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黄昏の国 ~終焉を迎える世界の運命に抗う少年と少女の物語~  作者: 夢乃
第一部 終末の迫る世界に足掻く少年
27/54

1-027 砂漠横断

 ロイとレーヌは、岩山の中の広間からドラゴンに指示された洞窟へと入った。荒野側の洞窟と同じく、上下左右に曲がりくねって続いている。足下もでこぼこで歩きにくい。

 レーヌは道標(みちしるべ)として、床面の一部を平らに削ることにした。広間までは、壁に判りやすいような印を彫っていたのだが、床面ならば、歩きやすくもなって一石二鳥だ。


 ここにも小動物が生息しているようで、気配や物音を感じるばかりか、一度ならず襲いかかってくることがあったが、ロイが軽く斬り捨てた。それほど凶暴な獣はいないようだ。

 途中、洞窟の傍に水が流れていた。岩の隙間から流れ出て、1テナー(10メートル)ほど地面を流れ、また岩の隙間に流れ込んでいる。

 水面を光で照らしてみると、水は綺麗に澄んでいて、そのまま飲んでも問題なさそうに見える。


「この水、砂漠だっけ、そこには流れてないのかなぁ」

「さあな。流れの方向が逆だから、無理じゃないか」

「それもそうか。水、足してく?」

「もうすぐ外に出るんだろ? 一度外に出よう。どっちにしろ、食糧も足さなきゃならないし」

「そうだね」


 洞窟は複雑に枝分かれしていたが、広間から出口まで直線距離で2テック(キロメートル)ほどで、レーヌが広げられる魔力の範囲に入っていたので、迷うことなく最短の経路を進むことができた。

 広間から3テック(キロメートル)近く歩いて、出口の光が見えた。2人は逸る気持ちを抑えて、最後の距離を歩き、洞窟から外に出た。


「うわっ」

 レーヌは思わず、声を上げた。ドラゴンのいた広間よりはるかに明るい光に、2人とも目を閉じ手を額に翳す。

 薄く開いた目には、どこまでも続く白い砂地が映った。光に目を慣らしながら、ゆっくりと目を開く。


 洞窟の出口は、砂漠から少し岩山を登った所だが、荒野側よりもかなり低い位置で、数十テール(数メートル)も歩けば砂地に出られる。

 左右を見れば、背後の岩山が砂漠を囲むようにどこまでも伸びている。

 岩と砂だけで作られた、雄大な景色だった。


「ほんとに、何もないね。中央ってどこだろ?」

「500テック(キロ)離れてるって言ってたからな。見えないよな」

「うん。地平線の下だね。これからどうする? 魔力を目一杯伸ばしてみたけど、獣もいないし植物も生えてないよ。ドラゴンの言ってた通りに。岩山の方には、小さい獣がいるけど」

「そうだな……」

 ロイはどこまでも広がる砂の海を見つめ、振り返って、聳える岩山を見上げ、少しだけ考えた。


「一度山の向こう側に戻って、そこで少し狩をしよう。山での戦闘経験なんてないからな」

「安全に、だね」

「そう言うこと。それで、この出口の手前で水を補給してから、砂漠を行く」

「解った。じゃ、まずは戻るんだね。瞬間移動で?」

「連発すると疲れるんだろ?」

「あっち側の出口までなら大丈夫。2回か、せいぜい3回だから」

「それなら、頼んでいいか? あ、その前に水場まで戻って水だけ補充しておこう」

「うん、解った」


 2人は、出て来たばかりの洞窟に再び入って行った。



 ∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞



 荒野に戻った2人は、2日間かけて獣を狩り、肉を燻製にした。今までの旅路で作った物よりも日保ちするように、時間をかけて作った。また、獣の皮を(なめ)して、水を入れる革袋を作った。今までの水袋だけでは、5日分しか持てない。増やした分で何とかなると思いたい。


 7日分の食糧を用意した2人は、再び岩山の向こうの砂漠を目指した。レーヌの瞬間移動で洞窟の水場まで移動し、10日分の水を確保して出口まで歩いた。

 眩しさにくらんだ目が慣れると、2人の前に再び砂の海が現れる。

「行くぞ」

「うん」


 2人は、洞窟の出口から砂漠までの距離を慎重に下りてゆき、そして砂漠へと歩みを進めた。




 ……が、いきなり出鼻を挫かれることとなった。

「ピイィィィィィッ」

「わっ」

「なんだっ」

 砂漠に足を踏み入れた途端、瘴気検知のために連れている小鳥が鳥籠の中で暴れ出した。反射的に、レーヌは結界を張る。


「瘴期かっ!?」

 ロイが叫ぶように言う。

「明日か明後日のはずだけど」

「でも、なら何で」

「判んないよ。でも……ロイ、ちょっと山に入ってっ」

「なんで……いや、解った」

 ロイとレーヌが砂地から岩山へと戻ると、小鳥は大人しくなった。結界を解いても、暴れ出さない。


「どう言うことだ?」

 ロイは首を傾げた。

「ドラゴンが言ってた、『強い意思を持たない者は入れない』って、このことじゃないの?」

「……それか」

「どうする? 瘴期の始まりが判らないと、結界を張るタイミングが判らないけど……時期になったら、ずっと張っておくこともできるけど」


 ロイはレーヌの言葉を頭の中で反芻してから、首を横に振った。

「それはなるべく避けよう。一度荒野に戻って、次の瘴期が過ぎるのを待とう。終わり次第、鳥を離して砂漠に向かう」

「それがいいかな」

 そう決めると、2人はまた、岩山の反対側へと戻った。途中、広間でドラゴンに、砂漠にも瘴気の影響が出るのか聞いてみたが、〈知らぬ。そもそも我は瘴気の影響を受けない〉と、つれない答えが返って来ただけだった。




