80.史竜の武士道
両者は互いに、すり足で徐々に間合いを詰める。
間隔が4メートルほどになった時、一気に踏み込み、打撃の応酬がはじまった。
両者一歩も引かない。
互いに防御はほぼ取らず、急所のみを狙った攻撃が連発される。
スピードは史竜が上だ。手数によるダメージが、胴間に蓄積する。
「うおおおお!」
胴間がペースを上げるも、史竜はさらに上回ってくる。
胴間は顔面は血だらけになり、身体も深い痣が目立ち始めた。
史竜の攻撃の手は止まらず、胴間はたまらず防御姿勢をとりはじめた。しかし打撃は容赦なく続く。
「くっ……」
たまらず、胴間は膝を折った。
史竜は一歩引いた。
「勝負あったな。私は妖魔だ。降参せねば、お前を殺さなければならない。どうだ?」
「殺されるのはごめんだが、降参もできねぇんだ。お前も、同じだろ?」
「ふっ」
史竜は苦笑し、後ろを振り返った。
龍虎がうなづくのを確認した。
それを見た胴間は、死を覚悟した。
伍代が2人の戦いに決着がついたことに気づき、急ぎ駆け寄ろうとした。
史竜は口を開いた。
「貴様の名を聞きたい」
「破邪士、胴間大海だ」
「そうか。胴間大海。お前には、この戦闘から離脱してもらう」
「?」
胴間が疑問を持った瞬間、史竜の手刀が胴間の首筋を打った。
太い首だが、胴間は一撃で気を失った。
戦いの中で胴間の様子を気にしていた慶次が叫んだ。
「師匠!」
駆けつけ、胴間を支えた伍代が応答した。
「大丈夫だ。気絶しただけだ」
「お前、胴間を殺さないのは、なぜだ?」
伍代が史竜に尋ねた。
「さあな。ただ、龍虎さまが俺に任せてくれたことだ」
「礼を言う。しばし、待て。俺がお相手する」
伍代は胴間を肩に担ぎ、後ろに下がろうとした。
「待とう」
慶次が伍代に駆け寄った。
「伍代さん! 師匠がやられるほどの相手、俺にやらせてください!」
「バカかお前。胴間は超一流の使い手だ。その胴間が力負けした相手を、お前がやれるか」
「じゃあ、2人では?」
小雪が進み出た。
伍代は顔を上げた。
妖魔の群れは、伍代の隊員と、天登が心気弾を自在に使いこなし、見事に抑え込んでいる。
「あっちは大丈夫そうだな」
「おい、史竜とやら」
「なんだ?」
腕組みし、史竜は相手を待っている。
「2人でかかってもいいか?」
「好きにしろ」
「いいそうだ。気張れよ!」
「はい!」
慶次と小雪が返事をした。
龍虎はまだ動かない。
いつのまにか床几机が用意され、腰掛けて戦況をみていた。
しかし、突然龍虎が立ち上がった。
後ろへ10メートルほど下がったところへ、高速で落下してきた物体があり、龍虎が受け止めた。
それは、エリスだった。
空中には、ボロボロになった安藤千夏がいる。
千夏は、伍代のそばへ降りた途端に、膝から崩れた。
「なんとかなったけど、エリスはメチャクチャ強かった……。もう私、心力残ってないよ……」
「ご苦労だった、千夏。あの空からの強力な爆撃は、お前以外、誰の手にも追えなかった」
「ちょっと休むわ……」
千夏は後方へ下がった。
龍虎は、腕の中のエリスの様子をみた。
身体中、ひどい火傷を負い気を失っているが、命に別状はなさそうだった。
龍虎は控えていた妖魔に、エリスの手当てを命じた。
「エリス、よくやってくれた。相手の遠隔攻撃の破邪士も戦線離脱した。ゆっくり休め」




