表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄昏の国 ~終焉を迎える世界の運命に抗う少年と少女の物語~  作者: 夢乃
第二部 終末を迎える世界の延命を試みる少女
33/54

2-003 計画の推進

 レーヌは毎日言語学習に勤しんだ。メナージュは毎日来るわけではなかったが、教科書として渡された書籍が解りやすく書かれていたため、学習が滞ることはなかった。


 ロイは毎日森に入り、食糧と木材を調達している。館を出た翌日の内に作ったのは、柱を4本立てて屋根板を載せただけの、小屋とも言えない粗末な四阿だったが、直射日光を防ぐことができるだけでも、レーヌにとってはありがたかった。


 その後、2(週間)の時間をかけて、ロイは小さな丸太小屋を作り上げた。素人のこともあり、扉も窓も開け放しで、部屋も一つだけ。それでも、風雨を凌ぐには問題のない小屋ができた。

 もっとも、ここに雨は降らないようだったし、強い風も吹かなかったのだが。

 それでも、夜、安心して眠るのに、この小さな丸太小屋は十分に役に立っていた。


 その後もロイは木を切って、ベッドや机、椅子などの家具を作った。レーヌができるだけ快適に過ごせるように。

 もちろん、狩猟採集と大工仕事だけをしていたわけではない。時間を作っては剣を振り、魔力を身体に巡らせて身体強化の時間を伸ばし、鍛えた。瘴気を防ぐ結界にも挑戦していたが、何しろ結界がどんなものか、ロイには解らない。レーヌに負担をかけたくないので、1人、試行錯誤を繰り返した。




 学習を始めて1(ヶ月)が経つ頃には、レーヌは単語の対訳表──辞書──を頼りに、未知言語を読むことができるようになり、『創世の書』の解説書を読み始めた。レーヌが普段使っている言語と未知の言語は、文法がかなり異なっていたが、その文法の理解に1(ヶ月)を費やしたお陰で、読み進めること自体はスムーズに進んだ。


「これって神の使う言葉なんですか?」

 レーヌは、館から来ていたメナージュに聞いたことがある。

「いいえ、神は言葉を使いません。この言葉は、エンファン様の産まれた世界で使われている言語です」

「エンファン様って、この世界の人ではないんですか?」

 聞いてから、エンファンがひと月前に『父の用意したこの星に来た』と言っていたっけ、と思い出す。

「はい。エンファン様は、こことは別の星の世界で産まれ、神になるためにここに来て、この世界を創っています」


「それじゃ、エンファン様やメナージュさんたちは、どうしてわたしたちの言葉を話せるんですか?」

「それも神の業ですね。魔力……神力で相手の脳を走査し、使っている言葉を読み取る、という能力です」

「ふーん。あれ? でもメナージュさんたちは神じゃないから、その力はないんですよね? でも、エンファン様に会う前から、マジョルドさんやメナージュさんたちとも、言葉が通じてましたけど」

「お2人が森に入った時点で、エンファン様にはそれが可能ですので」

 そう言われて、エンファンの魔力が森を覆っている、とメナージュから聞いたことを思い出した。


 つまりは2人が森に入った時点でエンファンは言葉を理解し、それをマジョルドやメナージュたちに伝えていたのだろう。わずか数ミック(時間)でこれほど流暢に話せるのは信じがたいが、神の子と神の被造物にとっては容易なことなのかも知れない。


「神の力って凄いんですね。えっとそれで、ここのところの言い回しが難しくて意味が良く解らないんですけど」

「はい、どれでしょう。……ああ、それはですね……」

 雑談を切り上げて、レーヌは解説書の解らない部分をメナージュに聞いた。



 ∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞



 食事は、小屋の外の焚火の近くに作ったテーブルで摂るようにしていた。小屋は狭いので中に竃を作るスペースはなく、そもそも竃を作るための石もなかったので、小屋の外の焚火で調理し、その場で食べるのが最適だった。

 メナージュに頼めば竃を作るための石どころか、家も用意してもらえそうだったが、彼女たちに頼るのは最小限にしようとロイは考えていた。レーヌの計画がどのようなものになるにしろ、いつかはここを離れることになるのだから、自分だけたちでできることは可能な限り自分の手で行なった。


 それでも、いくつか提供してもらったものはある。テーブルの上にある、木製の皿やコップを作るのに使った小刀もその1つだ。最初、ロイはレーヌから借りた短剣で作ろうとしたが、木工作業をするにはレーヌの短剣は少し大きかったので、メナージュに小刀を用意してもらった。


「それにしてもこれ、便利だな。無限に水が出てくるなんて」

 ロイはコップに水差しから水を注ぎながら言った。

「それも神器なんだろうね。無限の水差し、とでも言うのかな? わたしの使ってる炭筆もそうだよ。使っても、全然減らないんだもん」

「どういう技術なんだろうな。いや、技術じゃないのか」

「魔力……じゃない、神力を使った、技術を超えた道具なんだろうね」


「こういうのを見ると、自分の、ってより、人間の無力さを感じるよ」

 ロイは水を注いだカップを手に持ち、揺蕩う水面を見ながら言った。

「無力ってことはないよ。ロイだって、あれ作ったじゃない」

 レーヌが視線を向けた先には、ロイの作った風呂桶があった。角に水差しを傾けたまま固定できる棚を作って、そこに水差しを置いて貯められた水が、並々と入っている。


「あんなの、誰だって作れるさ」

 ロイは自嘲気味に言った。

「そうじゃなくて、この水差しをお風呂に使おうなんて、神でも思いつかないと思うよ。わたしだって、考えはしたけど、ずっと手で持ってないといけないの、大変だなって諦めてたし。それを、水差しを斜めに固定しちゃう発想ができるの、凄いよ」

