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黄昏の国 ~終焉を迎える世界の運命に抗う少年と少女の物語~  作者: 夢乃
第二部 終末を迎える世界の延命を試みる少女
35/54

2-005 ドラゴンへの宣言

 小屋に戻ったレーヌとロイは、纏めた荷物をもう一度確認してから夕食を摂り、早々に眠りに就いた。

 翌朝、ここでの最後の食事を軽く済ませ、出立の準備をしている時にメナージュがやって来た。彼女は『転送の鞄』からいくつかの物を取り出した。


 縦4テール(40センチメートル)、横5テール(50センチメートル)、幅2テール(20センチメートル)ほどの、『転送移の鞄』。

 それと対を成す『転移の結界子』。

 今まで借りていたものより一回り小さく、注ぎ口のない『無限の水差し』が2つ。

 そして、レーヌの身長ほどもある、先に星球儀の付いた長い杖。


「作り変えるって、杖にしてもらったのか」

 レーヌが杖のバランスを確かめる様子を見ながら、ロイは言った。

「うん、そう。これなら持ったままでいられるし、星球儀を確認しながら歩けるし」

 杖の先に着けられた星球儀をからからと回して、レーヌは言った。


「確かにな。『転移の鞄』はオレが持つよ」

「え? いいよ、ロイは剣を使うんだから、いざと言う時のために両手を空けておかなきゃ。わたしは魔術士だから、手が塞がっていても関係ないし」

「そう言うわけにもいかないだろ。レーヌはオレより体力ないんだから。オレは、いざとなったら鞄を落とせばいいし、何なら盾代わりにもできるんだから」

 神器は壊れない。人間ごときの力では、傷すら付かない。一見華奢に見える『無限の水差し』も割れないし、『創世の書』もページを破くことはおろか皺すら付かない。


「うーん、それなら、お願いしようかな」

「そうしろ」

 ロイは真顔でレーヌに言った。


 旅支度は、予め準備してあったのでそれほどかからない。『転移の結界子』をしまった荷物を背負い、2人とも腰に『無限の水差し』を結び付け、フード付きのマントを羽織った。このマントもメナージュに用意してもらった『神器』の1つだ。暑さ、寒さを防いでくれるらしい。砂漠を越えるには、そして世界を巡るには、必要なものだろう。

 レーヌは星球儀の杖を持ち、ロイは腰に剣を佩いて『転移の鞄』を持った。


「色々とお世話になりました。それでは、失礼します」

 小屋から出たレーヌは改めてメナージュに別れを告げ、ロイは黙ったまま頭を下げた。

「お2人の旅の無事をお祈りしております」

 丁寧に頭を下げるメナージュを背に、2人は砂漠へと踏み出した。



 ∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞



 砂漠の旅は、マントと『無限の水差し』のお陰で快適とすら言えた。砂地の歩きにくさは変わらなかったが。


「一気に瞬間移動で行っちゃおうか」

 足下の砂をザクザクと踏み鳴らしながら、レーヌが言った。

「ここからはレーヌの旅だからな、レーヌの思うようにすればいい。だけど……」

「だけど?」

「レーヌは連続でどれだけ瞬間移動できるんだ?」

「うーん、限界まで試したことはないけど、最大距離なら20回くらいかな? それ以上もできなくはないと思うけど、集中力が続かなくて魔力操作の速度や精度が落ちると思う」

「それなら、無理はしない方がいいんじゃないか? 砂漠には生物はいないようだけど、万一に備えて余裕を持っていた方がいいだろ」

「うん、そうだね。でも、歩いたんじゃ速度出ないし……」


 歩きながらレーヌは考え、すぐに結論を出した。

「それじゃ、1日10回だけ瞬間移動で跳ぼう。それで一気に25~6テック(キロ)移動して、あとは歩きで」

「解った」

 2人は歩みを止めると手を繋いだ。レーヌはすぐに瞬間移動した。


「はい、ここからはまた歩きね」

「もう瞬間移動したのか? 10回も?」

 前方に見えるのは、砂、砂、砂。砂だけ。ロイには移動したことすら判らなかった。よくよく観察すると、砂丘の形が変わっているような気はするが、それも気のせいでないとは言い切れない。


「うん、移動したよ。後ろ見れば解ると思うけど」

 ロイは後ろを振り返った。前方と同じく、砂の海があるだけだ。

「何が解るって?」

 ロイはレーヌに聞いた。

「わたしたち、森を出てからそう歩いてないでしょ? 瞬間移動してなかったら、まだ森が見えるはずだよ」

 レーヌは少し呆れたように答えた。


「言われてみると、そうだな」

「これで、来た時と同じ速さで歩いても、10日で山に着けるかな」

「そうだな。10日なら食糧もあるし、水の心配もないから、1日くらいは短縮できるかもな」

 砂地の歩きにくさは変わらなくても、往路に比べて気持ちはずっと軽かった。一先ずの目的地の方向も距離も判っている上に、潤沢とまでは言えないまでも十分な食糧の用意もある。それに、マントのお陰で、日中に歩いていてもそれほどきつくはない。


