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黄昏の国 ~終焉を迎える世界の運命に抗う少年と少女の物語~  作者: 夢乃
第一部 終末の迫る世界に足掻く少年
18/54

1-018 城塞の戦い

 ガンガンガンガン、ガンガンガンガン。


 ロイとレーヌが久し振りに壁と天井のある場所で眠りに就いていると、鍋を叩くような音で目を覚ました。2人とも、すぐに起き上がると剣と短剣をそれぞれ持って、小屋から飛び出た。

 眠る時も旅装を解いていなかった。今夜あたり瘴期が来ることを想定して、起きた時にすぐに戦闘に入れるようにしていた。


 外は、あちこちに松明や篝火が燃えていて、夜とは思えないほどに人の影が多い。人々は急ぐ様子もなく、家から出て来て外壁へと向かう。何人かは、村に4つある塔を登っている。あの上で空からの襲撃に備えるか、あるいは上方の結界を張るのだろう。

 どこから登るのか、壁の上にも何人かの人が待機するようだ。動いている松明が見える。


 小屋の前を駆けて行こうとする男が2人の前で足を止めた。

「うるさくしてすまない。瘴期だ。壁の内側にいれば危険はないから、客人は安心して寝ててくれ」

 それだけ言うと、2人が何か言う間も無く、忙しそうに立ち去った。

 忙しなく動いている人はそれほどいない。ほとんどの人に急ぐ様子は見えない。


「あんまり緊迫感がないね」

 レーヌは村の様子を見ながら言った。

「そうだな。多分、今まで壁と弓と結界だけで危険なことは起こらなかったんだろうな」

「小さい獣なら壁だけでも防げそうだし、魔力を通せば大きいのも防げそう……ううん、防いで来たんだろうからね」

「ああ。でも危険だな」

「……壁に頼り切って、越えて来るのがいたら大混乱になるとか?」

「そう。まあ、今回や次回でどうこうってことはないだろうが、この先何年とか、十何年先は判らないからな」

「そうだね。でもその頃にはわたしたちいないし、関係ないね」

「ああ。取り敢えず今夜は、2人で起きている必要もなさそうだし、交代で寝よう。先にオレが起きてるから、しばらく寝てろよ」

「解った。よろしくね」


 ロイを残して、レーヌは小屋に入って行った。

 ロイは、小屋の入口の前に陣取って、村の人々様子を眺めたり、空を見上げたりして時が過ぎるのを待った。

 家から出てきた村人たちは、村を囲む壁に両手をついて、おそらく魔力を流し込んでいる。20ミール(15分)ほどすると、別の者と交代する。その中には、眠い目を擦る子供の姿も混じっている。この村では、子供も村を守るための“戦力”として数えられているようだ。


 ロイのいる位置からは村の門は見えないが、きっとそこには、弓で武装した村人が待機しているのだろう。

 空にも時々猛禽の姿が見えるが、村に降下する前に弓矢で仕留められ、落ちてくる。大型の鳥を落としたら、家の屋根が破損するのでは、とロイは思ったものの、それも想定済みなのかも知れない。あるいは、屋根は見た目よりも頑丈に作られているのか。


 居眠りしないように、軽く剣を振ったりしながら、ロイは警戒しつつ瘴期に対応する村人たちを眺めていた。



 ∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞



「レーヌ、おい、起きろっ」

 身体を揺すられたレーヌは、ぱっと目を開き、すぐに身体を起こした。

「交代?」

 小屋にはロイしかいないことを確認し、レーヌは目を(しばたた)かせて眠気を振り払う。

「交代もそろそろだが、その前に、ちょっと不味いかも。外に来てくれ」

「うん」

 レーヌはすぐに起き上がり、傍に置いておいた短剣を懐に忍ばせて、外に出たロイを追った。


 外は、少し騒がしくなっていた。

「グキャアアアアアアアアアッ」

 空から咆哮が降ってくる。その声にレーヌが夜空を見上げると、翼を持った巨大な生物が村の上空を周回していた。一時滞空したかと思うと、4つの塔の1つに向けて口から炎を吐き、また羽ばたく。

「あれって、トビオオトカゲ?」

「多分、な」

 巨大な翼で空を舞うトビオオトカゲ。住んでいた村で聞いたことはあったが、見るのは初めてだ。


 4つの塔や壁からも、矢が飛び火球や雷球が放たれるが、トビオオトカゲに当たってもビクともしない。少し前にロイが倒したオオトカゲと同じく、鱗を魔力で強化しているのだろう。

