97.妖魔と人間
有栖川凛は、静かに周りをうかがった。
破邪士全員の顔を確認する。伍代の姿がないことも、悟った。
何が起こったかを心得ているようだった。
そのまま進み、妖魔の3人の元に来た。
「龍虎、生きているのですね」
龍虎は、天守に視線を合わせた。
「有栖川……。この史竜だけは見逃してくれないか……?」
「何を龍虎様、それは私のセリフです」
手で制した天守は、エリスの背中に手を触れた。
すると天から白い光が降り、エリスの身体を貫いた。
「お、おのれ有栖川! 死者を愚弄するか!」
史竜が怒りに立ちあがろうとした時、龍虎は気づいた。
「エリス……?」
エリスの心臓が動き出したのだ。
「有栖川、お前、エリスを蘇生したのか?」
「この妖魔、エリスには、まだ微かに生体反応が残っていました。間に合いました」
「なぜ??」
龍虎は訊かずにはいられなかった。
「もう、いいでしょう。龍虎。人間と妖魔は、戦い過ぎた。貴方と私が話し合える関係ならば、もう、戦わなくていいでしょう?」
「うぅ……」
龍虎の目には、涙がにじんだ。
「うおおおお! うおおおお!」
咆哮のような叫び声をあげ、龍虎は右手で目を覆いながら、泣いた。
史竜も傍らで、涙をこぼした。
「伍代、これでいい?」
天守は空を仰ぎながら、呟いた。
その場にいた破邪士の誰もが我に返り、伍代の死を、悲しみを、噛み締めた。
さわやかな雨上がりの風が、皆の頬を優しくなでた。伍代の賛意に思えた。
「そして天登、彼らを見逃してくれる?」
天守が尋ねた。
「はい。戦いは終わりました。伍代さんが、終わらせてくれましたから」
天登はなんとか立ち上がり、答えた。
「ありがとう」
◇
「龍虎、聞きたいことがあります」
史竜に支えられた龍虎は、天守の方を見た。
「あなたは、妖魔の王であり、非情にも、人間社会へ酷い攻撃を続けてきました」
「あぁ」
「私達破邪士は、そんなあなた達と全力で戦ってきました。殺した妖魔も、数知れません」
「何がいいたい? 有栖川凛」
「私は、近頃、思うのです。人間と妖魔、ここまで混血が進んでしまえば、もはや、両者は、一つの種族に近づいているのではないかと」
「……」
「人間自体、いろいろな人種があり、姿や気性も大きく異なるもの。それらの混血は世界中で進んでいて、古代から純血を保っている民族なんて、あるのでしょうか。そもそも、交配して子をもうけられる時点で、人間と妖魔には、本質的な違いは、無いのではないか。いつか、血の濃さの違いというのは、個性と呼べるものにまで、なってくるのではないか」
「お前は、人間と妖魔は、同じだと言うのか」
「そこまでは、まだ言えません。しかし、いつか、そんな日が来るのでは無いかと、しきりに思うのです」
「俺は、お前のように考えたことは、一度たりとて、ない」
「そうですか。しかし、天登が指摘した通り、あなたが、史竜や、エリスに向けている想いには、全く邪気を感じませんよ?」
「お前達人間に、この感情の意味がわかってなるものか」
「そう、今は、わからないかもしれない。しかし、私は、わかりたい。わかろうと、努力したいと思います」
「……」
「龍虎。最後に、一つだけ、教えてくれませんか?」
「何だ?」




