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85.代償

 「代償?」


 「寿命だ。発動されれば、寿命が47年分、縮まるという。心気をその分、前借りすることで帳尻を合わせるからだそうだ」


 「本当に?! そんなの使っちゃったら、瑠川るかわさん……」


 樹々《じゅじゅ》が心配そうな声を出した。


 「あぁ。身の危険が大きい。しかし、あの迅鬼じんきって野郎は、口だけじゃなく、デタラメな強さだ。瑠川るかわさんは、普段のままでは勝てないことを、悟ってる」


 「じゃ、じゃあ……」


 「あぁ。そして、必ず、今ここで、自らの手で迅鬼じんきを殺すことを、瑠川るかわさんは心に決めてるんだ」


 「そんな、それじゃあ、私たちは、見守るしかないってことじゃない……」


 「そういうことだ」


 「ようよう、瑠川るかわ! すげぇ心気じゃねえか! 男は好かんが、お前食うと俺はもっとパワーアップするな! 決めた! 俺はお前を食う!」


 「……」


 「待てよ? 俺はお前の嫁を食ったし、今から俺はおまえを食う。すると、夫婦揃って、俺の糞になるってことか! こりゃあいい! 便所で披露宴でも挙げてろ!」


 「……」


 瑠川るかわに表情はない。


 「おい! 降りてこい瑠川るかわ! 俺ぁ、飛べねぇんだ! 食われに降りてこ……?」


 迅鬼じんきは、何が起こったのか理解できなかった。


 その場にいる誰もが、瑠川るかわの動きを追えていなかった。


 瑠川るかわの右手は、親指が迅鬼じんきの左目に、他の四本の指が右目に、めり込んでいた。


 「……」


 瑠川るかわは、無言で右手を握った。

 メリメリという音がした。

 迅鬼じんきの目と目の間の骨が、抉り取られる音だった。


 「???」


 視界が無になった迅鬼じんきは、まだ理解できていない。


 瑠川るかわは、抉り取った骨を捨て、右手で迅鬼じんきの首をつかみ、左手は迅鬼じんきの右腕を掴んだ。

 するとまるで飴細工のように、迅鬼じんきの右腕は千切れた。

 瑠川るかわはすかさず、もげた腕を迅鬼じんきの口の中へ突っ込んだ。ここで迅鬼じんきは理解が追いついた。


 「むご! むごごごこごご! ぺっ! ぐぎゃぁぁぁぁぁあ!!」


 迅鬼じんきの膝が折れた。


 目と腕の付け根から、血がどぼどぼと溢れている。


 瑠川るかわは、迅鬼じんきの後頭部へ強烈なかかと落としを見舞った。


 迅鬼じんきはうつ伏せに地面にめり込む。

 さらに今度は、両足をじっくりと踏み潰す。

 もはや骨は砕けきり、両脚とも、皮とブヨブヨの肉だけの状態になっている。


 「や、やめろ、殺してくれ! もう殺してくれ!」


 瑠川るかわは、迅鬼じんきの左腕も、念入りに潰した。


 すでに迅鬼じんきの五体で、正常な部位はなくなった。


 「おまえは、おまえだけは、絶対に許せないんだ」


 ようやく口を開いた瑠川るかわは、心気弾を迅鬼じんきでん部に至近距離で放った。

 当たった臀部と下腹部は一瞬で蒸発し、上半身と下半身が分かれた。


 瑠川るかわは、うつ伏せだった迅鬼じんきの上半身を蹴飛ばして、仰向けにした。


 「気分はどうだ?」


 「……、殺してくれ」


 「俺は、今のお前のような、絶望を味わったんだ。大切な人を陵辱りょうじょくされ、命を奪われる者の気持ちが、わかるか?」


 「わかる、わかるから、殺してくれ……」


 「わかってねぇよ……」


 瑠川るかわは、迅鬼じんきの心臓を踏み潰した。


 「がはっ!」


 続けて、頭部も踏み潰した。


 瑠川るかわは干物のようになり、蒸発していく迅鬼じんきをみた。


 「和美。やっと終わった。君のところへ行くまでには、まだ少し、時があると思うけど、ちょっとだけ駆け足をしてみたよ。待ってて。和美」


 瑠川るかわは、普段の姿に戻った。



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