「アレ、ここの人たちで対処できるのかな」

「ヤバいと思ってレーヌを起こした。他所者の手を借りずに、なんて言ってられないだろうし」

「そうだよね」


「レーヌなら、あれをどう倒す? 飛んでられるとオレじゃどうにもならないけど」

 ロイはトビオオトカゲから目を離さずに言った。

「うーん、鱗が頑丈そうだし、口の中に魔力を放り込んで内側から焼くか、土で槍を作って貫くか、物理障壁を頭に叩きつけるか、かな」

「対抗できるなら、そのつもりで動こう。レーヌは対処できる場所に。オレは一応、村長(むらおさ)に言っておく。あ、レーヌのことは魔術士だって伝えてあるから、何人かは知ってると思う」

「解った」


 ロイが、狭い道を駆けて行く。レーヌも、村の中心を目指して走り出した。村の外壁に魔力を送っている人たちは、それを続けながらも不安そうに空を見ている。もし、村のどこかに下りて来るようなことがあったら、大混乱だろう。

(それは、アレを倒して落ちても同じかな。どうしようかな)

 トビオオトカゲへの攻撃として火球や雷球が飛び交っていることから考えると、この村の魔術士たちは広範囲に魔力を広げることはできないようだ。レーヌなら、トビオオトカゲを魔力で包んで、一気に炎で包む。効果がなさそうなので、今からそれをやるつもりはレーヌにはないが。


 トビオオトカゲは空を舞い、時々村に向けて炎を吐く。塔を集中して狙っているわけではなく、地面に這いつくばるように建ち並んでいる家も標的になっている。

 そこここで小さな火の手が上がっているが、夜であっても瘴期の対応で起きている住民が多く、燃え広がりはしない。

 しかし、このままトビオオトカゲが火を吐き続けて火災が広がるか、地上に下りて暴れ回ったら、パニックになるだろう。


(埒があかないな)

 トビオオトカゲがどこに下りても対処しやすいようにと、村の中心部に来たレーヌだったが、戦闘の様子を見てそう独りごちた。トビオオトカゲに弓矢や魔術が効かない以上、いつかは惨事が起こるだろう。


 レーヌは心を決めると、魔力を塔の1つの頂上へと伸ばし、瞬間移動でそこに出現した。

 そこには、目を閉じて1人の男が中央に座り、他に4人の男女がトビオオトカゲに矢や火球を放っている。

「わっ」

「誰だっ」

 レーヌの出現と同時に、驚きの声が走る。


「滞在している旅の者ですっ。あのトビオオトカゲを始末しますっ。後のことはお任せしますっ。いいですねっ」

 そう言いながら、レーヌは村の上空を覆うように魔力を展開、さらに村の外に向けて魔力を目一杯伸ばす。

「いや、しかし……」

 魔術士だろう、弓を持っていない女が言い淀んだ。他所者の力を借りることに躊躇があるのか。レーヌは女の言葉に被せるように続ける。

「このままじゃ被害が増えますよっ。上手く倒せてもあの巨体が落下したら、やっぱり大きな被害が出ますっ。いいですねっ」

「あ、ああ、解り、ました……」

 レーヌの剣幕に圧されて、女は頷いた。


 それをレーヌは、村防衛への参加を許可されたものと勝手に解釈、タイミングを計って塔から消える。




 レーヌが瞬間移動で出現したのは、滞空するトビオオトカゲの背中だった。出現と同時に鱗にしがみつく。炎を吐いたトビオオトカゲがまた空を飛び回る。

 レーヌは振り落とされないようにしっかりとしがみつきながら、自分の魔力をトビオオトカゲの体内に送り込む。

(何これっ!? 魔力が通りにくいっ)

