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黄昏の国 ~終焉を迎える世界の運命に抗う少年と少女の物語~  作者: 夢乃
第一部 終末の迫る世界に足掻く少年
17/54

1-017 城塞村落

 川に沿って歩き始めてから7日目、昼の食事を摂り、水袋をいっぱいにして、ロイとレーヌは川から離れて南東を目指した。

「1日で着けるかな。明日か明後日あたり、また瘴期だよね」

「そんな時期だよな。地図の通りなら、村まで30テック(キロ)くらいだから、ぎりぎりだよな」

「少し急ぐ?」

「うーん、いや、やめておこう。歩調はなるべく狂わせたくない。それよりは、陽が暮れた後も1ミック(時間)くらい歩くようにしよう。レーヌが警戒して、オレが道を照らせば、問題なく進めるだろ」

「それで行こっか」


 今、目指している村は、大きい、と言うことをロイは聞いている。しかし、どの程度の規模なのかは、ロイが聞いた老人も知らなかった。何しろ、村に伝わっている地図に載ってはいても、ずっと没交渉なのだから当たり前だ。前回の村のように、廃墟になっている可能性も否めない。そもそも、地図がどこまで正確なのかも判らない。


 それでも、ただ漫然と南西を目指すよりは、何かしら目標があった方がモチベーションを維持しやすい。それに、どこまでも荒野が広がるだけの大地では、現在地点が判りにくいから、それを確認できる人の暮らす村は、2人の旅にとって重要地点と言える。


 途中で見つけた小動物を狩って、減ってきた食肉を補充しつつ、2人は歩いた。陽が沈む前に雲が出てきたが、幸いにも雨に降られることはなかった。



 ∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞



 先にそれを見つけたのはロイだった。

「あれは……何かな」

 進行方向よりもやや右、緩やかに波打つような荒野が広がる中に、やけに平らな地面が見えた。

「どれ? ……あ、あれね。山って言うよりは丘かな……にしては、綺麗に平らになってるみたいだけど」

「方角もそう変わらないし、行ってみよう」

「うん」


 進行方向を修正して歩くこと、およそ1ミック(時間)。2人の前には、頑丈そうな柵に囲まれた、広い畑が広がっていた。そして、畑の向こう側に見える、巨大な壁。

 柵の内側では、何人かの人々が畑仕事に精を出している。他に、柵の具合を確かめている人もいる。

 この柵はおそらく、瘴期に襲って来る獣対策だろう、とロイは見当を付ける。同時に、瘴期の時に満足に戦えるのだろうか、とも。


 何しろ、畑が広い。その広い畑が区画分けされ、区画ごとに柵で囲まれている。そうなると、防衛は畑の外で、ということになりそうだが、それでは範囲が広すぎて、十分な剣士や魔術士を確保できるとは思えない。

 前に見える壁の内側が村だとすると、住民はかなり多いと思われるが、それでも、獣の駆除に当たれる人間はそう多くないだろう。それに、10ミック(時間)続く瘴期の間、ずっと警戒と戦闘を続けるわけにもいかないだろうから、どうしても交代要員が必要になる。それだけの人数を揃えられるほど、この村は広いのか。


 しかし、考えていても始まらない。ロイは、レーヌと共に柵の手入れをしている村人の1人を目指して、歩いて行った。

「すみません、ここ、村ですよね?」

 ロイが聞くと、村人は仕事の手を止めて頭を上げた。

「ああ、そうだよ」

 邪険にするようでもなければ、歓迎するようでもなく、淡々と村人は言った。

「オレたち、旅をしてるんですが、何日か村に滞在できますか?」

 ロイは丁寧に聞いた。


「さあ、大丈夫なんじゃないか。門番に聞いてみなよ。柵に沿って行けば村に入る道があるから」

 それだけ言うと、村人は作業に戻った。

 ロイは礼を言って、レーヌと共に壁に囲まれた村の入口へと向かった。

 壁は村を円形に囲んでいて、何ヶ所かに門があるようだ。


「大きいね……高さは30テール(3メートル)……40テール(4メートル)はあるかな……」

 柵と柵に挟まれた道を歩きながら、レーヌは目の前に迫る壁を見上げた。

「門も大きいな。荷車が通れるようにしてるんだろうけど」

 畑と壁の間は、1テナー(10メートル)ほどの距離が空いている。壁が壊れた時の修繕のためには、これくらいの広さは必要だろう。


 門の右傍に、男が1人立っている。柵の点検をしていた村人の言っていた、門番だろう。武装してはいない。瘴期でなければ危険はないだろうから、それも頷ける。

 ロイは、門番に近付いて、先程と同じことを聞いた。

「旅? 物を売っているとかじゃなく?」

 門番は、2人が旅人だということに驚いた。当たり前だろう。村と村はそれなりに距離が離れている上、およそ10日おきに瘴期に襲われるのだ。近くの村に用事でもあるならともかく、それ以外で長距離を移動しようと思う者はいない。


