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黄昏の国 ~終焉を迎える世界の運命に抗う少年と少女の物語~  作者: 夢乃
第二部 終末を迎える世界の延命を試みる少女
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2-006 魔女との再会

「レーヌ、あんなこと言って良かったのか?」

 自分の魔力で前方を照らしつつ洞窟を歩いているロイは、後ろをついて来るレーヌに聞いた。

「あんなことって?」

 レーヌは前方の警戒をロイに任せ、周囲に魔力を張り巡らせ、特に後方に注意を払っている。

「ドラゴンに、高圧的に話してたろう?」

「そんなことないよ。協力してもらうから、その報告をしただけ」

「それだよ」


 ロイは獣の気配を察して剣に手をかけたが、そのまま駆け抜けて行くのを確認して手を離した。少なくとも今は、瘴期には入っていないようだ。

「あんな言い方したら、協力してくれるものも、してくれなくなるんじゃないか?」

「言ったでしょ。無理矢理にでも協力させるって。ちょっと悪い気もするけど、ドラゴンの力がないことには目的を達成できないし」

「……具体的に、何をやってもらうんだ?」

「それは追々教えるよ。野営の時とかに」

「……」


 レーヌが何をやるか、どんな方法で世界を延命させるのか、説明してもらったところで自分には解らないかも知れない、と自分から聞いたことではあるものの、ロイは内心で思った。




 洞窟をしばらく歩いて、2人は外に出た。

「抜けたな。次の目的地は?」

 ロイは眼下に広がる荒野を見下ろして言った。麓まではまだ距離があるが、山の反対側の砂漠とは違って、満ち溢れた生命力が感じられる。気のせいに過ぎないかも知れない。


「次は、ドラゴンのことを教えてくれたお婆さんのとこ」

「ああ、村人から魔女って呼ばれてた」

「うん」

「それなら、麓で一晩明かして、朝になってから出発かな。明日の夕方には着けるだろう」

「そうだね。荒野の真ん中で夜を明かすよりは、その方かいいかもね」

「なら、ここで少し休んでから、山を下りよう。獣がいたら、積極的に狩らないとな」

「燻製肉、もう少ないもんね」


 先の計画を簡単に立てた2人は、まず、岩に腰掛けて身体を休めた。



 ∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞



「お婆さん、お久し振りです」

 後ろからかけられた声に、魔女は結界子の具合を確かめていた手を止めて振り返った。

「あんたら……どこかで見た顔だね。どこで見たんだったかな」

「1年くらい前お会いした、レーヌとロイです。ドラゴンのことを教えていただいた」

 レーヌは微笑を浮かべて魔女に応えた。


「1年前? ……瘴期の原因を調べるとか無謀なことを言ってた、あの時の2人かい?」

 魔女は少し考えて思い出したようだ。

「はい、その無謀な2人です。その節はお世話になりました」

 今度はレーヌは苦笑いを浮かべた。


「それで、瘴期は何とかなりそうなのかい?」

「それについて、お婆さんにお知らせしたいことがあって、今日は寄らせていただきました」

「ほう。それなら、小屋の中で聞かせてもらおうかね。そろそろ陽も沈むし、夕食でも摂りながらでいいかね」

「はい」

 やや素っ気ない態度ながらも、魔女は2人を小屋に招き入れた。



 ∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞



「この世界は、あと100年ほどで滅びます」

 簡素な夕食を摂りながら、レーヌはまず、現在の世界の運命を魔女に告げた。こんなことを聞けば、人によっては取り乱してしまいかねない。しかし、この魔女は最後まで落ち着いて聞いてくれるだろう、とレーヌは考え、言葉を飾ることなく伝えた。


「そうかい。それで、それが瘴期とどんな関係があるのかね?」

 魔女は、レーヌの思った通り動じることなく、そればかりか何でもないことのようにレーヌに応じた。魔女は、レーヌとロイもだが、100年と経たずに土に還るのだから、そんな先のことは気にしても仕方がない、と達観しているのかも知れない。


「えっとですね、世界の終焉を敏感に感じ取った大地が、謂わば人間で言う貧乏ゆすりのようなことをしているんですね。その結果として大地から瘴気が溢れ出て、その期間を瘴期と呼んでいるわけです」

 レーヌは、エンファンから聞いた瘴期の発生機序を噛み砕いて説明した。

「ほう。瘴期に瘴気が湧くわけではなく、瘴気が湧く期間が瘴期になるのかい」

「はい」

「で、瘴期が終末を(もたら)すのではなく、終末が近いから瘴期が来るわけだね」

「そういうことです。それでですね」

 レーヌは続けて本題に入る。


「わたしたち、これから世界を回って、大地に結界を張るつもりです」

「大地に結界?」

「はい。それで、瘴気を抑え込みます。それにだいたい、1年から2年くらいかかるかなって考えてます」

「それで獣の暴走は抑えられるとして、そんなこと可能なのかね? それに、それをすることに意味があるのかい? 瘴気を抑えたところで世界の終末を防げるわけではないんだろう? まあ、世界が終わるまで瘴期に怯えずに過ごすことはできるだろうが」


 疑問を呈する魔女に、レーヌは笑みで応えた。

「はい、その通りです。だから、瘴気を防ぐのと同時に、皆さんから魔力を頂戴します」

「なんだって?」

 魔女は気色ばんだ。

「つまり、あと1年か2年で、誰も魔術を使えなくなる、と言うことです」

「そんなことをされたら、どうなると思うんだい?」

「どうもならないと思いますよ」

 レーヌは何でもないことのように答えた。


「どうもならないってことはないだろう」

「そうですか? 今、魔術の最大の使い途といったら、瘴気を防ぐ結界を張ることですよね。それから、獣に襲われた時に身を守ることや、狩です。

 でも、結界については先程言ったように不要になります。狩や自衛も、剣や弓や罠でなんとかなりますよね?

