87.忠義
「こんなものが最高の技なのか。残念だ」
史竜は硬化させた右腕で難なく弾いた。
「ん?」
史竜が目を前に向けると、真空刃が無数に飛んでくる。
「居合切りを連続で放つ技か。なるほど常識外れだ。見事。しかし弱い斬撃が何度来ようが、私には通じない」
史竜は危なげなく次々に真空刃を弾く。
小雪は、真空刃を出し続けながら、一気に史竜に向かって加速した。
そしてさらにペースを上げ、連続して居合切りを放つ。
「? 斬撃が重くなってきたか?」
史竜が異変に気づいた。
「もう遅い!」
小雪は史竜の目の前にいた。
上段から振りかぶった刀は、太陽のようにエネルギーが凝縮され、眩く輝いている。
「白華剣! 無限咲!」
史竜は、振り下ろされる小雪の刀が、まさに今、史竜に届く直前だった真空刃に、重なる瞬間を見た。
「まさか!? これまで無数に放たれた真空刃を全て回収し、刀に蓄積したというのか!?」
「正解!」
小雪は渾身の力で刀を振り下ろした!
両腕を硬化した史竜が正面から受ける!
接触の瞬間、大きな金属音が響き渡った。
「うおおおおおおお!」
史竜が雄叫びをあげる!
「ああああああああっ!」
小雪が刀にますますの心気を送り込む!
そこへボロボロの慶次が立ち上がった!
「鉄芯!」
小雪の刀の峰に、鉄芯で破壊的な力を加えた!
「うおおおおあああっ!」
史竜の腕は堪えきれず、左手の手首が落ちた。
史竜は左手を犠牲にして力を逃し、後ろに飛び退いて、なんとか窮地を脱したのだ。
「ゼェゼェ、ハァハァ」
ドボドボと血を流しながら、小雪と慶次を睨みつける。
慶次は、史竜の様子に早くから違和感を感じていた。
そして今、その正体がわかり、小雪に告げた。小雪はハッとした顔で、うなづく。
「単独でもすごい剣技だが、さらに見事なコンビネーションだった」
言いながら、史竜は切断された左手に妖気を込め、止血した。
「しかし、二度目はない技だ」
「そうね」
「さぁ来い! 手が一本なくとも、この史竜、お前たちに遅れは取らぬ!」
慶次と小雪は、攻撃を再開した。
「音速爆撃!」
「時雨咲!」
2人が連打を浴びせるが、史竜は言葉通り、片腕で受けながら、慶次、小雪へ、先ほどと変わらず、重い打撃を的確にヒットさせてくる。
「くそっ! 片腕でもペースが落ちない! さっきは手加減してやがったか!?」
「無論だ。許せ」
それどころか、攻撃はより深く、抉るように、2人の急所へ叩き込まれた。
史竜は勝負を決しようとしていた。
慶次と小雪は乱打を受けながら、アイコンタクトを交わした。
小雪が、ふいに驚いたように史竜の背後へ視線を送った。
「!!」
なんとその瞬間、史竜は首を巡らし、背後を確認したのだ!
そこには、龍虎が伍代と激しく戦っている姿があった。さきほど変わらず龍虎が優勢だ。
史竜が安堵して首を戻したとき、「よそ見してんじゃねぇよ! 鉄芯!」慶次の大技が、史竜の顔面にクリーンヒットした。
「うごっっ!」
頬骨が砕ける音がし、史竜はよろめいた。
「白華剣! 不知火!」
小雪が袈裟斬りをカーブさせ、S字の斬撃を見舞った!
太刀はスーツで固めた史竜の身体を深々と抉り、肉を切り裂いた! 血がほとばしる!
「ぐっ!」
たまらず史竜は膝をついた。
「ハァハァ。ゼェゼェ」
慶次と小雪は様子を伺う。
史竜は膝を折り、肩で息をしている。
もはや流血を止める妖気を巡らすことは、できないようだった。
「史竜、悪いが、お前が常に龍虎を気にする忠義心を、利用させてもらった」
「あぁ。自覚はあるが、並の者では絶対に見抜けないはずだ。お前たちの、勝ちだ……」
「2人とも! 避けろぉぉぉ!」
伍代の声が飛んできた!
反射的に慶次と小雪が跳ね退いた瞬間、大爆発が起こった!
龍虎が攻撃してきたのだ!
瞬間移動のように史竜の前へ現れた龍虎は、史竜を抱え、次の瞬間には元いた場所へ高速移動した。
「申し訳ございません。龍虎様」
「言うな。何も言うな、史竜」
龍虎は史竜へ妖気を送り込み、激しく続いていた出血を止めた。
史竜は処置のショックで、気を失った。
龍虎はゆっくりと史竜を地面へ寝かせた。
そして、無言で伍代の前へ戻った。