 2人は、来た時とは逆の北東方向を目指して、一面に広がる砂の上を歩いた。



 ∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞



 砂漠に踏み出してから10日目の朝、朝食を摂った2人は、レーヌの連続瞬間移動で北東を目指した。6回目の瞬間移動を終えた時。

「あっ」

「山だな」

 前方に、左右に続く山の頂が見えた。

「あと一息っ。ロイ、続けていくよ」

「ああ、頼む」


 手を繋いだまま、さらに3回の瞬間移動を続けた時、レーヌとロイは山の麓に立っていた。

「予定よりちょっと早かったな」

 ロイが山を見上げ、踏破した砂漠を振り返って言った。

「ご飯を節約する必要がなかったから、速く歩けたのかな。このマントのお陰で、暑さもそこまでじゃなかったし、水も気にする必要なかったし」

「だろうな。とりあえずこの山のドラゴンに用があるんだろう? まずそこまで行っちまおう」

「うん、そうだね。あ、身体って言うか気持ちの変化には気を付けて。瘴期がいつ来るか判らないから」

「ああ。洞窟の、小動物の行動にも気をつけるよ」


 1年近く前に通り抜けた洞窟の口は、すぐに見つかった。方角は大雑把だったものの、概ね同じ位置に辿り着けたようだ。

 洞窟の中に、道標にと削った岩もそのままだった。2人は迷うことなく、ドラゴンのいる大広間に辿り着いた。


 ドラゴンは、長い首を丸め、巨大な翼で身体を包んで眠っているようだった。レーヌは、(確か念話で話してたね)とかつてのことを思い出し、魔力をドラゴンに伸ばして頭を包み込んだ。もちろんロイにも魔力を伸ばし、置いてきぼりにしないようにしている。


〈ドラゴンさん、起きてください〉

 レーヌは念話で話しかけた。しかし、ドラゴンはぴくりとも動かない。何度も話しかけた挙句、業を煮やしたレーヌが魔力を高濃度にして大念話()で呼び掛けたところ、ドラゴンはやっとの事で重い首をもたげた。

〈なんだ、騒々しい。ん? 人間か。何だ? 何か用か?〉

 ドラゴンの念話から察するに、どうも2人のことを覚えていないようだ。


〈1年近く前に色々教えてもらったレーヌとロイです。ご無沙汰してます〉

 レーヌは挨拶したが、前に来た時には名乗らなかったことを思い出した。しかし、それで何か変わるわけでもない。

〈1年前? そう言えば、砂漠を踏破するなどと無謀なことをほざいた愚か者がいたな〉

〈はい、その愚か者です〉

 ムッとしたロイを視線で制して、レーヌは応えた。


〈今ここにいると言うことは、お前たちは砂漠を抜けて神に会ったと言うことか?〉

〈はい、そうです〉

 実際にいたのは神じゃなかったけどね、とレーヌは心の中だけで付け加える。

〈ふむ。以前、愚か者と言ったことは撤回しよう。少なくともお前たちは、砂漠に入って中央まで行き、生きて帰って来たのだからな。無謀であったとは思うがな〉

〈はい、危うく死ぬところでしたから〉

 レーヌとロイ、どちらか1人だったら確実に死んでいただろう。ロイがいなければレーヌは森の手前まで辿り着いたことに気付かずに、レーヌがいなければロイは目前に迫った森まで辿り着けずに。ドラゴンの言う通り、無謀な試みではあった。


〈それで、何用だ? 眠っている我をわざわざ起こしたのだから、何かあるのであろう?〉

〈はい〉レーヌは目を閉じ、深呼吸してから目を開けて続けた。〈この世界はこの先、約100年で滅びを迎えます〉

〈ほう。では、6,000年続いた我の役目も、あと100年で終わるか。それは重畳であるな〉

 ドラゴンは、どこか安心したように言った。

 しかし、続くレーヌの言葉にドラゴンは首を傾げることになる。


〈けれど、わたしたちは世界と共に滅亡することを享受するつもりはありません〉

〈何?〉

〈この1年弱の間、わたしは人間と他の生物種が生き延びる方法を考え、そしてその方法を見つけました。わたしは世界を再生します。あなたにも協力してもらいます〉

〈世界を再生? 人間のお前にそんなことが可能なのか? いや、それはいい。それに我が協力? 我はただ、この結界を支えるためだけに生き永らえてきたのだ。せっかく世界の終焉が見えたというのに、その再生に力を貸すと思うのか?〉


 ドラゴンは威嚇するように、首だけでなく身体を起こし、後足だけで立ち上がり、翼を広げた。その威容にロイは思わず一歩下がったが、レーヌはまったく臆さなかった。

〈あなたには申し訳ないと思いますが、あなた方の力なしでは世界の再生は成りません。協力してもらいます。それからこれは、協力要請ではなく、報告です。何も知らずに協力させられるのも不憫でしょうから、今日はその連絡に来たまでです〉


 レーヌは、遥か上方にあるドラゴンの頭を見上げて言った。

 ドラゴンは、しばらくレーヌを見下ろしていたが、やがて広げていた翼を閉じ、身体を再び寝かせた。

〈ふむ。好きにするがいい。人間ごときが我に協力を強制など、できるものか。ましてや、世界の再生など〉

〈はい。好きにさせてもらいます。この先1年か、遅くとも2年後には協力をもらいますので、よろしくお願いします〉

 ドラゴンはレーヌを蔑むように見ていたが、興味を失ったように顔を背け、組んだ前腕の上に頭を乗せた。


「ロイ、行こ」

 レーヌはロイに言って、荒野へと向かう洞窟に足を向けた。ずっと部外者だったロイも、ドラゴンの様子を少し気にしつつ、レーヌの後について広間を出た。



■作中に出てきた単位の解説■


距離の単位:

1テック=100テナー

1テナー=100テール


1テック≒ 1キロメートル

1テール≒10センチメートル の感覚です。

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