90.伍代の覚悟
動ける全員がこの場に集まり、伍代と龍虎の戦いを見守っていた。
助けに入りたかったが、皆満身創痍で心力が枯渇した状態のほか、万全であっても戦いのレベルが段違いで、足手まといになることは明白だった。
「俺のクラスター妖気弾を受けて立っていた者は初めてだ。ほめてやろう。史竜でもお前の相手は務まらなかっただろう。しかし俺との力の差は歴然だ。まだ続けるか?」
「万に一つも勝てるとは思ってなかったが、ここまで差があるとはなぁ」
伍代は笑みが込み上げてくる様子だ。
「なぜ笑う?」
「俺は、古いタイプの破邪士だった」
「……」
「自分の強さを試すことが大事だった。そのために任務と聞けば飛んでいき、妖魔を狩りまくっていた」
「それが、有栖川凛の考えに触れた。新天守は、俺が見えない、先にある何かを見ていた。俺より一回りも若い、当時10代の少女がだ。俺は、新天守の考えに触れ、己の力を振るうだけでは、人間は妖魔に勝てない事を痛感した」
「振るおうが、振るおまいが、お前は俺に勝てないではないか」
「あぁ、俺は、勝たなくていいんだよ。俺が勝たなくても、有栖川凛を頂点とする破邪士団が、お前を必ず倒してくれる」
伍代は両手を広げた。
「天守ほどじゃなくても、30m四方ぐらいなら、俺でもやれる。破天結界!」
龍虎は頭の奥をつん裂くような耳鳴りを覚えた。
伍代と自分の間にある空間、ごく狭い空間だけ、灰色のペンキを塗りたくったような色合いに変化した。
「天守の結界か?!」
「そんないいもんじゃねぇや。これはろくでなしの結界だ。それに、本家にゃない、ろくでもない機能も付いてる。おりゃ!」
ズンっという大きな音で、結界が少し狭まった。
「!」
「この結界は、徐々に狭めていくことができる。最後はどうなるか、わかるよな?」
「お前も結界内にいる! 道連れにする気か?!」
龍虎は激しい耳鳴りと頭痛に苦悶の表情を浮かべた。
「ろくでなしの俺の命でお前を倒せるなら、安いもんだぜ!」
さらに結界は範囲が縮まる。
それにつれて龍虎の苦痛も増しているようだ。
「させない! 術師であるお前を殺す」
龍虎は髪を抜き、妖気を込めた。
すると髪は鋭い剣に変化した。
「くっ、結界の影響か。これっぽっちの剣にしかできないとは。しかし死にかけのお前を殺すには十分だ。一思いにやってやる。情けだ」
龍虎は伍代に向けて剣を槍のように投げた。
しかし剣は、伍代に当たる寸前で弾かれた。
「俺は今、滅心術を使っている。お前も聞いたことがあるだろう。これを攻撃に向けることも考えたが、俺はそれでもお前には勝てないと悟った。だから今は、滅心術の力を全て、防御エネルギーに振り向けている」
「では、俺の攻撃とお前の防御、どちらが勝るか、時間制限ありのぶつかり合いだ!」
龍虎は被っていたフードを脱いだ。
妖気を溜めるに伴い、緑の髪が逆立った。
そしてクラスター妖気弾を連続して放った。
それぞれが伍代の面前で弾け、無数の手裏剣となって突き刺さる!
さらに龍虎は全身を緑色に輝く妖気で強化し、凄まじく重い打撃を伍代に浴びせる。
伍代は両手を広げ結界を維持しており、防御姿勢は取れないが、滅心術で命を削り、高めた心気を結界に使い、残りを結集して防御に徹している。
しかし、それは気休めでしかなかった。
「おぃ! 伍代政輝! お前はサンドバッグ状態だ! このままだと確実に死ぬ。結界を解け!」
「……、文字どおり死んでもごめんだ……。俺ができることは、これしかねぇ」
大きな音を立てて、また結界が縮小した。すでにスペースは、2m四方になっている。
「この至近距離だとこちらにも被害が及ぶが、やむを得ん!神龍羅漢奥義、龍哭和!」
龍虎は右手を伍代の心臓に突き立てた。すると指がずぶずぶと体内に沈んでいく。
「この技は、物理空間を超越し、筋肉も、骨も、心気も貫通して、指を心臓に達しめる技だ。妖気の多寡は関係ないため、結界下でも効果を発揮するだろう。お前の心臓を、握りつぶす」
「一足遅かったな龍虎。結界は完成だ!破天結界、滅!」
伍代が結界を完成させるのと、龍虎が伍代の心臓をつかみ、取り出したのは、ほぼ同時だった。
眩い光が内部を満たし、伍代も、龍虎も、何も見えなくなった。
伍代は、死が訪れたために視界が無くなったのか、結界が完成したからなのか、わからなかった。
彼の世界は、真っ白になった。