 翌日の夕刻、瘴期がやって来た。いつものように、レーヌが結界を張り、ロイが獣を退け、さらにレーヌがロイの補助をすることで、危なげなく乗り切った。

 次の日の夜明け前に瘴期は終わった。さすがにすぐに出発する気にはなれず、2人は交代で昼過ぎまで休息を取り、軽く食事を摂り、小鳥を放ってから、改めて砂漠へと乗り出した。



 ∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞



 これほど大量の砂に埋まった地面を歩いたのは、2人とも初めてのことだった。砂は足を取り、2人の歩行速度を極端に落とした。

 その上、太陽は容赦なく大地を照らし、2人にも刺すような陽光が降り注ぐ。マントとフードで遮っても、防ぎきれるものではない。

 それなのに、服に覆われた肌からは汗も出ていない。空気が乾いていて、すぐに蒸発してしまう。服の下なのに。


「歩きにくいね」

 砂漠に来て最初の休憩を取っている時に、レーヌは言った。

「ああ。砂がこんなに歩きにくいもんだとは。それに暑いな。山の向こうと陽射しはそう変わらないはずなのに」

「砂のせいじゃないかな」

「砂?」

 ロイは足下の白い粒を見た。


「これだけ白いから、太陽の熱も反射して、上からも下からも温められているからじゃないかな」

「そうかな。……そうかもな。この暑さだけでも何とかならないかな。水も節約しないといけないのに」

「うーん……」レーヌは少し考えてから続けた。「周りを警戒する必要って、ないよね?」

「ん? ああ、ドラゴンの言ってたことが正しければ、そうだな」

「だったら、暑いのはなんとかなるかも。……これでどう?」

 レーヌが言った瞬間、暑さが僅かに和らいだ。


「これで大丈夫かな。身体を覆った魔力を冷気に変えているだけだけど」

「十分だよ。だけど、レーヌは大丈夫か? ずっとこんなことしてたら、集中力を使い過ぎるだろう。それに、魔力も無くなるんじゃないか?」

「このくらいの温度なら、魔力は何とかなると思う。集中力は、やってみないと判らないかな」


 やや不安はあったが、これが今できる最善の方法だろう。ロイは「無理はするな」とレーヌに言いつつも、レーヌの魔術に頼ることにした。



 ∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞



 レーヌの集中力は、約8ミック(時間)が限界だった。自分の身体を冷やすだけならもっと保つだろうが、他人に魔力を纏わせながら魔力を冷気に変えるとなると、そうもいかなかった。

 おまけに、夜は昼の暑さが嘘のように冷え、2人は身を寄せ合って互いの身体を温めながら過ごさねばならなかった。


 そこでロイは、方針を変えた。寒い夜の間に歩き、昼に睡眠を取る。夜の凍えるような寒さも、身体を動かしていれば辛うじて凌ぐことができた。昼間の暑さは寝ていても辛かったが、その内レーヌが、無意識に、つまり眠っている間も、魔力を冷気に変えていられるようになって、快適とは言えないまでも睡眠を取れる程度の気温にはなった。


 問題は食糧だった。当初は、水は以前のまま、食糧を普段の2/3に抑えて11日間を凌ぐつもりだったが、思ったほどの速度を出せなかったため、途中から水も食糧も半分に抑えた。

 そのため、ロイもレーヌも、疲労の色が濃かった。砂漠の旅は10日を過ぎ、13日目には食糧が底を尽きた。


 周囲に見えるのは、どこまでも続く砂、砂、砂。砂と、空と、太陽の他には何も見えない。ロイは、少し後悔し始めていた。こんなに長く辛い旅にレーヌを巻き込んでしまったことに。

 しかし今から戻るわけにもいかない。ドラゴンの言葉を信じるなら、岩山まで戻るよりも目的地の方が近いはずだ。


 唯一、前回の瘴期から10日を過ぎ、瘴期の時期になっても瘴気が発生しなかったことだけは、朗報と言えた。

 瘴気に()てられて暴れてしまったら体力を無駄に消耗してしまうし、疲弊したレーヌに10ミック(12時間)もの間、結界を張り続ける気力は残っていなかった。




 18日目、水も尽きた。それでも、2人は前に進んだ。前に進むより他に、2人の生き延びる道は、もはやなかった。




 20日目、まもなく夜も空けようという頃合い、レーヌに肩を貸して足を引き摺るように歩いていたロイは、崩れ落ちるように砂地に両膝をつき、倒れる上体を片腕で支えた。限界だった。

 もはや、岩山からどれだけ歩いて来たのかも判らない。方角だけは磁石で確認して来たが、それでも方角が本当に合っているのか教えてくれるものは、ここにはいない。

 ロイも、気力と体力の限界を迎えようとしていた。


 東の地平から、太陽がゆっくりと顔を覗かせた。



■作中に出てきた単位の解説■


距離の単位:

1テック=100テナー

1テナー=100テール


1テック≒ 1キロメートル

1テナー≒10メートル

1テール≒10センチメートル の感覚です。


時間の単位:

1日=20ミック


1ミック≒1時間 の感覚です。


日本と単位が違うので、例えば10ミックと言っても感覚として10時間の場合と12時間(=半日)の場合があります。そのあたりの感覚は、ルビで察してください。

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