86.力の差
「師匠への敬意、感謝する」
慶次は史竜へ頭を下げた。
「胴間大海の弟子とその仲間だな。相手にとって不足はなさそうだ。こちらもゆっくりしてはいられない事情がある。まいるぞ!」
史竜が再び筋肥大した! 慶次と小雪へ急接近する!
小雪が技を繰り出す!
「白華剣! 時雨咲!」
流れるような高速の太刀筋で史竜へ無数の斬撃を浴びせる。
史竜は拳を妖気で硬化し、全て受けている。
慶次は拳に心気を込めた。
「音速爆撃!」
小雪に代わって慶次が攻撃する。
これも史竜はなんなく全てを捌くだけでなく、的確に慶次に反撃を当ててくる。
たまらず慶次は、一旦距離を取った。
「胴間師匠が押し負ける相手だ。俺たち単独だとそりゃもたんわな。同時に行くぞ!」
慶次と小雪は2人同時に攻撃を仕掛けた。
「百突き!」
小雪が目にも止まらぬ速さで鋭い突きを浴びせる。と同時に、慶次の音速爆撃が側面から史竜を襲う。
しかしこれも史竜は物ともしない。
全てを捌きながら隙を見て妖気を両拳に上せ、小雪の腹部、慶次の顔面にそれぞれ叩き込んできた。
2人は30メートルも吹っ飛ばされた。
「痛つつ、こりゃきついわ……」
慶次がたまらずこぼすが、小雪も良策は浮かばない。
史竜は悠然と歩み、距離を詰めてくる。
力の差は歴然だった。
「おまえたち、作戦会議はしないのか?」
「へっ、作戦も何も、あんたをぶちのめすだけだっ!」
慶次は再び史竜に挑みかかる。
全力で心気を拳に集め、防御は省みない。
「打撃が重くなった。やるな。しかしそれでは、身が持たんぞ!」
「わかってっけど、これしかねぇだろ!」
慶次の打撃は全てガードされている一方、史竜のパンチは着実に慶次を削っている。
「白華剣、時雨咲!」
背後から小雪が斬り込むが、異常な気配感覚で正確に位置を把握する史竜は、ミスなくかわす。
「俺は狼の獣人だ。五感の鋭さは、人の比ではない」
反撃の後ろ回し蹴りを腹部にもろに受けた小雪は、林の方へ吹っ飛んでいった。
「小雪!」
「仲間を気遣っている暇はないぞ!」
史竜は拳に力を込めた。
「餓狼点穴!」
すさまじい正拳突きに、慶次はガードの上からに関わらず、50メートルも吹っ飛び、旅館の宿泊棟へ突っ込んだ。
一瞬意識が飛んだが、突っ込んだ衝撃で目覚めた。
「……どうした? 終わったか?」
瓦礫を払いながら、慶次はなんとか立ち上がった。
林から、よろよろと小雪が出てくるのも見えた。
遠くで、伍代と龍虎との激しい戦闘がはじまっているのが見える。史竜もそちらを伺っていたように見えた。
「史竜! 俺と師匠だと、どれだけの差がある!?」
慶次が大声で尋ねた。
「愚問だ。貴様もやるが、胴間大海がはるかに上回っていることは、お前にもわかりきっておろう」
「そうだろうな! じゃあこれはどうだ?」
慶次は全身に巡らせていた心気を右手に集中した。すると拳は徐々に黒光りをはじめた。
「これが俺の、『鉄芯』だ!」
「ほぅ。師の技を受け継いでいたか。面白い。避けずに正面から受けてやろう! 来い!」
慶次は一気に駆け出し、助走の勢いをたっぷりとつけた。
「胴間流奥義! 鉄芯!」
史竜は両手ガードで、慶次の鉄芯をまともに受けた。
2人を中心に衝撃波が四方へ伝わる!
「まだまだぁ!」
慶次はなおも身体中から心気を絞り集め、鉄芯に送り、史竜へ衝撃を押し込む。
「ぐぬぬぬぬぬっ!」
史竜は歯を食いしばり、ガードに妖気を集中し、耐えている。
「うおおおおおっ!」
ついに史竜が慶次の鉄芯を弾き返した。
慶次は10mは飛ばされ、背中から地面に叩きつけられた。受け身も取れないほど、精も魂も尽きた状態だった。
「史竜! 私の技も受けろ!」
小雪は林から出た場所で息を整えていたが、史竜に大声で告げた。
「無論だ。来い!」
「私の最高の剣技、見せる!」
「居合……、風の殺気!」
小雪は抜き身のまま真空刃を放った。




