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84.命の価値

 雨が降り出した。


 真宗の遺体から上がる蒸気は、たちどころにかき消されていく。


 背を向けていたにしきは、ふと気配を感じ、振り返った。


 そこには、別の妖魔が立っていた。


 腿から切断された女性の脚、ハイヒールを履いたままの脚を、かじりながら佇んでいる。


 「誰だ……!」


 にしきが再び拳に心気を込めようとした時、誰かに肩をたたかれた。


 瑠川るかわだった。


 「今度は、私の番」


 にしきは、有無をいわせず、下がらせられた。

 肩にすごい力を感じた。


 「瑠川るかわさん、あんたも、因縁なのか……?」


 「まぁね」


 「お、瑠川るかわじゃねぇか。ご無沙汰だなぁ」


 迅鬼じんきが口を開いた。


 「……」


 「ご無沙汰っていやぁ、お前はだいぶご無沙汰だろう? ちゃんと女は抱いてんのか? え?」


 「……」


 「そういや、おまえ、ゲイになっちまったんだったな! じゃあ女いらねぇな!」


 「……」


 「おい! なんかしゃべれよ瑠川るかわ! 知らねぇ仲じゃねぇだろうよ!」


 「……、それだけか?」


 「あぁ?」


 瑠川るかわは女性の脚の肉を食い尽くし、骨をなめた。


 「言いたいことはそれだけかと聞いたんだ……」


 誰の目にも、瑠川るかわに凄まじい心気が宿っていくのがわかった。


 「おまえ、6年前のこと、まだ恨んでんのか? 俺がお前の嫁を殺して食ったことは、妖魔なんだから仕方ねぇだろう」


 「……」


 「だからっておまえがゲイになるこたねぇだろうが。もはや他の女を愛せないからとかか? ギャグだな!」


 「……、そうだったらなんだ?」


 「はっはっは! 図星かよ?! マジでギャグじゃねぇかよ!」


 「俺は、おまえをどうやって殺すかを、ずっと考え続けてきた」


 「あぁ?」


 「それだけだと精神が壊れそうになるからだろう。いつしか、俺は女言葉を使うようになった。それが、俺の精神上のバランスだったんじゃないかと、解釈している」


 「ほんまもんのギャグだな! その方向に行ったお前、むしろすげぇよ!」


 「だが、俺はそのおかげで、精神を保ちながら、新たな力を追求することができた。その覚悟も」


 「あぁ? つうか、おまえゲイ言葉使えよ! なんで男言葉に戻ってんだよ!」


 「俺の新たな力は、これだ!」


 心気が極限まで瑠川るかわに集まってきた。

 もはや限界であるはずなのに、集中は止まらない。


 大地が揺れ始め、次第に瑠川るかわの身体は浮き始めた。


 目は金色に輝き、黒目は青くなった。


 どこか遠くを見ているようだ。


 「滅心術……?」


 にしきが呟いた。


 「しかし、滅心術は……」


 「滅心術って何?」


 樹々《じゅじゅ》が尋ねた。


 「極限まで心力を磨いた破邪士が、何らかの激しい精神的ショックに見舞われた時、心気の質が変化することがある。その結果の一つで、著しい心力の増大を伴うことがある」


 「要するに、破邪士としてとてつもなくパワーアップするってことだな?」


 五右衛門ごえもん瑠川るかわを見上げながら言った。


 「あぁ。しかし、発動には代償がいる」

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