 それでも40ミテン(30秒)ほどで魔力を満たしたレーヌはすぐさま村の外に伸ばした魔力の先へ、トビオオトカゲもろとも瞬間移動する。


「ギャギャッ」

 村の畑と畑の間の通路、地上すれすれに出現したレーヌは、魔術でトビオオトカゲを地面に押し付ける。

「ギャギイイイイイイイイイイッ」

 トビオオトカゲの身体が地面を抉る。


「ごめんね。悪いけど、とどめを刺させてもらうね」

 目の隅に、迫って来る2匹のオオカミを認めつつも、レーヌは落ち着いて、トビオオトカゲの下の地面に魔力を伸ばし、引き締めるようにして土を固める。細長く。

 地中に出現した、土を圧縮して作られた槍を、レーヌは勢い良く打ち上げた。

「ピギイイイイイイイイッ」

 地中から現れた土の槍は、トビオオトカゲの硬い鱗をものともせず、その胸を貫いて空中に飛び出した。落ちて来るその軌道をレーヌは魔術で調整する。固められた土槍は、トビオオトカゲの頭を串刺しにした。


「ウオォォォォォォォッ」

 トビオオトカゲを仕留めたレーヌに、2匹のオオカミがタイミングをずらして飛び掛かる。咄嗟に物理障壁を張ろうとするレーヌ。その前に人影が割り込んだ。

「はっ」

 人影が手にした剣を二閃すると、オオカミの首か落ちる。

「レーヌっ。村の中へっ」

「うんっ」

 振り返ったロイの手を掴んだレーヌは、すぐさま壁の内側へ瞬間移動した。



 ∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞



 瘴期は、翌日の昼近くまで続いた。壁にいた村人たちが家へと帰って行く。

 レーヌはトビオオトカゲの鱗で掌に傷を作っていたが大したことはなく、流れていた血もすでに止まっている。


「ありがとね。駆け付けてくれて」

 レーヌはロイに礼を言った。

「当たり前だろ」

「それでも。だけど、どうやって? 門は閉まってたのに」

「壁の上から飛び降りたんだよ。脚を強化したけど、折れるかと思った」

「無茶して大怪我しないでよ」

 ロイは、村長(むらおさ)に協力を申し出た後、すぐに村を囲む石壁に登っていた。弓の腕は大したことはないので、役に立つとも思えなかったが。

 そしてレーヌがトビオオトカゲを壁の外に落とした後、オオカミの姿を認めてすぐに壁から飛び降り、駆けつけたのだった。


 小屋の中でそんなことを話しながら遅い朝食を摂っていると、村長(むらおさ)が、他に数人の住人を連れて2人を訪ねて来た。

 彼らはトビオオトカゲを駆除してくれたことの礼を言い、必要なものがあれば可能な限り融通する、と約束してくれた。2人はありがたくその言葉に甘えることにした。


 村長(むらおさ)の話では、この村にトビオオトカゲが襲来したことは今までになかったらしい。南東に巣があるのは把握しているものの、瘴期はおろか普段でも、村の周辺に姿を見せることはなく、遠くに飛んでいるのを見かける程度だったようだ。


「今回はたまたまだったみたいね」

「たまたまでも、今の防衛態勢のままじゃ、いつか大きな被害が出るだろうな」

「それは対策を考えるって言ってたから大丈夫なんじゃない? どっちにしても、わたしたちには関係ないよ。少ししたら発つんだから」

「まあな。食事終わったら少し寝るか。昨夜(ゆうべ)はあまり寝てられなかったし」

「そうだね。久し振りに屋根のあるところで休めるんだから、しっかり休んでおこうか」


 急ぐ旅でもない。ロイとレーヌは今日1日を休息に当てることにした。



■作中に出てきた単位の解説■


時間の単位:

1ミック=80ミール

1ミール=80ミテン


1ミック≒1時間

1ミール≒1分

1ミテン≒1秒  の感覚です。


日本と単位が違うので、例えば40ミックと言っても感覚として40分の場合と30分(=0.5時間)の場合があります。そのあたりの感覚は、ルビで察してください。



■動物図鑑■


トビオオトカゲ:

 全身を硬い鱗に覆われ、前肢が長大な翼になっている大きな獣。体長40~50テール(4~5メートル)。翼を広げると、100テール(10メートル)近くにもなる。爬虫類ではなく、恒温生物。口から炎を吐くが、実際には口の前に魔力で炎の球を作り、口から吐いた(ブレス)で前方に広げている。

 種類によっては、背中に大きな鰭があったり、頭部に二本の角が生えていたり、と形態の違うものが存在する。


 ご想像の通り、「異世界転移 ~変貌を遂げた世界で始まる新たな生活~」 https://ncode.syosetu.com/n8574hb/ に登場した飛竜と同じものです。

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