「ええ」

「そうかい。物好きや奴もいるんだな。いや、失礼」

「いえ、いいんですよ」

 自分でも物好きだと思っているロイは、気分を害することもなく答えた。

「村には入って構わないよ」

「ありがとうございます。それで、しばらく滞在したいんですが、空家とかありますか?」

「空家は……あったかな。でも、隣村の奴らが来た時に泊まる家があるから、そこを使いな。案内してやるよ」

「ありがとうございます」


 門番は、2人に着いて来るように言って、村の中へと歩き出した。

「あの、門を離れていいんですか?」

 レーヌが聞いた。

「ん? ああ、子供が勝手に出て行かないように見張ってるだけだからね。今は外で畑仕事をしてる奴もいるし、少しくらいなら構わないよ」

 少し歩いたところで、門番は子供を呼び止めて、二言三言、言葉を交わすと、また歩き出した。子供は別の方向へ向かって駆けて行った。


「今のは? 聞いて良ければ」

 今度はロイが聞いた。

村長(むらおさ)にあんたらが来たことを伝えに行ってもらったんだよ。来客は知らせておかないとな。そうだ、あんたら、何か珍しい物持ってるかい? あるなら食べ物とか融通できるが」

「あ、はい。ここで珍しいか判りませんが、獣の皮がいつくかと、オオトカゲの鱗があります」

 レーヌが答えた。薫製肉はそれほど多くないし、自分たちで消費する分でもある。


「オオトカゲの鱗か。そいつはいいな。倉庫へ行けば、結構な食い物と交換してもらえると思うよ。場所は、そこらの奴に聞けば判る」

「解りました」

 これまでのところ、肉には困っていないものの、野菜や穀物といった物はあまり採れていない。この村で、皮や鱗と交換しておくのもいい。


 門から歩いて1ミテン()も離れていない小屋に、門番は2人を案内した。

「ここを好きに使ってくれ。水は、井戸が2ヶ所ある。場所はそこらの奴に聞いてくれ。火の扱いには十分気をつけてくれ」

「解りました。ありがとうございます」

 門番は、軽く手を上げてから戻って行ってた。


 ロイとレーヌは小屋の中に入った。ひと部屋だけの単純な造りで、家具と呼べる物は何もない。入口正面に竃が1つ。何かの動物の毛皮が4枚敷かれているのが見える。それに桶がいくつか。

「何もないね」

「まあ、雨風が凌げるだけで十分だよ」

「そうだね」


 窓はあるが、木戸が閉まっていて光は入口からしか入っていない。レーヌは荷物を入口の近くに下ろすと、壁際の窓の木戸を開けた。ロイが入口を閉めて荷物を下ろす。

「ここでどうするの?」

 床に座って、レーヌが聞いた。

「まずは身体を拭きたいな」

「そうだよね。わたしも浄化だけじゃ物足りないし、身体拭きたいな。それと、服も消毒だけじゃなくて洗いたいし」


「それと情報収集だな。ここでの瘴期の言い伝えとか、この先の地図とか、近くに別の村があるかどうか、そんなことを調べないと」

「別の村と交流はあるみたいだけど、方角は判らないもんね。それと、ここにいる間の食べ物の調達もしなくちゃ。門番さんの話だと、オオトカゲの鱗がいい取引材料になりそうだね」

「ああ。あと、瘴期の時、この村でどんな対応をするのか確認しておいた方がいいよな。オレたちで手伝えることもあるだろうし」

「あ、そうだね。次の瘴期、明日か、早ければ今夜には来るはずだよね」

「そのためにも、少しは休んでおきたいし」


 すでに昼をかなり過ぎているから、休息を考えると、今日は大したことはできないだろう。2人は相談した結果、レーヌが水と食料を調達し、ロイがこの村の瘴期の対応について情報を集めることにした。



 ∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞



「ここは基本的に、瘴期の間は壁の内側に閉じ籠もるんだそうだ」

 肉と、レーヌが調達してきた野菜で作ったスープを口に運びながら、ロイは聞いてきたことを言った。

「ふうん。でもあの壁、5テール(50センチメートル)くらいの厚みだったよね。クマとか来たら、壊されそう」

 レーヌは門を抜けた時の光景を思い出しながら言った。

「それは魔力を併用するんだってさ」


 ロイの聞いたところでは、壁の内側から壁に魔力を送り込むことで、壁が強化される。ただの石壁ではなく、魔術で何らかの仕掛けがあって、魔力を送り込むだけで強化されるらしい。

 同時に、壁に送り込んだ魔力が結界の役割を果たし、瘴気の侵入を防ぐ。

「ふうん。あ、でも、空はどうするんだろう? それと地面も」

「この村、地面も石が敷いてあるだろ? 同じように魔力を通すんだってさ。空だけは、結界士が結果を張るそうだ」


 村の中の地面が石でできていることは、レーヌも気付いていた。いや、入口から入った時には気付かなかったのだが、水をもらうために外に出た時に気付いた。


 そして、獣の防衛に関しては、入口は丸太を組み合わせた門が閉まり、門の隙間から弓矢で対抗する。空から来る鳥類も、弓矢で仕留める。

「ふうん。じゃ、わたしたちの出番はなさそうだね」

「ああ。それに、あまり手を出して欲しくはなさそうだった。客人の手を借りて瘴期を凌いでも、旅立った後の防衛が不安だ、ってなことを言ってたな」

「それは確かにそうだね。でも、警戒はするんでしょ?」

「当然だよ。何事にも万一ってことはあるからな」


 質素な食事を終えた2人は、マントに包まって毛皮の上に横たわった。久し振りに、安心できる家の中での眠りだった。



■作中に出てきた単位の解説■


距離の単位:

1テック=100テナー

1テナー=100テール


1テック≒ 1キロメートル

1テナー≒10メートル

1テール≒10センチメートル の感覚です。


時間の単位:

1ミック≒1時間 の感覚です。

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