 それなら、生活に魔術は必ずしも必要ありません」

 レーヌの答えに、魔女は少し考えた。


「確かに、アンタの言う通りだけどね、しかし集めた魔力で、アンタは何をするつもりだい」

「もちろん、世界の延命です」

「魔力を集めれば、それができると?」

「はい、そうです」

 魔女は、レーヌをまじまじと見つめた。


「しかし、今の世界に人間がどれだけ残っているのかね。僅かばかりの人間から搾り取った程度の魔力で世界の滅亡を防ぐなんて、ワタシには到底思えないがね」

「ええ。それなので、魔力は人間だけでなく、あらゆる生物から集めます。それを1,000年分貯めれば、なんとか足りるはずです」

「1,000年分? アンタさっき、『世界は100年て滅ぶ』と言ってなかったかい? アタシの聞き間違いかね?」

「いいえ、聞き間違いではありませんよ」

 レーヌはにっこりと微笑んだ。


 その笑顔を魔女はじっと見つめていたが、それについての詳細を話すつもりはないらしいことをレーヌの表情から読み取って、視線を外すと軽く首を横に振った。

「解ったよ。いや、アンタが何をやろうとしているのかは解ったとは言い難いがね、瘴期がなくなって魔術を使えなくなることは解ったよ。要するにアンタは、それをアタシに伝えに来たんだろう? 突然魔力を失って、慌てふためくことのないように」

「はい、その通りです」


 レーヌの言うことを夢物語だと思いつつも、自信に満ちたレーヌの笑顔を見ていると、その言葉を一笑に付すことのできない魔女だった。

「それで、アタシは何をすればいいのかね?」

「特別に何かしていただく必要はないんですけど、この先魔力がなくなっても驚かないこと、魔力が消えた時には瘴期がなくなっていること、魔力に頼って狩をしている人は剣や弓の練習もしておくこと、この3つを村の人たちに広めてくれていただければ、と思います」


「そんなことを言っても、あの連中は真に受けないと思うがね」

 魔女はそう言ったものの、レーヌの言葉を村人たちに伝えることを約束してくれた。

 レーヌとしても、この村を訪れた時に最初に出会った村人の対応を思い出し、魔女の言葉は的を射ているとは思ったが、信じる信じないはともかくとして、魔力と瘴期がなくなると聞いているだけで、実際に魔力がなくなった時の反応は変わるだろう。


 これを、世界中の人々に伝えておきたいところだが、それはさすがに無理だろう。それでも、旅の途上で出会った人たちくらいには伝えておこうとレーヌは考えていた。




 夕食も済み、レーヌとロイは魔女の小屋で一夜を過ごさせてもらった。砂漠の森の小屋を出てから、およそ10日振りの屋根の下での就寝は、2人をあっという間に深い眠りに(いざな)った。



 ∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞



 翌朝、レーヌとロイは朝食の後、すぐに魔女に別れを告げた。

「泊めていただいて、ありがとうございました」

「それに、食事も振舞ってもらって」

 レーヌとロイは魔女に礼を言った。

「なに、礼なんて必要ないさね。食事の半分は、アンタたちに貰った燻製肉だからね」

 魔女はカラカラと笑った。


「そうだ。1つ聞きたいんだが、次の瘴期はいつなんだ?」

「あ」

 ロイが魔女に聞いた。これから旅を再開する上で、必要な情報だ。レーヌも、これから先に起こることを伝えるだけで満足してしまい、瘴期の時期のことが頭から抜け落ちていた。


「アンタら、前の瘴期を覚えてないのかい? そういや、前の時に連れていた鳥がいないね」

 瘴期の時期を知れないことは、命取りになる。人間よりも先に瘴気の影響が出る小動物を連れず、前回の瘴期を覚えてもいないレーヌとロイに、魔女は呆れた。


「しばらく、瘴期の来ない土地に行っていたんでね。ついこの間、そこから戻って来たばかりなんだよ」

 ロイは弁解するように言った。

「そんな場所があるのかい。わざわざ瘴気を防がなくても、そこに行けば瘴期を気にせず暮らせるんじゃないかい?」

「ああ、それは無理ですね。何しろ動物もいないし植物も生えていない死の大地ですから」

「オレたちも、危うく死にかけたからな」

 レーヌとロイは、砂漠の往路を思い返して言った。


「そんな場所があるのかい。しかし、生きられないんじゃ意味はないね。次の瘴期だったね。次は2日後か3日後には来るだろうね」

「それなら、今日明日で備えておけば問題ないな」

「そうだね。お婆さん、ありがとうございました」

「なに、こっちも色々と面白い話を聞けたからね。気をつけて行きな」

「はい、お婆さんも、お達者で」


 レーヌとロイは魔女と別れ、村から見える森へと向かって歩みを進めた。まずは、瘴期に備えて小動物を捕えるために。

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