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黄昏の国 ~終焉を迎える世界の運命に抗う少年と少女の物語~  作者: 夢乃
第二部 終末を迎える世界の延命を試みる少女
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2-009 仕込みと情報拡散

「さってと、ここからは瞬間移動も使って、サクサク行くよ」

 必要な数の魔鉱石の塊を切り出して一夜を明かした翌朝、食事を摂った後でレーヌはロイに宣言した。

「サクサクって、1日にどれくらい瞬間移動するつもりだ?」

「1日、50回のつもり」

「おい、ちょっと待て。前に連続20回が限度っ言ってなかったか?」

 レーヌの言葉に、ロイは気色ばんだ。ロイとしては、世界を救うためであってもレーヌに無理をさせたくはなかった。


「大丈夫。えっと、1日に10ミック(時間)移動するでしょ。1ミック(時間)置きに5回瞬間移動で移動すれば、1日に50回は余裕でしょ。あ、1日の移動の終わりにもう一度瞬間移動すれば、55回もいけるかな」

「1ミック(時間)で、5回の瞬間移動の疲労は回復するのか?」

 ロイは疑り深そうに聞いた。

「多分、大丈夫だと思うよ。魔鉱石を採掘してる時、集中力の低下と回復を気にしながらやってたから、瞬間移動の疲労と回復の感覚はなんとなく掴めたと思う」

「それなら、その方針で行くか」

 途中で倒れたりしないだろうな、という心配の目をレーヌに向けつつも、ロイは頷いた。


「じゃ、さっそく行こう。あ、その前に」

 レーヌは荷物から魔鉱石を取り出した。ロイから鳥籠を受け取って、その中に魔力を伸ばしてゆく。

「これでよし、っと」

「何したんだ?」

「鳥の脚にね、魔鉱石のリングを嵌めたの。瞬間移動する時、籠の中に指を入れるのも面倒だし」

「そうか。それで大丈夫なのか?」

「えーっと、うん、問題ないよ。瞬間移動できる」

「よし、それなら行くか」


 出発の支度を整えた2人は、早速手を握り、レーヌの瞬間移動でその場から消えた。



 ∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞



「ここ、が2番目の目的地か」

 相変わらずの荒野だ。魔鉱石を掘った場所よりも草が少ない。そして、少し離れた場所に村と思しき集合した建物が見える。

 レーヌの持つ杖の先の星球儀を見ると、光点は●印に重なっている。

「うん、そう」

「ここで何をするんだ?」

「んー、一言で言うと、楔を打ち込んでおく、ってとこかな」

「楔?」

「うん。この前切り出した魔鉱石のことだけどね」


 レーヌは『星球儀の杖』を地面に刺すと、ロイが地面に置いた『転移の鞄』を開いて魔鉱石の塊を1個取り出した。

「1人で持てないほどじゃないけど、やっぱり重いね」

 よいしょっと取り出した魔鉱石を地面に置く。

「次からは俺が出すよ」

 ロイは言ったが、しかしレーヌは、首を横に振った。


「ううん、わたしも少しは身体を鍛えないといけないから、これくらいはやるよ。この程度でどのくらい鍛えられるかは判らないけど」

 レーヌは鞄を閉じながら言った。

「レーヌは今くらいの、そこそこの運動能力があれば十分なんじゃないか? 魔術の腕は最高レベルだろ? 今ならソーサも超えていると思うぞ」

 ロイは、故郷の村の最高魔術士の名前を出した。

 実のところロイは、村を出て間もない頃から、レーヌはソーサ以上に強力な魔術士だと思っている。そして、それは事実でもあった。


 しかしレーヌは、魔術が無意味であることを、いや、無意味になることを説明した。

「前にも言ったけど、世界再生のトリガーを引くとね、魔力がなくなるのよ。だから、たとえわたしがどんなに強力な魔術士であっても、その意味がなくなるの。だから、それに備えて身体も鍛えておく必要があるのよ」

「魔術が使えなくなるって、レーヌもなのか?」

「もちろん。だから、ロイの使ってる武具の強化もできなくなるから、気を付けてね。今はまだいいけど、魔力がなくなったら剣を何本か持ったり、小まめに手入れしないと駄目になるから」

「解った。覚えておく」


 話している間にレーヌは魔鉱石に魔力を最大限充填し、さらに魔力を伸ばして地下を探り、魔鉱石の塊を瞬間移動で地中に埋めた。魔鉱石の置いてあった場所には灰色の岩塊が出現した。

「これで、ここでやることは終わりか?」

「うん。これを黒丸のところ全部でやる」

「随分と数があるよな……確かに、瞬間移動を使わないと1年や2年じゃ終わりそうもないな」

「でしょ? あ、そうだ、終わった場所は印を付けておこう。ルートは書いてあるけど、念のため、ね」

 レーヌは荷物の中から炭筆を取り出し、星球儀の現在地の●印と、魔鉱石を用意した場所の○印に、×印を重ねて書いた。


「休んだら、次に向かうか? オレとしては、あそこに見える村に寄って野菜か何かを手に入れたいんだが」

 ロイは、見えている建物を指差して言った。実際、ここのところの食事は肉に偏っているので、可能なら植物系の食糧も手に入れた方がいい。

「うん、そうだね。無理に探そうとは思わないけど、見つけたら寄ってった方がいいよね。魔術を使えなくなることも、伝えておいた方がいいし」

「なら、一休みしてからあそこに行こう」


 以前、泊まった村で焼き殺されそうになったことを、2人は忘れていなかった。村人との接触は、十分に余裕を持って行なった方がいい。

 2人は地面に座って、しばしの休息を取った。



 ∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞



 訪れた村は、2人が生活していた村とよく似ていた。柵に囲まれた中に粗末な家が建ち、柵の外が畑になっている。規模は少し小さいだろうか。

 レーヌとロイは畑で鍬を振るっていた男に声をかけ、了承を得てから村に入った。歓迎されている風ではなかったものの、煙たがれるようでもない。また、怪しい視線も感じない。ごく普通の、瘴期に疲れた村だった。