「そうか?」

「うん。少なくとも、わたしはそう思うよ」


 エンファンと会ってから、いや、マジョルドに投げ飛ばされてからずっと気落ちしているロイを、少しでも元気付けようとして、レーヌは言った。ロイには剣だけでなく、神でも思いつかない発想力があるのだと。

「ありがとう」

 ロイは、レーヌの言葉に少しだけ微笑んだ。



 ∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞



「これが、レーヌ様のご希望にもっとも沿っていると思われる地図、星球儀です」

 直径2テール(20センチメートル)ほどの球体が、円弧状のフレームによって支えられ、フレームは下部の台座に固定されている。

「ただ、これはエンファン様がこの星に世界を作る前の地形ですので、現在の実際の地形とは大きく異なっています」

「でも、こっちの地図とは一致してるんですよね?」

 レーヌは、数日前にもらった地図帳を示して言った。

「はい、その通りです」

「ってことは……」


 レーヌは地図帳をぱらぱらと捲り、星球儀の同じ地点を見つけて指し示した。

「エンファン様の館って、ここで合ってます?」

「はい、そうです」

 気になることがあったものの、とりあえず後回しにして、レーヌは館の場所に炭筆で×印を描き、そこを中心とした2つの同心円を描く。さらに×印から北東に向かって線を引き、星球儀を一周して元の地点に戻った。×印の対極にもう一つ×印を描き、さらに線上の数ヶ所に△印を描いた。

 加えて、地図帳を見ながら、昨日までに地図帳に付けた印の部分に○印を描いてゆく。


「うーん、こうして見ると、偏っている……」

 ○印を描き終えたレーヌは、星球儀をゆっくりと回しながら独り言ちた。

「均等に、が理想だけど、それをやっていると多分時間が足りないし……だったら、こことここと、それからこっちも……」

 ブツブツと呟きながら、星球儀に●印を付けていくレーヌ。それを終えると、レーヌはメナージュに、気になっていたことを聞いた。


「あの、この光点は何ですか?」

 レーヌの描いた、内側の同心円と星球儀を一周する線の交線上が、光っている。炭筆で線を描いたにもかかわらず、それははっきりと輝いている。

「レーヌ様も推察しているかと思いますが、この場所、正確には星球儀のある場所です」

「やっぱり、そうなんですね。えっと、ここ離れる時、これ戴いてっていいですか?」

「はい、元よりそのつもりです」


 これがあれば、目的地さえ判っていれば迷子にはならないね、とレーヌは思う。

(後はルートと……あと、どれくらい持てるかな?)

 レーヌは、砂漠に入る前の村で魔女からもらった魔鉱石と魔鋼板を取り出した。

(使えるのは魔鉱石だけ。魔鋼板じゃ多分無理。お婆さんも魔鉱石より性能が落ちるみたいなこと言ってたし。大きさが同じなら魔鉱石の方が軽いのかな? でも、それなりの重さはあるし、大きくしたら……うーん)


「メナージュさん、この鞄のあっち側って、どうなっているんですか? あ、ごめんなさい、聞き方が悪いですね。この鞄と、セットになっているあっち側のもの、いただけませんか? できるなら自分で作ってみるんですけど、神器って言ってたから」

「そうですね……さすがにこれは、わたくしの一存では……確認しますので、可能でしたら後ほどお持ちします」

「ぜひ、お願いします」


 それを頼んだレーヌは、星球儀に戻ると、じっと考えてからその上に点線を引き始めた。その線は、館を示す×印から始まり、●印と○印を経由しながら星球儀上を行きつ戻りつしつつ、最後に館と逆側の×印で終わった。

(これでいいかな。あ、ドラゴンにも協力を頼もう。協力してくれなくても、勝手にやるけど)


 レーヌの頭の中で、計画が形になってゆく。



 ∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞



 メナージュに持って来てもらった数冊の書籍を読破し、星球儀に書き込みをしてから、レーヌは『創世の書』に取り掛かった。

(ただ書いても、絶対にエンファン様のと勝ち合って負ける。慎重に、慎重に……)

 レーヌが羽ペンを動かすと、『創世の書』に文字が描かれる。滅び行く世界に針の穴のような光明が灯ったが、それを知る者はいない。



■作中に出てきた単位の解説■


距離の単位:

1テール≒10センチメートル の感覚です。


時間の単位:

1年=8季

1季=6旬

1旬=8日

1日=20ミック


1  季≒1ヶ月

1  旬≒1週間

1ミック≒1時間 の感覚です。


日本と単位が違うので、例えば10ミックと言っても感覚として10時間の場合と12時間(=半日)の場合があります。そのあたりの感覚は、ルビで察してください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