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黄昏の国 ~終焉を迎える世界の運命に抗う少年と少女の物語~  作者: 夢乃
第一部 終末の迫る世界に足掻く少年

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1-012 最初の村

 村を出た2人は、南西に向かって何もない荒野をひたすら歩いた。

 何もないと言っても、そう見えて荒野には色々なものがあった。平坦に見える地面も歩いてみると起伏があったし、そこここに灌木が生え、繁みもあった。それでも、目標物に乏しいことに変わりはない。


「南西を目指すって言ってたけど、ただその方角を目指すだけ? 方角以外の目標って何かないの?」

 歩きながらレーヌは聞いた。

「まるっきりないわけじゃない。この方向に120~130テック(キロ)くらい行くと、小さい村が1つあるらしい。さらにその先にも、方角は少しずれるけど、もうちょっと大きい村があるってさ。地図を写させてもらったから、休憩の時に見せるよ」

 ロイも足を止めずに答えた。


「休憩も考えると、1ミック当り4テック(時速3キロメートル)くらいで進めるかな? 1日10ミック(時間)歩くとして……4日あれば着けるかな?」

「順調に進めばな。地図が古いし、途中で何かあるかも知れないから、もう少しかかるかも」

「水と食べ物が5日分だから、時間がかかりそうなら何か考えないとね。植物が生えているから、なんとかなるとは思うけど」

「水がなくなる前には村に着きたいな」


 2人の住んでいた村とその村とは交流しているわけではないから、今も存在しているかは行ってみないと判らない。こんな世の中だ。井戸が涸れて村が滅びている可能性もある。しかし、そのことにはロイもレーヌも敢えて触れなかった。

 その、百数十テック(キロメートル)先にある村が目的地というわけではなく、目的とする方角にその村がある、それだけのことだ。村があれば水や食料の調達を期待できるから、あるに越したことはないが。


 件の村とも、以前は往き来があったということを、ロイは村の老人から聞いていた。しかし、少なくともここ40年は人の往来がないらしい。なんでも、件の村とロイたちの住んでいた村は、作物や森の恵が似通っているらしく、しかも間瘴期の往復がぎりぎりになるので、自然と交流がなくなったそうだ。

 また、こちらとは反対側、東方30テック(キロメートル)ほどの距離にある村が果樹を栽培しており、そちらとの交流を優先したことも理由の1つだろう。


 ともあれ、2人は最初の目標地点となるその村を目指して、歩みを進めた。



 ∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞



 2人は、適当に休息を取りながら、先を目指した。目的はあるものの、はっきりとした最終目的地のある旅でもないから、先を急ぐ理由はない。しかし、ロイの足は自然と早くなった。

 瘴期が世界の終末の前触れだと言うのが事実なら、世界が滅びる前に瘴期の原因を突き止める必要がある。それを思うと、ロイの気は急いた。

 1つ歳上のロイの足に、レーヌは遅れずに、やや後ろをついて行った。ロイがレーヌに冷たく当たるようになって以来、ロイに並べるように努力を重ねて来たのだ。歩みが早いなどと文句を言ってはいられない。

 そして、レーヌの足も、彼女の思いに良く応えた。


 陽が西に傾いてくると、早目に休めそうな場所を探して野宿の準備をする。遮蔽物のない荒野の真ん中で眠るほど、2人とも豪胆ではない。大きな岩の陰、森の端の木の根元などを探して、交代で見張りをしながらマントに身を包んで夜を過ごした。

 一度、肉食獣に襲われたが、2人の敵ではなかった。5匹で襲って来たオオカミの1匹を仕留め、残りは威嚇すると去って行った。仕留めたオオカミは血抜きをして皮を剥ぎ、肉を捌いた。剥いだ皮は(なめ)して荷物に入れ、肉は燻して燻製にし、消費した食糧の足しにした。


「やっぱり、動物を殺すのは嫌か」

 ロイは、肉を燻している火の様子を見ながら、レーヌに言った。

「別に、できないわけじゃないけど。無駄に命を奪う必要はないかなって思ってるよ」

「だけど、()らなきゃこっちが()られるだろ」

「そういう時は躊躇しないけどね。でも、退散させられるなら無理に命を取る必要はないよ。今だってさ、オオカミ5匹全部を倒しちゃったら、わたしたち2人で持ち運べない分が無駄になっちゃうじゃない? それなら逃して後で狩った方がいいし」


