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黄昏の国 ~終焉を迎える世界の運命に抗う少年と少女の物語~  作者: 夢乃
第一部 終末の迫る世界に足掻く少年
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1-024 魔女との対話

 ロイとレーヌを小屋に招いた魔女は、茶と蒸した芋を2人に出した。

「こんなもんしかなくてすまんね」

「いえ、すみません、何もしてないのに」

 レーヌは恐縮して答えた。

「いやさ、結界子の立て直しを手伝ってもらったからね。あれだけ固めておけば、しばらくは大丈夫だね。明日はほかのも全部、頼むかね」


「全部ですか……」レーヌは頭の中に村の広さを思い浮かべた。そこまでの広さはないので、二重になっていることを計算に入れても1日、遅くとも1日半で終われるだろう。「はい、できると思います」


「おや、冗談のつもりだったんだがね」

 魔女はカラカラと笑った。

「もう、酷いですよ」

 レーヌは頬を膨らませて怒る。もちろん、振りだけだが。

「悪いね。詫びというわけじゃないが、聞きたいことがあるなら何でも聞きな。アタシなんぞにわざわざ声をかけたのは、聞きたいことがあるからだろ?」


「はい。えっとですね、どれから聞いたらいいかな……」

「あの、オレからいいですか?」

 レーヌが質問の内容を考える合間に、ロイが横から口を出した。しかし。

「アタシはこっちの娘に聞いてるんだよ。アンタは黙ってな」

 魔女にピシャリと言われてしまい、首を竦めて口を閉ざした。


 ロイに対する魔女の剣幕に身体を少々ビクつかせつつも、レーヌは口を開いた。

「えっとですね、まず1つ目に、村の周りに立てられている棒、結界子ですか、あれは、何のための物ですか?」

「ありゃ、瘴気と獣から村を守る結界だよ」

 やっぱり、と思いつつも、レーヌは質問を続ける。


「瘴気はともかくとして、獣からはどうやって守っているんです?」

「そりゃ、物理障壁だよ。ああ、普段は物理障壁にしちゃいないよ。魔力は張ったまんまだけどね。瘴期が来たら、外側の結界子の魔力を物理障壁にするのさ」

「えっと、ってことは、内側の結界子は瘴気を防ぐ結界にするんですね」

「ああ。こっちは常時張っておいてもいいんだがね、瘴期が来たことが判らないと困るから、こっちも瘴期の間だけさね」

 なるほど、とレーヌは頷く。


「えっとそれで、こんな広い範囲に魔力の膜を張ったままにするって、どうやるんですか? お婆さん、ものすごい魔術士なんですか?」

 レーヌが言うと、魔女はカラカラと笑った。

「アタシなんざ、大したことないさね。アンタ、魔鉱石を知らないのかい?」

 レーヌは少し考えてから、フルフルと首を振った。


 魔女はどっこらせと立ち上がると、小屋の隅の箱から何かを持ってきた。その時に気付いたが、隅に小さな檻があり、リスかネズミのような小動物が入れられている。それで瘴期を察知しているのだろう。

 魔女は元の場所に座り、持ってきたものをテーブルに置いた。小さな黒い石がいくつかと、数枚の薄い金属板。


「これが魔鉱石だよ。ほれ」

「失礼します」

 レーヌは湯呑みを横に退かして魔女から石を受け取った。大き目の木の実ほどの、何の変哲も無い小さな石。

「それに魔力を込めてみな。石に魔力を留めるつもりで」

 レーヌは、掌に載せた石に魔力を入れてゆく。これ自体は、ロイにも教えた武具の強化への過程だ。そして原素(分子)の結合を高めるのではなく、そこにただ納めるイメージをする。

 初めてのことで良く解っていないものの、原素(分子)原素(分子)に働いている原素結合力(分子間力)に載せるイメージで……。


「これで、いいですか?」

 レーヌは恐る恐る魔女に聞いた。

「そう怖がりなさんな。取って喰いやしないから」

「す、すみません」

「それをテーブルに置いて、感じてみな」

「感じる……?」

 意味が良く解らなかったものの、レーヌは石をテーブルに置いた。


「……あ。石、魔鉱石に、魔力がある?」

「それを触れずに操作できるかい?」

「はい。えーっと」

 レーヌは、自分の身体から離れている魔力を操作しようと試してみる。案外、簡単にできた。黒い小石から伸ばした魔力を、一瞬光に変えてみる。


「できましたっ」

「ほう、なかなか筋がいいね。次はこれだ」

 魔女は、どこか嬉しそうに、魔鉱石の小石を2個追加した。

「全部に魔力を溜めて、それぞれから魔力を出して繋いでみな」

「はいっ」


 面白くなって来たレーヌは、言われた通りに魔力を溜め、操作する。これもすんなりとクリアできた。

「魔鉱石の間に、魔力の膜が張られているだろう? 判るかい?」

「えっと、はい、判ります」

「その状態なら、意識を外しても魔力の膜を維持できるのさ」

「へぇ。……ほんとだ。つまり、あの結界子の両端にはお婆さんの魔力を溜めた魔鉱石が埋め込んであって、隣の結界子とも繋がって常に魔力が展開されているんですね。瘴期が来たら、それを結界にする、と」


