘴期が過ぎると、倒した獣を集めて血を抜き、皮を剥いで肉を燻製にした。

「この時間がもったいないなぁ。手っ取り早く燻製を作れるといいのに」

「文句言うなって。まとめて作ればそれだけ時間も節約できるだろ」

「そうなんだけど」

 水を持つ必要がないから、食糧を余計に持つことができる。瘴期の後で10日分の食糧を確保できれば、次の瘴期まで狩をする必要もなくなり、返って効率は上がる。


 それが解ってはいるものの、レーヌは早く先へ進みたかった。瘴期を少しでも早く防ぐために。

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