「……そんなことを考えてとどめを刺さなかったのかよ」

「そうだよ。獲り過ぎて傷んじゃったら勿体ないし、生かしておけば後で獲れるもん」

「……意気地のない奴と思ってたけど、オレよりずっとえげつないな」

 ロイは、レーヌを初めて見るような目付きで見た。

「えげつないって何よ~。みんなの生活を考えてるだけだよ」

「……そう言うことにしておくよ」



 ∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞8∞



「あ、あれじゃない?」

 旅を始めて5日目の昼近く、レーヌが進行方向右手に人工物らしき影を見つけた。

「そうみたいだな。距離は判るか?」

「これだけ見えるから4テック(キロ)は離れてないと思うけど……ちょっと待って」

 レーヌは村と思われる影をじっと見つめた。魔力を目一杯伸ばして距離を測っているのだろう、とロイは目星を付けた。


「うーん、少なくとも2.5テック(キロ)以上は離れてるよ」

「そうか。そこそこ離れてるな。ってかレーヌ、また魔力の拡散範囲が広くなってないか?」

 ロイは感心したように言った。

「うん。最近は伸びが悪いんだけどね。そろそろ限界かなぁ」

「まだ14になるとこだろ。まだまだ伸びそうだよな」

「だといいんだけどね。これからロイだけ成長して、わたしが頭打ちじゃ情け無いし」

 オレはむしろレーヌに追いつける気がしないんだけどな、とロイは思いつつ、口には出さなかった。


「それじゃ、あそこを目指そう。一度休んで、1ミック(時間)とちょっとで着けるかな」

「そうだね。じゃ、行こう」


 村と思われる場所を目指して方向を転換した2人は、途中で休憩を取り、目標に近付いて行った。




「……ねえ、何かおかしくない?」

 先に疑問を口にしたのはレーヌだった。

「だよな。昼間なのに村の外に人影はないし、それに柵や家も、壊れているように見えるし」

「……もしかして、廃村?」

「……にも見えるな。とにかく、行こう。注意しろよ」

「うん」

 ロイは周囲に目を配りながら、レーヌは周りに魔力を広げて、2人とも警戒を緩めずに村へと近付いて行った。


 村の周りには畑はなく、荒野のままだった。いや、よく見れば歩いて来た荒野とはやや植生が異なる。元々畑だったところが放置された結果のようだ。

 村の周りは元々柵で囲っていたようだが、大部分が朽ち、見る影もない。それは家も一緒で、ほとんどの家の壁は崩れ、辛うじて柱が立っている程度。


「井戸が涸れたか野菜が採れなくなって、どこかに移ったのかな……?」

 レーヌが言った。自然と声が小さくなっている。

「解らない。調べてみよう。1人で大丈夫か?」

 ロイが警戒を解かずに言った。

「うん。じゃ、奥の方調べればいい?」

「ああ。オレはここら辺から見てくよ。何かあっても無くても、40ミール(30分)後には、ここに集まろう」

「うん、解った」


 2人は別れて、廃村を探索した。

 ロイは、近くから家の残骸を1つ1つ見て回る。1軒にそれほど時間をかけられないが、その必要もなかった。壁は崩れ、残っている柱も触れるだけで揺れ動いた。

 残っている壁や柱には、いくつもの傷がついていた。普段の生活でつく傷にしては、深く、数も多かった。

 人の姿はまったく無い。しかし、何軒目かで白骨化した遺体を発見し、眉を顰めた。白骨はその後も、何個か見つかった。


 レーヌは、魔力を広げて広範囲を調べた。まずは真っ直ぐに村の中央部へと歩く。予め魔力で視ていたが、井戸を確認した。崩れて埋まっているが、水源は涸れているわけではなさそうだ。

 それから村を通り抜け、反対側に出る。ここも柵の残骸の向こうは荒野になっていたが、入って来た側とは少し違っていた。ひと抱えほどの大きさの石が何個も無秩序に置かれている。


(これって……お墓?)

 何個も置かれている石に、レーヌはそんなことを思った。少し違和感を覚えたのは、彼女の暮らしていた村では少し離れたところに墓を作っていたことだ。もっとも、不審に思うほどでもない。単に習慣が違うだけかも知れないし、そもそも墓標ではないのかも知れない。


 2人はそれぞれ村の探索を続け、40ミール(30分)が経つと、最初に入った村の入口近くで落ち合った。

「そっちも人はいなかったか」

 近くの石に腰を落ち着けて、ロイは言った。

「うん。あ、あっちの家、何軒かに髑髏があったけど」

 レーヌも白骨死体を見つけていた。

「こっちにもあった。井戸は?」

「あったよ。崩れてほとんど埋まってたけど、地下に水も残ってた。棄てた感じじゃない、よね」

「ああ。死体といい、壁や柱の傷といい、何かに襲われた感じだな」

「瘴気に()てられた獣、かな? でも、それで全滅したとすると、死体の数が少なすぎない?」

「そうなんだよな。それと気になったんだけど……」

 ロイは言い淀んだ。


「何?」

「ああ。古くて判りにくいけどな、壁や柱、それに遺体の骨に残っていた傷も、剣によるものが多かったんだよ」

「剣? 獣の爪や牙じゃなくて?」

 レーヌは、ぱっとロイを見た。

「ああ。そういうのもあったけど、それほど多くはなかった」

「じゃ、人がこの村を襲ったってこと?」

「判らない。人が襲ったとして、死体の数から全滅したとは思えないし、それなら、残った人はどこに行った?」

「連れて行かれたとか? でも、近くにほかの村もないし、そんな遠くまで連れていけないよね……あ」

「何か思いついた?」

 今度はロイがレーヌに目を向けた。


「うん……村の反対側、村のすぐ外にね、お墓みたいなところがあったの。村のすぐ横だったから変わってるな、わたしたちの村と習慣が違うのかな、って思ったんだけど、誰かが埋葬したのかな?」

「墓があったのか……あるかも知れないな。誰かに襲われて全滅して、その後で立ち寄った人が埋葬した、とか」

「でも……誰が? 次の村、わたしたちの村より遠いんだよね」

「いや、ここから西の方、もうちょい近くに村があるらしい。方向がかなり違うから言ってなかったけど」

「ふうん。その村の人が埋葬したのかな」

「さあな。埋葬したのが誰かってのもあるけど、人が襲ったとしたら誰が、何で、ってのも判らないけどな」

「だね。本当、何があったんだろう? 10年以上は前だよね」

「廃れ具合からするとそんな感じだな。40年くらい前にはオレらの村と交流があったらしいし、その間に何かあったのかな」


 推測はいくらでもできるが、正解はない。2人は、適当なところで考察を打ち切って、今後の方針を決めることにした。



■作中に出てきた単位の解説■


距離の単位:

1テック≒1キロメートル の感覚です。


時間の単位:

1ミック=80ミール


1ミック≒1時間

1ミール≒1分 の感覚です。


日本と単位が違うので、例えば40ミールと言っても感覚として40分の場合と30分(=0.5時間)の場合があります。そのあたりの感覚は、ルビで察してください。

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