93.獅子王丸
天登は獅子王丸の柄に手をかけた。
吸い付くように柄が手に収まり、にわかに手が熱くなっていく。
そして、眩暈がした。
剣が心気を貪欲に吸い込んでいる。急激に身体中の血を吸われているようだ。
足がもつれそうになるのを何とか堪え、両手で獅子王丸を引き抜いた。
まるで天登を嘲笑うかのように、獅子王丸は赤黒く輝いている。
天登が思わず膝を折ったとき、剣から再び伍代の声が聞こえた。
(お前の弱点は、内に秘める豊富な心気を発揮しきれていないことだ。修行で出せるようになるのが本筋だが、もう一つの方法が、武具だ。武具は心力の発現器の側面がある。強力な武具ほど、使いこなすのにばかみたいに心気を食う。逆の見方をすれば、心気の放出口になるというわけだ。この獅子王丸は、そんな武具としては最高峰。妖魔殺しの魔剣だ。恐ろしく心気を吸うが、その分の威力は何十倍にもして発揮される。心気量から俺しか使えなかったが、おまえなら、使いこなせる可能性がある。おまえがこいつを使いこなせれば、今は細かい網の目から漏れ出ているような心気の出方が、ホースで大量に放水するようにほとばしるようになる。龍虎に勝てるとすれば、この手しかないだろう。お前に、全てを託す!)
「やるしかない。ですよね。やりますよ、俺。今まで身体がどんなに疲れて傷ついても、心気だけは尽きたと思ったことないです。獅子王丸、使わせていただきます!」
(頼んだ……。天登)
ここで、伍代の声は止んだ。天登は獅子王丸を手に立ち上がった。
「最後は、お前でいいんだな」
龍虎は伍代の技により相当なダメージを負っているはずだが、小柄な身体からは思いもよらない圧倒的な威圧感を加えてくる。
斜に構えたまま、天登は龍虎を睨み据えた。
「龍虎、おまえは、俺たちとの戦いを終わらせに来たんだろ?」
「あぁ、そうだ」
「俺も、もうこんな戦いは、終わらせたい」
「意見が合うな」
「そのためには、お前を倒さなければならないことは、わかる。しかし、お前は仲間の妖魔を想っている。それは俺たち人間が、仲間を、家族を、友人を想う心と同じじゃないのか?」
「妖魔が妖魔を想う心を、人間同士のそれと同じにするな。俺たちの繋がりは、仲間ごっこではない」
「違わない。俺にはその違いなんてわからない。どちらも、強い絆のはずだ」
「絆?」
「そうだ、絆だ。他者を想う心は、全て絆の力でできている。それは、妖魔と人間の間にだって、生じる」
「不愉快だな。妖魔を人間と同じにされては。おしゃべりはもうたくさんだ」
龍虎は力を溜め始めた。気を抜くと一瞬で意識まで飛ばされそうな妖気が、無数に鋭く、降りかかる。
天登は腹を括った。
「行くぞ獅子王丸! 俺に力を貸してくれ!」
獅子王丸の赤黒かった刀身が、天登の心気の色である真っ青に輝き出した。
そして父のペンダントも獅子王丸に呼応したのか、眩い光を放ちはじまた。
その光はやがて天登をも包み込み、全身が真っ青に輝いた。
「行くぞ龍虎!」
天登は青い球体となって龍虎に突っ込み、両手で上段から剣を振り下ろした!
龍虎は自らの髪の毛をちぎり、叫んだ!
「竜の牙!」
みるみる髪が剣と化し、天登の切り込みを受け止めた!
「ぐぐぐっ!」
しかしそのすさまじさに圧倒された龍虎の剣は、真っ二つに折れ、砕けた。
「す、すごい。これが獅子王丸の力」
樹々《じゅじゅ》が呟いた。
瑠川が驚きの声を出した。
「剣もすごいけど、あれを使いこなす天登も人間離れしているわ。伍代さんも、あそこまで剣と一体になった姿を見たことない。あの子の心気量は、なんて底無しなの……」
再び龍虎は竜の牙を作り出した。今度は二刀流だ。
「見かけだけではないようだな。相手をしてやる!」
龍虎の高速の斬撃が飛んでくる!
しかし天登には、その太刀筋がはっきりと見えた。
獅子王丸が敵の狙う箇所を瞬時に見抜き、天登に伝えてくれるようだった。
「青天の太刀、昇り火!」
下から切り上げるこの技で、天登は龍虎の剣を二本とも一気に砕いた!
龍虎は跳び退き、距離をとった。




