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黄昏の国 ~終焉を迎える世界の運命に抗う少年と少女の物語~  作者: 夢乃
第二部 終末を迎える世界の延命を試みる少女
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2-007 終末回避への前準備

 魔女に別れを告げて森に来たレーヌとロイは、まず瘴期を知るための瘴気センサーとして、小動物を捕らえることにした。瘴気に()てられて2人が殺し合うような羽目になったら目も当てられない。

「前のは、ロイが卵から孵して育てたんだったよね」

「ああ。その方が人に慣れると思ったから。砂漠に入る前に離したけど、それだけが心残りだな。籠の中しか知らないのに、外の世界に上手く適応できたかどうか」

「そっか。言われてみると、そうだね」

「少しでも、外で餌を採る訓練でもさせておけば、ってあの時思ったが、今更だったからな」

「仕方ないよ」


 初代瘴気センサーのその後を思いつつも2人は森の前に立った。

「それじゃ、ロイには鳥籠を作るのお願いしていいかな。わたしが適当な動物を適当に獲ってくるから」

「解った」

 2人は荷物を地面に置いて身軽になった。

「荷物、このままで平気かな?」

「あまり奥まで行く必要は無いだろうから大丈夫だと思うけど……念の為、これ置いておくよ」

 レーヌは荷物の中から黒い石を取り出し、魔力を込めて荷物の中央に置いた。


「それは?」

「前にお婆さんにもらった魔鉱石。『創世の書』を書いてる時にこれも調べてたんだけどね、これに魔力を込めておくと離れてても場所が判るし、込めた魔力の操作もできるんだよ」

「へえ。どれだけ離れてても大丈夫なのか?」

「そこまでは判らないけど、限界はあるんじゃないかな。でも、5テック(キロ)くらいは大丈夫だったから。多分、もっと離れても大丈夫だと思う。

 あ、そうだ。ロイもこれに魔力を込めて置いとくといいよ。はい」


 レーヌは魔鉱石をもう一つ取り出してロイに差し出した。

「オレの魔力を込めて置いといても意味ないんじゃないか? レーヌに比べたら大したことないし、瞬間移動もできないし」

「そうじゃなくて、これに魔力を込めて置いとけば、万一森で迷ってもここの場所は判るから」

「……なるほど。オレでも判るのか?」

「それはやってみて」


 ロイは、手渡された魔鉱石に魔力を込めた。それを地面に置く。

「……確かに、魔力がここにあるのは判るな。操作は……できない」

「ってことは、個人差があるのかな。距離にも個人差があるかも知れないから、離れ過ぎないようにね」

「道に迷わなければいいだけなんだけどな」

「うん、そうなんだけどね」

 レーヌは苦笑いした。




 2人は別れて森に入った。


 ロイは鳥籠に使えそうな木を探した。砂漠の中にあった森と違い、この森には細いものから太いものまで、様々な太さの木が生えている。鳥籠にするには、ある程度細く、持ち運ぶために多少乱暴に扱っても折れないしなやかな枝が必要だ。


 森の中を歩き回り、蔓のような細い木が群生している地面を見つけた。1本の太さは20テリン(2センチメートル)から30テリン(3センチメートル)

 1本を根元から剣で切り取り、皮を剥いで曲げてみると、かなりしなやかだ。皮を剥いでいるのに90度以上に曲げないと折れない。


 これならちょうどいいだろうと数十本を切り、剥いだ皮で束ねた。

「ちょっと多いな。でも、薪にも使えるからちょうどいいか」

 ロイは2束の細い木を両手に持って、森の外へと向かった。


 レーヌはロイよりも森の奥へと来ていた。魔力を最大限に広げて獣を探り、見つけると周囲の魔力濃度を調整して電撃に変え、その場に瞬間移動して回収する。

 一撃で命まで刈り取れれば、獲物の方を瞬間移動で持って来ることができたが、意識を奪う程度にしているので自分から向かう必要があった。


(あんまり大きい獣はいないね。オオカミくらいの大きさのはいてもおかしくないけど)

 そう思いつつ、小動物を仕留めてゆく。獲物は、短剣で剥いだ木の皮で足を縛り、10テール(1メートル)ほどの木の枝の両端にぶら下げて運んだ。


 しばらく狩を続けて10匹の鳥や小動物を仕留め、そろそろ戻ろうとした時に、魔力で大きな獣を見つけた。

(これは、イノシシ、かな?)

 小動物では、1匹1食分程度にしかならないが、イノシシなら数日から数十日分の食糧になる。せっかく見つけたのだから、これを仕留めない手はないと、レーヌはイノシシの近くに瞬間移動する。


 イノシシは、樹木の途切れたやや広くなった場所にいた。広場というほどではなく、森の中の幅広い道、という感じの場所だ。その中程、木の根元をイノシシは前足で掘り返している。

 2テナー(20メートル)ほど離れた場所から、レーヌは足元の小石を1つ、魔力で高速で打ち出した。レーヌが手で投げても分厚い皮に防がれて、イノシシは気付きもしないだろう。おまけに、その皮のために電撃も通りにくい。


 小石を強く打ち付けられたイノシシは、足を止めてレーヌを振り返り、視界に小さな人間の雌の姿を捉えた。レーヌはもう1つ、小石を弾く。小石は、イノシシの硬い頭骨に当たって跳ね、地面に落ちた。