 レーヌはまず、村を取りまとめている村長に当たる人物と主だった人々を集めてもらい、1~2年のうちに瘴期が終わること、同時に魔術を使えなくなることを伝えた。

「魔術を使えなくなるって、そんなことになったら村を襲う獣からどうやって村を守ったらいいんだ」

 村人の1人が言った。

「獣も少なくなっていますから、瘴期がなければ十分対応できると思いますよ。それとも、ここは瘴期でなくても獣が群で襲ってくるのですか?」

「さすがにそんなことはないが……」


 村人たちは相談を始めた。しばらく聞いていたレーヌだったが、纏まりそうにないと見て(いとま)を告げた。

 何にしろ、相談ではなく報告だ。いきなり魔術を使えなくなったら混乱するだろうからと、村を見つけたので伝えただけだ。それは、村人の意思にかかわらず起こること、いや、起こすことなのだから。


「ちょっと待った。あんたの言うことが本当だという証拠はあるのかね」

「ありませんよ、そんなもの」

 村長の問に、レーヌは即答した。実際、そんなものはない。レーヌの計画を事細かに話したところで、それが実現する証明などできないし、そもそも説明という面倒なことをするつもりもない。


「証拠もないのに、どうやってあんたの言葉を信じろと? 我々が信じたとして、他の者にどう説明しろと?」

「いえ、信じていただく必要はありませんよ」

「はぁ? それならあんたは、何でそんなことを我々に話したんだ」

 村長は呆れたような声をあげた。

「別に信じていなくても、近い未来に魔術を使えなくなった時、このことを知っていれば慌てなくて済むでしょう。そんな時が来なければ、やっぱりわたしの言ったことは嘘だったんだというだけのことですし。

 信じて、魔術が使えなくなる時に備えていても同じです。その時が来れば備えていて良かったということになりますし、来なくても魔術なしでもできることが増えるのは、皆さんの生活のマイナスにはならないでしょう。

 信じる信じないにかかわらず、このことを皆さんが知っていることが重要なんです」


 そう言われてしまうと、村人たちは何も言い返せない。レーヌは、ここにいない村人にもこの話を広めるように言い含めて、その家を出た。

「あんなのでいいのか?」

 外に出ると開口一番、ロイが聞いた。

「あんなのって?」

 レーヌは首を傾げた。

「信じなくてもいい、なんて言い方で。信じなかったら、他の人に話してくれないんじゃないか?」

「1人2人ならそうなるかも知れないけど、8人いたからね。信じる人が1人もいなくても、話のネタにする人の1人くらいはいるよ。少しでも口から漏れれば、これくらいの小さな村ならすぐに全員に広まるんじゃないかな」

「そんなもんかな」


 それに人々にこの話が広まろうとそうでなかろうと、レーヌのやることに代わりはない。どちらにしろ、準備を終えるまでに世界のすべての人々に瘴期の終わりを伝えられるわけではないのだ。それならば、伝えた相手がレーヌの言葉を信用しなくても、大した違いはない。


「それより、空き家があるか、さっき聞けば良かったね。ごめんね、自分のこと優先しちゃって」

 西に傾いている陽を見て、レーヌはロイに謝った。

「気にするな。村の誰かに聞けばいいし、いつものように野営でも構わないさ」

 ロイが答えた時、2人の後から家の扉を開けて出て来た男が、話しかけて来た。

「すみません、お2人は今夜はどちらで過ごすのですか?」

 2人は顔を見合わせてから、特に隠すこともないので、レーヌが先ほどロイと話していたことをそのまま答えた。すると男は、自分の家の空き部屋を貸してくれると言う。2人は礼を言って、その言葉に甘えることにした。


「先ほどあなたが話していたことは、事実、なんですよね」

 家まで案内される道すがら、男はレーヌに確認するように聞いた。

「はい、事実です。先ほど言ったように、信じていただく必要はありませんが」

「いや、信じます。いや、本音を言えば半信半疑といったところですが、いつか魔術を使えなくなると言う前提で、これから生活します。あなたが言ったように、備えておくに越したことはありませんし、無駄にもなりませんから」


 男の言葉に、ロイは少し驚いた。レーヌの言い方では誰1人として耳を傾けないだろう、と思っていたのに、半信半疑とはいえ、こうして耳を傾けてくれる人がいるとは。

 しかし、それを言うなら残りの村人たちが今も家の中でレーヌの言ったことを審議しているという事実が、彼女の言葉を無視できないものとして扱っていることに他ならない。ロイの考えも、そこまでは及んでいなかった。



■作中に出てきた単位の解説■


時間の単位:

1日=20ミック


1ミック≒1時間 の感覚です。


日本と単位が違うので、例えば10ミックと言っても感覚として10時間の場合と12時間(=半日)の場合があります。そのあたりの感覚は、ルビで察してください。

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