「そういうことさね。ただね、上は魔鉱石を使っているが、下に使っているのはこれさね」

 魔女は薄く細長い金属板をレーヌに渡した。

「これは?」

「魔鋼板だよ。金属と魔鉱石を合わせたものさね。魔鉱石よりも溜められる魔力はちょーっと少ないが、魔鉱石よりも頑丈で扱い易い。今じゃ作れる(もん)もいないがね」

「ふうん。これを、結界子の下に巻いてあるんですね」

 レーヌは、結界子の下に書かれていた線を思い出した。あれは、色を塗ったのではなく、魔鋼板を巻いてあったわけだ。


「これで質問の答えになったかね?」

「はい。あ、でもあといくつか」

「遠慮のない子だね」

 魔女は呵呵と笑った。

「す、すみません……」

 レーヌは思わず、身を縮める。

「いいさね。今のアタシは機嫌がいい。何でも聞きな」

「ありがとうございますっ」


 レーヌは魔女に、色々なことを尋ねた。ほとんどが結界子と魔術に関わることだった。魔女も、質問されたことに嬉しそうに答えた。村の柵の外に1人で住んでいて、寂しかったのかも知れない。


「どうもありがとうございました。それで……」

 一通り聞きたいことを聞いたレーヌは礼を言い、それからちょっと言い淀んだが、すぐに決心したように続けた。

「ロイの質問も聞いていただけませんか?」

 小屋の中で、1人空気になっていたロイが、ぴくりと身体を震わせた。

「ん? ああ、まあいいさね。アンタのお陰で久し振りに楽しかったからね。今なら、知ってることなら何でも答えてやるよ」

 魔女は、ロイに顔を向けて言った。


「あ、はい、その」

 少し前に問を発しようとした時に鋭く遮られてしまい、ロイは質問の準備をまったくしていなかった。それでも、今までに何度も聞いて来たことなので、それほどかからず必要な言葉を紡ぎ出す。

「オレたち、瘴期の原因を探って、可能ならそれを抑えようと思って旅に出たんです。瘴期について、この辺りで知られていることや言い伝えなんかがあれば、教えてください」

 ロイは魔女の目をじっと見た。


 ロイの言葉を、口を挟まずに聞いていた魔女は、さらにしばらく黙っていた。沈黙にロイが耐えきれなくなりそうになった時、魔女は口を開いた。

「アンタら、どっちの方角から来たんだね?」

「はい? あ、あっち、北東からです」

 沈黙の後の突然の質問に一瞬戸惑ったものの、ロイは慌てて答えた。

「そうかい。それなら、南西の方角に瘴期の原因がある、と考えているわけだね」

 ロイは黙って頷いた。


 魔女は、レーヌと話していた時とは打って変わって沈鬱な表情を浮かべつつも、話し続けた。

「ドラゴンを知っているかね」

「ドラゴン? 話には聞いたことがありますが……トビオオトカゲ、ではないんですよね?」

「違う。ここから南西にまっすぐ2日ほど歩くと、岩山の麓に入る。外に出ればここからも南西に見える山さね。岩山を登り始めて間も無いところに、洞窟の入口があるはずだ。その洞窟に入ってしばらく歩くと、だだっ広い広間のような場所があり、そこにでかいドラゴンがいる。聞きたいことは、そいつに聞いてみな」


 ロイはレーヌと顔を見合わせてから、魔女に向き直った。

「そのドラゴンが、瘴期を起こしているんですか?」

「ドラゴンって、喋るんですか?」

「さてねぇ」

 2人は身を乗り出して詰め寄るように聞いたが、魔女はそれ以上答えるつもりはないようだった。


「そろそろ陽も暮れるね。今夜はここに泊まりな。夕飯を食って、さっさと寝ようじゃないか」

 気がつくと、開かれたままの窓の外は暗くなっていた。部屋の梁から吊り下げられた石が、光を放っている。これも魔鉱石か、それを利用して作った道具だろう。


「あ、お手伝いします。燻製肉ありますけど、食べますよね」

 よっこらせ、と立ち上がった魔女に続いて、レーヌも慌てて立ち上がった。

「ほお、そうかい。そろそろ村の奴らから、かっぱらってこないとなくなるとこだったよ。ありがたく、頂戴するかね」

 2人の話を聞いて、ロイは荷物から燻製肉を取り分けた。魔女の話したドラゴンのことを考えながら。

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