 イノシシの目が危険な色に変わる。身体の向きをレーヌに合わせ、前足で2、3度地面を掻くと、硬い頭部を前にして全力でレーヌに向かって走る。

 レーヌはただ立ったまま、何もしない。怯えるでもなく、向かって来る獣を迎え撃つでもなく、片手に小動物を括り付けた木の棒を持って、向かって来るイノシシに目を向けている。


 レーヌとイノシシの距離が50テール(5メートル)にまで近付いた時。

 どごんっ。

 辺りの空気が震えた。レーヌの張った物理障壁に勢い良く激突したイノシシは、割れた額から血を流して地に伏した。

「うわぁ、イノシシの頭が割れるなんて初めて見た。魔力濃度、濃すぎたかな?」

 足をピクピクと震わせているイノシシに、レーヌは慎重に近付き、息をしていないことを確認する。


「獲物はこれで十分だね。イノシシを持ってくのは無理だから……瞬間移動で運ぼうか」

 レーヌは森の外へと歩きだした。やがて、その場にあったイノシシの死体が消えた。




 レーヌが森の外に出る前に、ロイは皮を剥いだ細い木で鳥籠の製作に取り掛かっていた。そのロイの視界に、イノシシの巨体が現れる。

「うおっ。大物捕まえてきたな」

 ロイが思わず声をあげた時、森から出たレーヌが歩いて来た。

「うん。運良く1頭だけのところを見つけてね」ロイの声は、レーヌにも聞こえていたようだ「それでロイ、これの血抜き、お願いしていいかな? わたしは小物にとどめを刺して血抜きするから」

「血抜きね……木の枝にぶら下げておくかな。解ったよ。そっちのはまだ生きてるのか?」

「うん、気絶してるだけ。もしかすると何匹かは死んでるかも」

「そうか。1匹は残しておけよ」

「解ってるよ」


 ロイは作りかけの籠を置き、木から剥いだ皮を何本か持って、体内の魔力で身体を強化し、さらにイノシシを包んだ魔力を力に変換して、その巨体を担ぎ上げた。そのまま適当な高さに太い枝を伸ばしている木に向かって歩いて行く。

 レーヌは木の枝から獲物を下ろして、1羽の鳥の足をを木の皮を裂いた紐で結び直し、地面に突き立てた『星球儀の杖』に縛り付けた。残る小物の息の根を止め、血を抜き、皮を剥いで捌いてゆく。


「あっちはでかいからしばらく置いとく」

 ロイが戻って来た。

「血の臭いで肉食獣が寄って来ないかな?」

「取り敢えず、零れた血は深い穴を掘って埋めておいた。まだしばらく流れるだろうけど、それで寄って来たら捕まえればいいだろ」

「団体さんが来ないといいね」

 獲物を獲り過ぎても、持ち運べない。まだ村から離れていないので、村人たちに売るなり、魔女に礼の上乗せとして譲るなりすればいいが、戻るのも面倒だ。


 血が抜け切れるまで定期的に処理することにして、ロイは鳥籠の製作に戻り、レーヌは土を魔力で圧縮して固め、竃を作った。鳥籠や燻製肉を作るのに、それなりに時間がかかる。今夜はここで夜を明かすことになりそうだ。

 魔女の小屋からもそれほど離れていないが、今から戻ってもう一晩泊めてもらうのは失礼だろう、とレーヌは竃を作りながら思うのだった。



 ∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞



 イノシシの肉をすべて燻製にしたものの、2人が思ったより大量に取れた肉のすべてを持つことはできず、結局、余った分は魔女の小屋まで戻ってお裾分けすることにした。

「昨日の今日で、もう戻って来たのかい」

 魔女には呆れを隠そうともしない口調で言われたが、レーヌもロイも苦笑いするしかなかった。

 どうせ翌日か翌々日には瘴期なのだから、それが終わるまで泊まっていけ、と魔女は2人に薦めたが、レーヌは1日も早く瘴期をなんとかしたいから、と魔女の誘いを丁寧に辞退した。


「次の目的地は? 来た時と逆に進むとすると、森の村かな?」

 ロイが聞いた。

「ううん。森の村は多分この辺で、次の目的地はここ」

 レーヌは杖の先の星球儀をロイに見せた。森の村の辺りには△印が、そしてレーヌが目的地として示した地点には○印が付いている。


「ここには何があるんだ? それに、魔力がなくなることを教えなくていいのか?」

「魔力のことは、近くを通った時に伝えればいいかなって。それで、次の目的地にあるのはね、行ってからのお楽しみ」

「何だよ、教えてくれないのかよ。まあ、いいか。聞いても聞かなくても、行き先は変わらないし、行けば判るんだし、オレが判らなかったらその時はレーヌが教えてくれるだろ?」

「うん、着いたら教えるよ。この距離なら、8日で着けるかな?」


 瘴期の原因調査の旅は、目的地もそこまでの距離も判らなかった。しかし、今度の目的地ははっきりと判っている。

 レーヌとロイは目的地を目指してまっすぐに歩みを進めた。



■作中に出てきた単位の解説■


距離の単位:

1テナー=100テール

1テール=100テリン


1テナー≒10メートル

1テール≒10センチメートル

1テリン≒ 1ミリメートル の感覚です。



■動物図鑑■


イノシシ:

 中型の草食四足獣。体長15テール(1.5メートル)25テール(2.5メートル)で薄茶色の体毛に薄灰色の線が入っている。頭部が大きくて硬く、敵と判断すると相手が動かなくなるまで突進を繰り返す。

 姿から判る通り、「異世界転移 ~変貌を遂げた世界で始まる新たな生活~」 https://ncode.syosetu.com/n8574hb/ に登場したウリボウモドキです。

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